作品タイトル不明
603話 とっておき
「地水火風を司る精霊よ。汝の同胞である我が願う。その力を持ち、世界の敵を撃て」
超級魔法でさえノータイムで放つアルさんが詠唱を始めた!?
「汝の力は我のもの。我のものは汝のもの。体と心と魂、全てを一つとして、共に歩もうではないか」
アルさんの詠唱は続く。
彼女を包み込むように、立体魔法陣が展開された。
さらに光の粒子が現れて、ゆっくりと収束されていく。
とてつもない力を感じた。
見ているだけで腰が抜けてしまいそうな……
それほどまでの圧倒的なプレッシャー。
間違いない。
アルさんの言葉はハッタリではなくて……
本当に、絶級魔法を放とうとしていた。
「……ふふ」
一瞬、アルさんがこちらを見て、小さく笑う。
今のは……
もしかして合図だろうか?
「よし」
アルさんの意図を理解した俺は、クサナギをファーストフォームに戻して、モナに突撃した。
ダブルセイバーを回転させて、両側の刃で交互に斬りつける。
嵐を再現するかのように、反撃のヒマを与えることなく攻撃を続けた。
「くぅっ、この……!!!」
さすがというべきか。
モナはこちらの攻撃を全て防ぎ、さばいてみせた。
ただ、その顔に余裕はない。
今までにない、初めて焦りの表情を浮かべていて……
たらりと冷や汗も流している。
モナの視線は、チラチラと俺の後ろ……アルさんの方に向けられていた。
しぶといモナも、絶級魔法なんてものを使われたらひとたまりもないのだろう。
すぐにでも妨害しに行きたいようだけど……
それは俺が許さない。
アルさんの詠唱が終わるまでの時間を稼いでみせる!
「このっ、邪魔だよ!」
「邪魔しているんだから、当たり前だろう」
「呑気な……あんなものが放たれたら、キミも無事じゃ済まないよ!? 地形をまるごとを変えてしまうような魔法だよ!?」
「なら、お前を倒すことができるな」
モナはウソは言っていないだろう。
でも、俺はアルさんを信頼していた。
年寄り呼ばわりされて怒っていたとしても、俺を巻き込むことはしないはずだ。
きちんと安全地帯を用意してくれるはず。
「滅びろ、滅びろ、滅びろ。その身、その魂、欠片も残すことなく、天地万物灰燼と帰す」
……してくれるよな?
やたら物騒な詠唱に、ちょっとだけ不安になってしまうのだった。
「くそっ、付き合ってられないよ!」
モナは、アルさんの詠唱を中断させることを諦めたらしい。
代わりに逃げ出した。
でも、それは許さない。
アイギスのワイヤーを飛ばして、モナの足を絡め取る。
さらに重力操作で地面に引き戻した。
「くうう!?」
「悪いが、逃がすわけにはいかない」
できることなら捕らえて、色々と問い詰めたいのだけど……
それが難しいのなら、ここで倒しておく。
「レイン、そやつを空へ打ち上げよ!」
「了解です! 重力反転!」
ワイヤーは絡めたまま、モナにかかる重力を反転させた。
「わっ、わわわ!?」
ものすごい勢いで、モナが空へ落ちていく。
そして、アルさんの目の前に……ちょうどいい場所に強制的に移動させられた。
二人の目が合う。
「のう、モナ」
「や、やあ、アル」
「妾がババアとか、年甲斐もなく落ち着きがないとか、生意気とか、可愛げがないとか……色々と言ってくれたのう?」
「そこまで言ってないよね!?」
「そして、過去の借り……妾は、やられたらやり返さぬと気が済まぬのじゃ」
「お、落ち着こう、アル。私は別に……」
「というわけで……消えろ」
アルさんは、最後の一言はとても冷たい声で言い放った。
「天地崩壊……パラダイスロストッ!!!」
瞬間、地上に太陽が顕現した。
想像を絶する業火が荒れ狂い、全てを飲み込む。
続けて吹雪が吹き荒れた。
極彩の氷が乱舞して、全てを凍てつかせる。
次に天を貫く竜巻が発生した。
風が幾重にも折り重なって、全てを切り刻む。
さらに大地が隆起した。
百メートルを超える岩の塊が暴れ、全てを殴り飛ばす。
そして、最後に極白の光が降りた。
それはさながら天の裁きのよう。
世界を白に染めて……
光が一点に収束して……
ゴッ……ガァアアアアアアアアアアァァァ!!!!!
極大の爆発。
世界そのものが震えているかのような、激しすぎる衝撃だ。
爆発の影響で、辺り一帯の雲が吹き飛び、空が蒼に染まる。
大地が揺れて、海が暴れて……
天変地異が起きたかのようだった。
そして……
「……うわぁ」
地形が変わっていた。
被害が出ないように、わざわざモナを空中に移動させたのに……
それでも影響は出たらしく、隕石でも落ちたかのように巨大なクレーターができていた。
「むふんっ」
そんな中、アルさんは得意そうに胸を張るのだった。