作品タイトル不明
565話 見誤る
「リースさま!」
拠点としている屋敷に戻ると、慌てた様子でモニカが駆けてきた。
普段なら、もっと落ち着きなさいと叱るところなのですが……
あいにく、そんな言葉が出てこないほど私は疲弊していました。
駆け寄ってくる彼女にもたれかかる。
「ふぅ……」
「こんなにボロボロに……」
「大丈夫です。見た目はこんなですが、深い傷は負っていないので」
ただ……さすがに疲れました。
肉体的な負傷よりも、精神的な疲労の方が激しい。
立っているのがやっとの状態。
モニカが手を貸してくれなければ、そのまま倒れているかもしれません。
「さあ、リースさま」
「ありがとう」
モニカに支えられつつ、イスに座る。
それから持ってきてもらった水を飲み、ようやく一息つくことができた。
「リースさまがここまで追い詰められてしまうなんて……」
「正直、彼の力を見誤っていましたね」
「……レイン・シュラウドですか」
「ええ。それと、彼の仲間達でしょうか」
まさか、アルテラさまを倒してしまうなんて。
これは予想外すぎる結果だ。
アルテラさまは力も知略も兼ね備えている。
四天王の中で、実力はナンバー2。
当初の見立てでは、どうやってもレイン・シュラウド達に勝ち目はなかったはずなのだけど……
そんな私の予想を覆して、彼らは勝利を掴み取った。
挙げ句、アルテラさまの計画を完全に破壊して、穏健派が有利となる結果を残していった。
なんて頭の痛い。
「……まあ」
中立派の私としては、強硬派が有利になろうが穏健派が有利になろうが、どちらでも構わない。
魔王さまが目覚められれば、そこで全てが終わり、決着がつくのだから。
とはいえ、今回の敗北は正直痛い。
予想外もいいところだ。
アルテラさまが負けるだけではなくて……
私も追い詰められていた。
時間を操るという、とっておきの切り札まで使ったというのに。
「リースさま」
「なんですか、モニカ」
「このようなタイミングで、このような話をすることをお許しください。レイン・シュラウドですが……彼を甘く見てはいけません」
「……」
「新たに任命された勇者よりも厄介な存在だと、そう思っていただければ……」
「そう、ですね」
こうなると、私の認識が間違っていたことを認めなければ。
レイン・シュラウドは、勇者の血を引いているだけの有象無象とは違う。
血の濃さは薄くても、その才能はアリオスさんよりも上。
目下、最大の脅威に育ちつつある。
「私としたことが、見誤るなんて……」
ある意味で、今回の敗北は私の責任だ。
事前に彼を排除できていたら、このような事態には絶対にならなかっただろう。
「リースさま。私に命じていただければ、レイン・シュラウドの命を……」
「……いえ、今は動く時ではありません」
「放っておくのですか?」
「彼が脅威であることは認めますが……それ故に、簡単に動くことはできません。それ相応の準備が必要になります」
「しかし、私が命を賭けて挑めば……!」
「それはダメですよ、モニカ」
「あ……」
私は倒れそうになりながらも立ち上がり、勇み足を踏もうとしているモニカを抱きしめた。
彼女はどことなく安らいだ顔になり、おとなしくなる。
「確かに、モニカがそれほどの覚悟を持って挑めば、結果を出すことができるかもしれません。あなたも……神の血を引いているのですからね」
「……」
「ですが、それであなたが死んでしまったら意味がありません。私は魔王さまのために生きていますが……それだけではなくて、あなたのためにも生きているのですよ?」
「……リースさま……」
「あなたは人間ですが、しかし、私の娘のようなものです。いえ。娘だと思っています。子供を死地へ追いやる親がいるものでしょうか?」
「ありがとう……ございます」
モニカがうつむいてしまう。
たぶん、涙を見られたくないのかと。
大きく育ったものの、まだまだ幼いところがあるみたい。
あぁ……私のモニカ。
私のかわいい娘。
あなたの望みは私が叶えてみせましょう。
モニカの復讐は私の復讐。
モニカの憎悪は私の憎悪。
全ては、私の娘のために……
「……申しわけありません。情けないところを見せてしまいました」
「私としては、役得でしたね。普段は見られないモニカの姿を見ることができました」
「う……リースさまは意地悪です」
「ふふ」
いつまでもこうしていたいが、しかし、あまりのんびりとしていられない。
次なる一手を打ち、今回の大敗を取り返さなければ。
「……」
現状を分析して……
それから、今できることを考える。
頭の中で何度もシミュレートして、そして、これなら大丈夫そうだという結論が出る。
「モニカ、アリオスさんとミナさんを呼んでくれませんか?」