作品タイトル不明
581話 底知れない
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
あれから三十分。
俺は体力も魔力も全て使い切り、大の字になって地面に転がっていた。
なんとかスズさんに食らいついていたものの……
それは三十分が限界。
指を動かすのもしんどくなるほど、体力も魔力も使い果たしてしまう。
「とりあえず、ここまでにしておきましょうか」
スズさんはにっこりと笑いつつ、そう言う。
こちらの攻撃を全て避けているため、その顔はぜんぜん汚れていない。
ついでに言うと、息一つ切らしていない。
以前、稽古をつけてもらったことがあるけど……
あの時は、ぜんぜん本気を出していなかった、ということか。
いや。
今も本気を出していたかどうか……
終始、子供のようにあしらわれていたような気がする。
いったい、スズさんはどれほどの力を持っているのだろう?
底が知れない。
「大丈夫ですか?」
「だい、じょうぶ……ですっ」
なんとか答えるものの、とぎれとぎれになってしまう。
「あまり大丈夫ではなさそうですね。エルフィン、お願いできますか?」
スズさんがそんなことを言うのだけど……
二人は、いつの間に交流を深めていたのだろう?
俺達がやってくる前に合流していたみたいだから、その時に仲良くなっていたのだろう。
最強種同士だからなのか、心を許しやすいのかも。
「ええ、もちろん」
エルフィンさんがやってきて……
よいしょ、と俺の頭を抱えて膝枕をしてしまう。
「にゃんですと!?」
カナデを始め、みんながやけに驚く。
「えっと……これは?」
「じっとしていなさい」
「……」
言われるままおとなしくすると、ふわりと炎が舞い上がる。
エルフィンさんの炎だろう。
熱いと思うことはない。
むしろ、優しく心地いい。
「あ……」
炎に包まれていると、疲労が溶けていく。
指先を動かすのも一苦労していたのだけど、全身がだるい程度まで回復した。
「どうですか?」
「あ、はい……かなり楽になりました。ありがとうございます」
体を起こして、エルフィンさんに礼を言う。
「怪我を治すだけじゃなくて、こんなこともできるんですね」
「不死鳥族の炎は、癒やしの象徴でもあるので。私くらいのレベルになれば、色々と応用が効くのですよ」
「なるほど」
スズさんだけじゃなくて、エルフィンさんも規格外だ。
いや。
アルさんもノキアさんもレゾナさんもミルアさんシグレさんも……みんな、とんでもない。
そして、そのとんでもない人達に稽古をつけてもらえる。
それがとても頼もしい。
必ず強くなってみせる。
「じゃあ、レインさんは、しばらく休んでいてくださいね。落ち着いたら再開するので」
「わかりました」
「あら? またですか、とか言わないんですね」
「そんなこと言いませんよ。俺は、強くなるためにここに来たんですから。そのためなら、なんでも、どんなことでもやります」
「ふふ、良い答えですね。とても好ましい回答です」
スズさんがニッコリと笑う。
それから、その視線をカナデ達の方へ移す。
「それじゃあ、次はカナデちゃんですね」
「えっ!? 私も!?」
「当たり前じゃないですか。まさか、レインさんにだけ稽古をさせて、カナデちゃんはなにもしないつもりだったんですか?」
「そんなことはないけど……」
「話を聞けば、覚醒に至った様子。でも、任意の覚醒はできないみたいですね。まずは、その問題を解決しましょうか」
「ということは、私も自由自在に覚醒が……?」
「はい、できるようになりますよ」
「私、がんばるよ!」
カナデは途端にやる気を出した。
最初は驚いていたけど……
でも、彼女なりに思うところがあるのかもしれない。
強くなりたいと、そう願う原動力を胸に抱えているのかもしれない。
それは他のみんなも同じみたいで……
「タニアちゃーん、わたしが稽古をつけてあげるね♪」
「娘達よ、妾がしごいてやるのじゃ」
「ニーナ、がんばれますか? ティナさんも、一緒にどうですか?」
「フィーニア、いきますよ」
「サクラは、そろそろ人型にならんとなあ……そうじゃな。イリスも一緒に面倒を見てやろう」
みんなは顔を見合わせて、
「よっしゃ、がんばるでー!」
「「「おーーーっ!!!」」」
威勢の良い声を響かせるのだった。