作品タイトル不明
562話 元気で
「ふぅ……ふぅ……」
緩やかな斜面を歩いていく。
長距離を歩いたわけじゃないのに、少し息が乱れていた。
「レイン、大丈夫かい?」
「ああ……うん、大丈夫だ」
一緒に歩くユウキが心配そうにこちらを見る。
それに笑顔を返した。
「三日も寝ていたから、少し体が鈍っているみたいだ。良い運動になるよ」
「いざという時は手を貸すから、いつでも言って」
「ありがとう。ただ、そうならないように注意するよ」
多少のリハビリが必要かもしれないな。
そんなことを思いつつ、道を進んでいく。
そして、三十分ほど歩いたところで目的地に到着した。
丘の上にある、緑が綺麗な場所。
王都を一望することができて、景色も最高だ。
そんな場所に眠る死者は、きっと安らかな時間を過ごすことができるだろう。
そう……
ここは、墓地だった。
「ここだよ」
ユウキに案内されて、とある墓の前へ。
その墓には、『グレイ・サガ』という名前が刻まれていた。
色々と聞きたいことはあるものの、それらは後回し。
「……」
「……」
手を合わせて、目を閉じる。
ユウキと一緒に、グレイの安らかな眠りを祈った。
「あれからどうなったのか、詳細を聞いてもいいか? 主に、グレイのことについて」
「うん」
大体のあらましは聞いているものの……
細かい部分は知らない。
「レインが眠っている間に、もう一度、西大陸へ渡ったんだ」
「そうなのか?」
「グレイを助けないといけないし……ダメだったとしても、遺体を持ち帰ってあげたいから」
「……そうだな」
「レインの仲間……彼女達の力も借りて、わりと簡単に目的を達成することができたよ」
グレイの墓には、彼の剣が捧げられていた。
巨大な大剣は半ばで折れていたが……
それでも力強さを感じる。
もしもグレイがここにいたら、
「剣が折れた? なら、棍棒代わりに殴らせてもらうぜ」
なんて言いそうだ。
同じ光景を想像しているのか、ユウキも小さく笑っている。
「グレイの遺体は見つからなくて、こうして剣だけが残されていたんだ」
「なら……」
「たぶん、無理だと思う。大量の血痕も残されていたから」
「……」
「遺跡も半分が崩れていて……うん、そういうことなんだと思う」
「……そっか」
しばらくの間、沈黙が流れた。
なにも言えない。
なにも考えられない。
「……グレイ……」
一緒に過ごした時間は短い。
それでも、たくさんのものを教えてもらった。
たくさんのことを学ばせてもらった。
そして……
彼は命の恩人だ。
「グレイの遺体を持ち帰ることはできなかったけど……でも、ここに眠っていると思うよ」
「そうだな……」
「グレイがいなかったら、僕達は死んでいた。さらわれた人も助けることができなかった。彼こそが本当の英雄だね」
「この墓は?」
「休む場所がないと、大変だろうと思って。すぐに作ってもらったんだ。職人さんにはけっこうがんばってもらったんだけど、喜んでもらえるかな?」
「どうだろうな。豪華すぎて落ち着かない、とか言いそうな気がする」
「あはは、それもそうかもね」
それから、少しの間、思い出話に花を咲かせた。
するとまあ、出てくる出てくる。
色々な思い出が出てきて、どんどん笑顔があふれていく。
一緒に過ごした時間は短いのに、これだけの思い出があったのか。
もっと長くいたら、さらにたくさんの思い出ができていただろう。
そのことが悔しく、寂しい。
「……ごめん……」
自然とそんな言葉が出てきた。
俺は……
「……バカ言ってるんじゃねえよ。もっとシャキっとしろ」
ふと、グレイの声が聞こえたような気がした。
迷うな。
俺は俺らしくあれ。
そう決めたんだろう?
なら突き進め。
どこまでも、それでもと抗え。
そんなことを言われたような……?
「ユウキ」
「レイン」
見ると、ユウキも驚いたような顔をしていた。
そうか。
今の声、俺だけじゃなくてユウキも……
「……」
「……」
少しの沈黙。
俺とユウキは、もう悲壮な顔はしていない。
前を向いて歩いていこうという、強い決意に満ちた表情をしているだろう。
「俺達、これからもがんばらないとな」
「うん、そうだね」
グレイに約束するかのように……
彼の墓前で、そうつぶやいたのだった。