作品タイトル不明
563話 気にするなとは言わぬ
あれから、さらに一週間ほど王城に滞在した。
滞在の目的は、西大陸で得た情報の共有について。
魔族についての情報、意見をさらに詳細なところまで交わして……
忌憚のない意見を聞かせてほしいとのことなので、本当に思うがままをぶつけてみた。
もしかしたら、特定の魔族とは手を取り合うことができるかもしれない。
まずは武器ではなくて、会話をぶつけることが正しいのかもしれない。
そんな意見。
笑われるか怒られるか。
どちらかの反応を予想していたのだけど、意外にも賛同してくれる人は多かった。
王とユウキを始め、その側近の人達も、考える価値はあると言ってくれた。
そういった話し合いを一週間ほど続けて……
そして今日。
俺は、王城を後にすることになった。
――――――――――
「にゃあ……」
荷物をまとめるカナデは、心なしか元気がない。
自慢の尻尾がへにゃりと垂れ下がり、表情に覇気がない。
「カナデ、どうしたんだ? 元気がなさそうだけど、もしかして風邪でも……?」
「そう、なの……? 大変」
「風邪には、ネギをお尻に刺すと良いって聞いたよ」
「にゃんで!? なんか色々とおかしくない!? 私、そんなことしないよ!?」
どこからともなくリファがネギを取り出して、カナデに迫る。
カナデは慌てた様子でお尻に両手をやり、ズザザザッと壁まで逃げる。
「わ、私はただ、これでもうおいしいごはんを食べられないのかな、って残念に思っていただけだよ!?」
なるほど。
とてもカナデらしい理由だ。
あんなことを経験した後でも、いつも変わらず自分らしくあることができる。
そんなカナデのことは、少し眩しく見えた。
「レイン、こっちは大体終わったわ」
「手伝ってもらい、ありがとうございます」
「そっか、ならよかった」
「むー……」
ルナがなにか言いたそうに、こちらをじっと見てきた。
そんな彼女の真似をするかのように、イリスも俺の顔を覗き込んでくる。
「な、なんだ……?」
「レインさま……もしかして、無理をしていらっしゃいますか?」
「え?」
「お気楽極楽能天気全開猫のカナデさんと違い、元気がないように見えますわ」
「とんでもないこと言われた!? そして長い!?」
思わず自分の顔に手をやる。
普通の顔ができていたと思うのだけど……
うーん、みんなの目はごまかせないか。
「あ、あのあのっ、なにか困ったことが……!? も、もしかしてワタシですか!? ワタシが情けないから呆れているとか!?」
「オフゥ……」
「こやつの自虐は、もはや日常になりつつあるのう……まあ、それはともかく」
アルさんが、とことことこちらに歩み寄る。
そして……ぽんぽんと、俺の頭を撫でた。
「え?」
「あまり気にするでない」
そんなアルさんの言葉は、思いの外、俺の心に深く突き刺さる。
「だいたいの経緯はあの王子から聞いた」
「それは……」
「もっと力があれば、とか思っておらぬか? そうすれば、助けられなかった者を助けることができたのでは、と思っておらぬか?」
「……」
図星なので、ついつい黙ってしまう。
「厳しいことを言うが、お主のそれはおこがましい考えじゃ。自分一人でなんでもできるという、勘違いじゃ」
「わかっている、つもりですけど……」
「納得できんか?」
「……はい」
力があれば。
グレイやルイエのこと、他の助けられなかった人達のことを思うと、そう考えずにはいられない。
それがおこがましい考えだということは、一応、自覚しているつもりだ。
俺は、なんでもできるわけじゃない。
勇者の分家だとしても、一人でできることなんて限られている。
それなのに全てを背負おうとするなんて、おこがましい以外の何者でもない。
それでも。
「やっぱり、考えずにはいられないです」
「ふむ」
「過去があるから今があって……だから、過去を忘れることなんてできない。何度も何度も振り返ってしまう」
「じゃが、囚われてしまっては意味がないぞ?」
「わかっているつもりですが……なかなか」
キッパリと割り切れるようなら、すぐ楽になることができる。
でも、それはしてはいけないような気がした。
ルイエ達を助けられなかったこと。
グレイに託されたこと。
それらを忘れないためにも、今は、過去をしっかりと見つめておきたかった。
あと……
こんなことが二度と起きないように。
二度と起こさせないと、そう誓うために。
強く強く、心に刻み込んでおきたい。
「やれやれじゃな」
俺を見て、アルさんがため息をこぼす。
ただ、その顔はわずかに笑っていた。
「レインは、不器用じゃのう」
「ですが、それがレインらしいと思います」
ソラが声をあげた。
彼女だけじゃない。
次々とみんなが口を開く。
「おこがましいとしても、それのなにが悪いのだ? 我らが主は、全部を掴もうとするわがまま者で……そして、それが可能である器の持ち主なのだ」
「その通りです。たまには、ルナも良いことを言うのですね」
「たまにはとはなんなのだ!?」
「レインは……今のままで、いいよ?」
「せやな。そんなレインの旦那に、うちらはずっとついてきたんやから」
「がんばってね。ボクも応援するし、力になるよ」
「オンッ! オンオンッ!」
「わ、わらひも一緒にがんばりひゃいと思いましゅ!」
「レインはちょっと無茶をするくらいでちょうどいいのよね。まあ、たまにやりすぎるけど……」
「その時は、わたくし達が支えますわ」
最後に、カナデが俺の手を掴む。
彼女の手は温かくて、どこかほっとした。
「レイン、私達がいるからね?」
「……カナデ……」
「だから、いつまでもレインらしくあって。そんなレインが、私達は、みんな大好きなんだから♪」