軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

575話 迷える子羊

とある屋敷にある、小さな部屋。

神を模した像が建てられていて、祭壇も作られていた。

その前に膝をついて、祈りを捧げる女性は……ミナだ。

「……」

毎日三回。

決まった時間に、ミナは神へ祈りを捧げていた。

アッガスとリーンが死んだ。

それだけではなくて、いつしかレインにそうしたように、今度は自分達が王都から追放されてしまう始末。

挙げ句、指名手配されてしまう。

どうして、こんなことに?

自分達は勇者パーティーのはずだ。

魔王を討伐するという、崇高な使命を持っているはずだ。

それなのに、この現状はどういうことだろうか?

不公平、不平等……理不尽ではないか。

「教えてください、神よ……」

ミナは神へ問いかけるが、答えが返ってくることはない。

沈黙。

ただ、それだけだ。

祈りを終えたミナは、ゆっくりと立ち上がる。

窓際へ移動して、そっと空を見上げた。

空はどんよりと曇っていて、今にも雨が降り出しそうだった。

「私達は……これから、どうなるのでしょうか?」

モニカのおかげで、なんとか逃げ延びることができた。

しかし、それだけ。

再起の目処は欠片も立っていないし、これからどうすればいいか、方針もまったく決まっていない。

ミナは焦る。

早く勇者の称号を取り戻さなければいけない。

そして、魔王討伐の旅を再開しなければいけない。

「そうでなければ、私は、なんのために……」

ミナは孤児だ。

物心ついた時には親はおらず、教会に引き取られ、育てられていた。

両親は魔物に襲われて死んだらしい、という話を聞いた。

だからこそ、なのかもしれない。

ミナは、魔物のいない平和な世界を夢見るようになり、人一倍、神に祈りを捧げた。

自分にできることは大してない。

でも、祈りを捧げることくらいはできる。

この祈りがいつか神へ届くことを信じて……

毎日毎日毎日、祈りを捧げていた。

気がつくと、教会で誰よりも強い魔力の持ち主になっていた。

祈りを捧げることは、魔力の鍛錬と似たところがあり……

誰よりも熱心に祈りを捧げていたミナは、図らずとも力を手に入れたのだ。

そして、ミナの人生はターニングポイントを迎えた。

教会から、勇者の仲間となるための修行をするように言われたのだ。

このまま、教会で祈りを捧げ続けるか。

それとも、勇者パーティーの一員となり、世界を救う旅に出るか。

どちらを選ぶか、ミナは迷うものの……

最終的に、教会に言われた通り、勇者パーティーの一員を目指すことにした。

それからは、毎日が鍛錬だった。

自由な時間なんて一分たりともない。

食事と睡眠以外、ほぼ全ての時間を鍛錬にあてられた。

辛いと思ったことはある。

ただ、強くなればなるほど、教会から期待されるようになった。

それは、親に褒められた子供が、より一層がんばるようなもの。

親がいないミナにとって、教会がそれと同じなのだ。

泣き言をこぼすことなく、ミナは苦しい鍛錬を続けて……

そして、教会史上最強と言われるほどの実力を身につけることができた。

勇者パーティーに加入することもできた。

ただ……その思想は途中で歪められていた。

「私の力でアリオスをサポートして、世界に平和を……そして、教会に繁栄を」

幼い頃は、世界平和だけを願っていた。

しかし、教会の介入を受けることで、その純粋な想いは歪められた。

勇者パーティーに参加する者が出れば、さらに教会の地位が上がる。

大きな栄誉と財が手に入る。

そんなことを考える俗物達は、表向きは世界平和のためとうそぶいて……

ミナを己の都合の良い駒に仕立て上げた。

ミナは、そのことに気づくことなく、自覚することもなく、ただただ前に向かってあるき続けた。

後ろを振り返ることなく、左右を見ることなく……教会を代表する神官として、勇者パーティーの務めを果たしてみせる、と。

気負い、奮起した。

しかし、その結果がコレだ。

「私は、どうすれば……」

教会に与えられた使命で旅をしてきたが、今は、その教会との繋がりがない。

自分で考え、行動しなければならないのだけど……

そんなことをしたことのないミナは、どうしていいか、まるでわからない。

迷子になった子供と同じだ。

おろおろと、怯え、慌てることしかできない。

道を見失ったまま、正しい回答を出すことはできない。

教会の言いなりになり……

自分で考えることを放棄した結果だった。

「私……は……」

「失礼します」

ふと、扉が開いてモニカが現れた。

ミナは乱れかけた心を無理矢理平静に戻して、なにげない様子で振り返る。

「モニカさん、どうしたんですか?」

「アリオスさまとミナさんにお伝えしておかなければいけないことがありまして……アリオスさまは?」

「少し散歩をしてくると聞きましたが……なんでしょう?」

「そうですね、まずはミナさんにお話しておきましょうか。実は……」

モニカは深刻そうな顔で……

しかし、心の中では笑いつつ、言う。

「アリオスさまではなくて、新しい勇者が任命されたみたいです」