作品タイトル不明
604話 再びのとっておき
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
戦場から少し離れたところに、モナの姿があった。
五体満足ではあるものの、その顔に生気はない。
汗をびっしりとかいていて……
肌は土気色となり、病にかかってしまったかのようだった。
「し、死ぬかと思った……いや、ホント。今回はやばかった……」
体の一部と魂を分離。
大半をその場に残して、緊急離脱。
そうすることで、なんとか逃げることができた。
以前、アルテラが使った方法だ。
モナが教えたものなので、こちらが元祖となる。
「アルってば、本気で絶級魔法を放つなんて……やばい。本気で私のこと、殺しにきてるし」
さきほどの光景を思い返して、モナはブルリと体を震わせた。
「ま……最終的には私が笑う、ってことだよね」
絶級魔法のおかげで死にかけたものの……
そのどさくさに紛れて逃げることに成功した。
「絶級魔法まで使ったんだから、私のことは仕留めたと思ってるだろうねー。ふふ、アルってばバカだなー。用心深い私が、なんの保険も用意していないと思っているのかな? 確かに今回の遭遇は予定外だけど、いつなにが起きてもいいように、何重にも保険はかけているんだから」
モナはニヤニヤと笑いつつ、ゆっくりと立ち上がる。
「さてと……もったいないけど、研究成果は破棄するしかないか。本当なら持ち帰りたいけど、さすがに、またあそこに戻るわけにはいかないし……よし。さっさとリースのところに戻ろうっと」
モナは転移用の門を開こうとして……
「あれ!? ひ、開けないんだけど……え!?」
慌てていると、後ろで足音がした。
恐る恐る振り返ると……
「悪いが、逃げられないぞ?」
レインの姿があった。
――――――――――
絶級魔法を受けて消滅したと思われるモナだけど……
しっかりと健在だった。
小さな洞窟。
そこに身を隠していた。
「な、なんでキミがここに……!?」
「アルさんのおかげだ」
アルさん曰く……
モナは相当にずる賢いヤツなので、絶級魔法でも仕留めきれないかもしれない。
直撃すれば抗う術はない。
しかし身代わりを用意するなどして、どこかへ逃れる可能性が高い。
なので、周囲を探索してほしい。
逃げたモナは安心して油断しているはずだから、わりと簡単に見つかるだろう。
……という話をこっそりとしておいたのだ。
その後……
アルさんは、転移魔法を防ぐために辺り一帯に結界を展開した。
そして俺は、動物にお願いをして、モナの居場所を突き止めた……というわけだ。
絶級魔法から逃れるために、力の大半を使っているだろうし……
これでもうモナは逃げることはできない。
完全に追い詰めた。
「へ、へはは……いやー、これはまいったね。さすがと言っておくよ。そういえば、アルは昔から用心深くて、抜け目のない性格をしていたっけ」
「おとなしく投降しろ。命の保証はする」
「んー、どうしようかな? 守ってくれるとは限らないからねー」
「余裕があるな?」
「まあねー。こういう時のために用意した保険は……一つだけじゃないからね!」
モナが鋭く言い放つ。
それを合図にしたかのように、彼女の足元に瞬時に魔法陣が展開された。
無詠唱魔法!?
しかも、速い!
「油断が命取り、ってね! 死んじゃえっ」
放たれたのは超級魔法。
異界の幻獣が召喚されて、紅蓮の業火を撒き散らす。
敵ながらタイミングはバッチリだ。
普通なら避ける術はない。
でも……
切り札を温存していたのは、お前だけじゃない!
「ジンライ!」
瞬間、世界から色が消えた。
荒れ狂う炎が迫るのだけど、その動きはスローモーションで遅い。
炎だけじゃなくて、舞い散る木の葉や洞窟の天井から滴る水滴も、その動きを十分の一以下に遅くなっていた。
そんな停滞した世界で、俺だけがいつも通りに……
いや。
いつも以上に速く動くことができる。
世界の法則から自分を切り離して、俺が作り出した理の中で動くことができる。
簡単に言うと、超加速だ。
身体能力だけではなくて、思考も加速。
それにより、相手が予想できないほどの速度で動くことができる。
これが俺の切り札。
スズさん達との特訓で身につけた、新しい力だ。
「……!」
時間がゆっくりと流れる世界で、俺は炎をかいくぐり、モナの懐に飛び込んだ。
まずは一撃。
その腹部に掌底を叩き込む。
そして背面に回り込み、ゼロ距離でファイヤーボールを発動。
さらにダメ押しに、アイギスのワイヤーで縛り上げてやる。
そこでジンライが終了。
世界が元に戻り、時間が正常に流れるように。
「がはっ!?」
打撃と魔法をほぼ同時に食らい、拘束されて……
モナはなにが起きたかわからない様子で倒れた。
「えっ……な、なにが……? うぐ……」
「まだやるか?」
「う……」
クサナギの刃を突きつけると、モナは恐怖に顔を歪めた。
あれこれと保険を用意しているということは、自分の命がとても大事ということ。
こちらの本気を感じ取り、モナは小さく震えた。
その様子を見る限り、保険は尽きたか……あるいは、ここから逆転するものは用意されていないだろう。
「どうする?」
「……降参するよ」
「よし。なら、そのままおとなしくしてもらおう。アルさんを呼んで、力を使えないように封印してもらって……」
「……それは困るな」
突然、見知らぬ第三者の声が割り込んできた。
それとほぼ同時に衝撃に襲われて、洞窟の外に飛ばされてしまう。