作品タイトル不明
576話 お願いです
冒険者らしく、街の依頼をこなして。
みんなで一緒に買い物をして。
久しぶりに会う街の人達と、のんびりと話をして。
しばらくは、そんな何気ない日常が続いた。
それは、とても穏やかな日常で……
ホライズンこそがホームなのだと強く思う。
できるなら、ここでずっとのんびりしたいのだけど……
そういうわけにはいかないよな。
一見すると、平和な世界かもしれない。
でも、裏で暗躍する者がいて……
いつ日常が戦場になるかわからない。
いつ大事な人の血が流れるかわからない。
そんな事態を防ぐために。
二度と悲劇を繰り返さないために。
「俺は……もっと強くなりたい」
――――――――――
「アルさん」
「……おう?」
屋上でのんびりと日光浴をするアルさんを見つけた。
ハンモックに揺られ、うたた寝をしていたのか、その目はとろんとしている。
「ちょっとお願いがあるんですけど……」
「うむ、なんじゃ?」
「って……その前に、里に戻らなくていいんですか?」
アルさんは、ずっと家に滞在していた。
空き部屋を利用していて、もはや新しいメンバーと言っても過言ではない。
いや、それはいいんだけど……
仮にも、長に継ぐ権力を持つのだから、早く里に戻った方がいいのではないか?
「構わん、構わん。里にいても、つまらん仕事しかないからのう……あんなものは長に任せておけばよいのじゃ」
「はあ……」
「して、何用じゃ?」
アルさんはハンモックから降りて、真面目な顔を作る。
色々と鋭いアルさんのことだ。
俺が言いたいことも、なんとなく察しているのだろう。
「稽古をつけてくれませんか?」
「ふむ、やはりそう来たか……しかし、なぜ力を求めるのじゃ? レインよ。今のお主は、相当に強いぞ」
「でも、足りない」
「……」
「俺にもっと力があれば……あんなことにはならなかったのかもしれない」
グレイと最後に交わした言葉。
それと、王都にある墓が頭に浮かぶ。
「前にも言われたけど、思い上がりかもしれません。俺一人でできることなんて、たかが知れています」
「それを本当に理解しておるのか? しているのなら、今のような言葉は出て来ぬぞ?」
「理解はしているつもりです」
俺一人でなんでもできるなんて、そんな思い上がりはしていないつもりだ。
そもそも……
今まで成し遂げてきたことは、みんながいたからこそ達成できた。
俺一人の力なんて大したことはない。
それでも。
「できる限りのことをしておきたいんです」
「……」
「俺一人でなんでもできる、なんて思い上がりは口にしません。でも、俺にもっと力があれば、その時に取れる選択肢が増えると思うんです」
「ふむ」
「もう、二度と後悔はしたくない……できる限りのことを、その時の本当の最善の行動を取るために、力が欲しいんです。強く……なりたいです!」
思えば、自分から力をハッキリと求めるのは、これが初めてかもしれない。
色々なことがあって、それなりに強くなったとは思うけど……
でも、それは状況に身を任せた結果だ。
強くなりたいと思い、そのための行動をしたことはない。
でも、今は違う。
可能性を広げるために。
選択肢を増やすために。
強く、強くなりたい。
「……まあ、合格じゃな」
「え?」
「今のお主には、きちんとした覚悟と意思があるようじゃ。それならば正しい力を身につけることができるじゃろう」
「それじゃあ……」
「こんなことになるのではないかと思って、ここに残っていたが……うむ、いいじゃろう。最強の中の最強……精霊族で一番の魔法の使い手である妾が、お主を徹底的に鍛えてやるのじゃ」
「ありがとうございます!」
深く頭を下げて……
「ただ、ちと問題があるのじゃ」
「問題ですか?」
それから、不穏な言葉に眉を潜めてしまう。
「魔法についてなら、おもいきり鍛えてやれるのじゃがな。しかし、それだけじゃ。身体的なことになると、妾では厳しいのじゃ」
「それは……そうですね」
アルさんは魔法のエキスパートだ。
彼女以上の魔法の担い手は思い浮かばない。
ただ、近接戦闘となると、アルさんでは荷が重い。
アルさんだけじゃなくて、近接戦闘のエキスパートがいたらいいのだけど……
「ふむ……ちと、連絡してみるか」
「なにか伝手が?」
「うむ、少し待っておれ。妾は出かけてくるのじゃ」
そう言って、アルさんは家の中に戻った。
――――――――――
数日後。
アルさんが戻ってきて、俺達は全員、リビングに集められた。
「うむ、全員揃っておるようじゃの」
「母上よ、いきなりどうしたのだ? レインから、稽古をするような話は聞いておるが……」
「なぜ、旅行の準備をするのですか?」
ソラが言うように、俺達は旅行の準備をさせられていた。
「それはじゃな……」
「「それは?」」
「旅行に出かけるからじゃ!」
「「そのまんま!?」」