作品タイトル不明
582話 たまには休みを
猫霊族の里にやってきて、毎日、稽古をつけてもらい……
そして、一週間が経過した。
「明日は休み、ですか?」
汗だくになり稽古を終えて、家に戻ろうとした時……
スズさんに呼び止められて、そんなことを告げられた。
「はい。ここに来て一週間、みなさん疲れているでしょう? 少しは休まないと」
「でも、夜はしっかりと休んで……」
「一日、なにもしないで羽を伸ばすことが大事なんですよ。エルフィンの力があるとはいえ、完全に疲労を消すことはできませんからね。疲労が蓄積されていくと、思わぬ怪我や病気を招いてしまうことがありますから」
「それは……」
スズさんの話はもっともなのだけど、それでも、すぐにわかりましたと言うことはできなかった。
一週間、稽古をつけてもらったものの、目に見えた進展はない。
みんなも、未だ自由な覚醒には至らず、焦りを覚えているようでもある。
それなのに稽古を休んでいいのだろうか?
まずは、成果が出るまでがんばるべきではないか?
「焦りは禁物ですよ」
俺の胸中を見透かしたかのように、スズさんが釘を刺してくる。
「無理に物事を進めようとしても、大抵はロクなことになりませんからね」
「それは……」
「もちろん、時に強引に進めないといけない場合もありますが……それは例外です。今回はそんなことはありません。がんばることと無理をすることは、同じではありませんよ?」
「俺、無理をしていますか? そう見えますか?」
「とても」
「……わかりました」
スズさんにそう言われて、俺は肩の力を少し抜くことにした。
自覚はしていなかったのだけど……
どうやら、今の俺は無理をしているように見えるらしい。
強くなりたいと、あんなことは二度と繰り返したくないと、そう願いがんばることにしたのだけど……
それでみんなに心配をかけていたら意味がない。
まだまだ、だな。
心の中でため息をこぼす。
――――――――――
「レイン、海で遊ぼう!?」
夜。
食事をしつつ、明日の予定をみんなで考えていると、カナデがそんなことを言い出した。
「海で?」
「うん。泳いだりボールで遊んだり砂遊びをしたりスイカ割りをしたり……たくさん遊べるよ? 休みっていうなら、そうやって過ごすのが一番だと思うな」
「海か……」
思えば海で遊んだことがない。
故郷は海とは無縁の山奥で……
故郷を出た後も、アリオスと一緒に旅をしていたから、そんな余裕はなかった。
「でも俺、泳げないんだよな」
「それなら私が……」
「あたしが教えてあげるわ!」
「ふにゃん!?」
カナデを押しのけるようにして、タニアが前に出る。
「タニアは泳げるのか?」
「ふふん、当たり前でしょ? あたしを誰だと思っているの?」
「メロンなのだ」
「そのメロンがあるから、水に浮くのですね……」
「タニアはメロン族。ボク、覚えたよ」
「ちょっと、ソラ、ルナ! リファが変なことを覚えちゃったじゃない!」
みんなが一緒だと、話が進まないな。
でも、これはこれで楽しい。
できるなら、こんな時間がずっと続いてほしいものだ。
「ふふ、海で遊ぶというのは、とても魅力的な話ですわ」
「でも、みんな、水着なんて持ってきてないやろ?」
「そ、そもそも、ワタシ、水着を持ってなくて……わ、ワタシのような貧相な体を見てもなにもおもしろくなくて……すみませんすみません!」
「ふふーん、そこは問題ないよ!」
ドヤ顔でそう言うのは、ミルアさんだ。
とてもキラキラとした顔で、どこからともなく水着を取り出してみせる。
「はい、これ。タニアちゃんの水着だよ!」
「え?」
「あと、他のみんなの分もあるからね。いくつかデザインがあるから、たぶん、お気に入りが見つかると思うんだけど」
「準備がいいですね……いつの間に?」
「猫霊族の里の近くに海があるのは知っていたからねー。なら、タニアちゃんが海水浴をする機会もあるはず! かわいいかわいいタニアちゃんの水着! これはもう、絶対に見逃すわけにはいかないんだよ!」
タニアへの愛が為せる技か。
ミルアさんをすごいと称えるべきなのか、それとも、やりすぎと呆れるべきか。
なかなかに迷うところだ。
「でも、サイズは合うかしら?」
「だいじょーぶ! タニアちゃんのサイズは、バッチリ知っているよ♪」
ミルアさんがタニアに耳打ちをして……
「えっ!?」という驚きの声と共に、タニアが若干赤くなる。
「な、なんであたしのサイズを知っているのよ!?」
「お母さんにわからないことはないんだよ!」
「寝てる時とか、勝手に測ったりしてないでしょうね!?」
「……シテナイヨ?」
「母さん!!!」
ミルアさんの行動はともかく……
水着は問題ないらしく、海で遊ぶ準備は整っているみたいだ。
「なら、明日は海で遊んでみるか」
「「「おーーーっ!!!」」」
稽古のために猫霊族の里までやってきたのだけど……
でも、スズさんが言うように、息抜きは必要なのだろう。
明日はゆっくりと、そして、海を満喫しよう。