作品タイトル不明
596話 そんなことは……
「レイン……ダメ」
魔物が望んでいることを理解したニーナは、真っ先に反対した。
「クウのママ……助けて、ほしい」
「わかっているよ」
ニーナとクウの二人を悲しませるようなことはしない。
絶対に助けてみせる。
ただ、どうするべきか?
方法がまったく思い浮かばない。
「レインさん」
迷っていると、ノキアさんが口を開いた。
「あの子を一分ほど、完全に動きを止めることは可能ですか? 指先一つ、ピクリとも動かせないようにすることは可能ですか?」
「できます」
即答した。
ノキアさんには、なにか考えがあるのだろう。
ならば、俺は全力で協力するまでだ。
「お願いします」
「わかりました」
細かい説明を聞いているヒマなんてない。
それに、その必要もない。
ノキアさんを信じる。
ただそれだけだ。
「グァッ!」
親としての理性が失われてしまい、魔物の血に支配されてしまったらしく、再びクウの親が突撃してきた。
でも、真正面からの突撃なので怖くない。
簡単に動きも予想できる。
だから俺は、しっかりと魔力を練り上げて……
「止まれ!」
「っ!?」
ビーストテイマーの力を使い、クウの親を止めた。
ただ、完全ではない。
束縛を打ち破ろうと暴れ、必死に抵抗されてしまう。
魔物になっているせいか、普通の動物に言うことを効かせるようにうまくいかない。
「くっ」
例えるなら、転がってくる大岩を片手で受け止めているような感じか?
必死に押し返そうとするものの、向こうの力が大きく、かなり厄介だ。
でも……
「動くなっ!!!」
動きを止めてみせると、ノキアさんと約束した。
俺はその約束を果たすだけだ。
さらに力と魔力を込めて、二度目の命令を下した。
クウの親はビクリと震えて……
その瞳に敵意を宿しつつ、しかし、動くことができない様子で、時間を切り取ったかのように停止した。
「レインさん、そのままお願いします」
ノキアさんは目を閉じて、なにやら深く集中する。
ほどなくして、小さな亜空間の扉がいくつも開いた。
ノキアさんは、いったいなにをするつもりなのだろう?
不思議に思うのだけど……
でも、ノキアさんなら大丈夫、任せることができる……そんな信頼があった。
そして……
「全て見つけました!」
ノキアさんは目を大きく開いて、同時に片手をくるりと回転させた。
その動きに合わせて、亜空間の扉から黒い粒子が大量に飛び出してきた。
なんだ、これは……?
俺とニーナが驚いている間にも、黒い粒子がどんどん飛び出してきて……
そのまま空気に溶けていく。
三十秒ほどで黒い粒子は完全に消えた。
そして亜空間の扉が閉じて……
「……うぅ」
力ない声をこぼして、ノキアさんが膝をついてしまう。
「ママ!?」
「大丈夫です……少し、力を使いすぎただけなので……」
慌てるニーナに、ノキアさんは疲れた様子ながらも笑顔を返してみせた。
よかった。
本人が言うように疲れているだけで、怪我とかはしていないみたいだ。
それにしても、なにをしたのだろう?
不思議に思っていると、ふと、クウの親の異変に気がついた。
「コンッ」
魔物となっていたクウの親が……元に戻っていた。
体はやや大きく毛先が赤くなっているなど、魔物になっていた影響は見られるものの、それだけ。
ちょっと変わったキツネとして見ることができる。
理性も戻っている様子で、非常におとなしい。
甘えるような感じでこちらを見ていた。
「クウ!」
「あっ」
ニーナの腕から抜け出して、クウが駆けた。
危ない……と思うものの、それは無用な心配だった。
クウの親はとても優しそうな顔をして、我が子を受け止め、その体に頭を寄せた。
そのまま、二匹は親子のじゃれ合いを始める。
「魔物になっていたはずなのに……元に戻った?」
「うまくいったみたいでよかったです」
立ち上がるほど元気になれたのか、ノキアさんがそう言う。
「ノキアさんがなにかしたんですよね?」
「はい。私の力を使い、あの子の中にある魔物の因子を全て外に転移させました。それで元に戻るかどうか、それはわからず、賭けだったのですが……うまくいったみたいでなによりです」
「なっ……」
とんでもないことをさらりと言う。
転移の力を応用して、魔物の因子を取り出すとか……
いったい、どれだけの力があれば、そんな神業が可能なのだろうか?
さすがのノキアさんも、相当に疲れているみたいだけど……
改めて、彼女の底知れない力を知る。
「ママ……あり、がとう」
「どういたしまして。私も同じ母親として、放っておけませんでしたからね」
一件落着、というところか。
それにしても……
「どうして、動物が魔物に……?」