作品タイトル不明
587話 小さなキツネ
「クゥゥ……!」
試しに近づいてみると、キツネは尻尾を逆立てて威嚇してきた。
怪我のせいで攻撃的になっているみたいだ。
「落ち着いてくれ、俺達は敵じゃない」
しゃがみ、目線を近くする。
それから手を差し出して、そっとキツネの鼻先に近づけていく。
「こわく、ないよ?」
「オフゥ」
俺の真似をしたのか、ニーナもしゃがんで手を差し出した。
サクラも似たようなことをする。
「クゥ……」
ややあって、キツネはぶわっと膨らませていた尻尾の毛を元に戻す。
スンスンと鼻を鳴らして、こちらの指先の匂いを嗅ぐ。
まだ警戒しているみたいだけど、少なくとも敵じゃないと認識してくれたみたいだ。
よし。
この調子でさらに警戒を解いてやれば、治療をすることが……
「ボフンッ」
「!?」
サクラがくしゃみをして、それに驚いたキツネが飛び上がる。
一気に後ろへ。
そして、再び尻尾を逆立ててしまう。
「……サクラ……」
「キューン」
申しわけないという感じで、サクラは頭をたれ下げてしまう。
わざとじゃないだろうし、怒ったりしないんだけど……
でも、まいったな。
こうなると、キツネの警戒心はさらに上がってしまう。
エサなんかを使った方がいいかもしれない。
「おい、で」
どうするか迷っていると、ニーナが前に出た。
両手を広げて、優しい笑みを浮かべる。
「だい、じょうぶ」
「クゥゥ……!」
「なにもしない、よ?」
「クゥ……」
「平気……ね?」
「……コンッ!」
完全に警戒を解いたらしく、キツネはニーナに飛びついて、そのまま甘え始めた。
ニーナの優しい笑顔のおかげだろう。
「うん、いい子」
「コン」
キツネの頭を撫でるニーナは、とてもうれしそうだ。
そんなニーナとキツネは、いつも一緒にいたかのように仲が良くて……
素直にすごいと思う。
「というか、ビーストテイマーとしての俺の立場がないな」
やれやれとため息をこぼしつつ、そっと近づいた。
キツネは少し緊張しているが、逃げたり威嚇したりすることはない。
「ニーナ、そのままその子を押さえていてくれ」
「うん」
「よし、いいぞ……ヒール」
魔法でキツネの怪我を癒やした。
キツネは目をパチパチとさせて、
「コンッ!」
今度は俺に飛びついてきて、ペロペロと頬を舐めてくる。
「よしよし」
「クゥ!」
キツネは俺の肩に乗り、続けて頭の上に。
そこからジャンプして、今度はニーナの膝の上に乗る。
「よかった」
「オンッ!」
ニーナとサクラは、キツネが元気になったことを喜ぶ。
ただ、俺は眉を潜め、じっとキツネの様子を観察する。
「どう、したの?」
「いや……」
さらに観察。
「……ちょっとおかしいな」
「え?」
「怪我は治したはずなんだけど、でも、どこか動きがぎこちない」
一見すると、キツネは元気に飛び跳ねている。
でも、注意して見てみると、ジャンプなどの際に体が一瞬止まっている。
自分の体が自分のものじゃないような……そんな感じで、ためらっているみたいだ。
「どういう、こと?」
「怪我をしたの、けっこう前なのかもな。それで、もしかしたら病気にかかっているのかもしれない」
「そんな……」
ニーナの耳がぺたんと垂れ下がる。
サクラの耳もぺたんと垂れ下がる。
ニーナはキツネを抱いて、そっとその顔を覗き込んだ。
「この子……大丈夫?」
「そんなに心配することはないさ。これだけ動けているから、今すぐにどうこうってことはないはずだ」
ただ、放っておくとどうなるかわからない。
「レイン。この子、連れて……帰ろう?」
「うーん。野生の動物を連れ帰るのは、あまり良くないんだけど……」
一時的なテイムならともかく、家に連れて帰り保護するとなると大変だ。
世話の問題もあるのだけど……
その後、無事に野生に戻れるか、という大きな問題がある。
ニーナなら、飼うと言いそうな気がするのだけど……
でも、このキツネの家族がいるかもしれない。
「……とはいえ、放っておくことはできないか」
キツネがなにかしらの病気に侵されている可能性は高いので、このまま見過ごすことはできない。
全部の動物を助けるとか、そんなことはできない。
でも、目の前にある助けられる命を放っておくなんて、それはダメだ。
「ひとまず、連れて帰ろうか」
「うん」
ニーナはうれしそうに微笑むのだった。
……ちなみに。
キツネを連れて帰ると、「レインがまた知らない子を引っかけてきた!」とかカナデ達が騒いだのだけど、それはまた別の話だ。