作品タイトル不明
559話 理由
「……」
十分ほどでアルテラの体は完全に燃え尽きた。
後に残るのは灰だけだ。
それも風が吹いて、散らされて……消える。
最終的に、アルテラはなにも残らなかった。
なにも。
こんな結末を迎えることになって、アルテラはなにを思っているのか?
なにを考えていたのか?
そんな人生で満足だったのか?
色々と問いかけてみたい気はしたものの、しかし、それはもう不可能だ。
「ふう」
なにはともあれ、終わった。
全員とはいかなかったが、連れ去られた人々を救出できた。
同時に、アルテラによる襲撃計画も阻止できた。
……ルイエとグレイの仇を討つことができた。
その他、大勢の人の仇を討つことができた。
少しはその無念を晴らすことができただろうか?
ただの自己満足になっていないだろうか?
どちらにしても……
「死んだ人は帰ってこない……か」
その事実が、ただただ寂しい。
――――――――――
遺跡内部。
レイン達が脱出に使った通路は、さきほどまでの喧騒を忘れたかのように静寂に満ちていた。
戦いが終わり、音が去る。
怒りと憎しみ、悲しみと涙も押し流されていく。
そんな静かな遺跡内に、ふと、小さな火が灯る。
ゆっくりと時間をかけて成長していく。
やがて、火は炎へ。
そして人の形を取り……
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
アルテラが姿を見せた。
「ぐっ、うぅ……本体を、自壊させて……分体から元へ……一応、成功したけどぉ」
アルテラは立ち上がろうとして、しかし、足に力が入らず膝をついてしまう。
そこには、普段の不敵で残虐な様子はない。
今は子うさぎのように震えて、ひどく弱っていた。
当たり前だ。
自分で自分を攻撃して、死の寸前……消滅まで追い込まれたのだから。
ただ、その成果はあった。
レイン達はアルテラが死んだと思っただろう。
こんなところに逃げて、生き延びているとは思っていないだろう。
「あはっ」
なんとか逃げることができた。
命を繋ぎ止めることに成功した。
そのことに喜び、笑みをこぼして……
すぐにその表情が怒りに変わり、アルテラは地面をかく。
「あの人間……絶対に、絶対に殺してやるんだからっ」
四天王である自分が、死ぬ寸前まで追い詰められた。
これほどの屈辱はない。
万倍返しを誓うアルテラは、ふらつきながらも立ち上がり、再起を図るため魔王城へ……
「やはり生きていましたか」
静かな声が響いた。
アルテラの体がビクリと震える。
ゆっくりと振り返ると……
「……ジルオール?」
「こんにちは、アルテラさま」
いつからそこにいたのか、ジルオールの姿があった。
アルテラは警戒を解いて、ゆっくりと吐息をこぼす。
「なんだ、もう……びっくりさせないでよー。あの人間が追いかけてきたのかと思っちゃった」
「ずいぶんと手ひどくやられたみたいですね」
「っ……!!!」
ギリっと、アルテラは悔しそうに奥歯を噛む。
ただ、今は怒りに飲み込まれても仕方ない。
耐えて耐えて耐えて……
そしていつか殺す。
その時のことを想像して、アルテラは無邪気な笑みをこぼす。
どうやって殺してやろうか?
すぐにはトドメは刺さない。
じっくりとねっとりといたぶり、どうか殺してください、と懇願するまで追い詰めてやろう。
「ふう……まあ、それは後にして、今は休まないと」
さすがのアルテラも限界だった。
消滅寸前まで追い詰められたため、意識を保つことも難しい。
今すぐに魔王城へ戻り、ゆっくりと休みたい。
「ねえ、ジルオールちゃん……魔王城まで連れて行って。私、すごく疲れちゃったから、自分で動くのも億劫なの」
「はい、わかりました」
「お願いね」
にっこりと笑うアルテラ。
だがしかし、彼女はしっかりと考えるべきだった。
なぜ、こんなところにジルオールがいるのか?
なぜ、部下も連れず一人でいるのか?
普通に考えておかしいのだけど、しかし、疲労困憊のアルテラはその異常に気がつくことができない。
ジルオールはゆっくりとアルテラに歩み寄る。
その体をいたわるように、そっと手を伸ばして……
「……え?」
ジルオールはアルテラの胸元に手を添えると、そのままゼロ距離で水弾を放つ。
水の弾丸がアルテラの胸を穿ち、穴を空けた。
それだけではない。
その奥に隠されていたアルテラの核を正確に撃ち抜いていた。
そのことを理解したアルテラは、驚愕の表情をジルオールに向ける。
「なん、で……?」
「理由は二つですね。強硬派で大きな力を持つあなたがいなくなれば、私達がとても有利になると思いませんか?」
「こ、のぉ……! 私を、裏切る……なん、てっ……」
「元々、敵対していたではありませんか。それと」
「やだ……やだやだやだぁっ、私は、こんなところで……死ぬ、なんてぇ……やだ、死にたくない……しにた……」
ドンッ、と二発目の水弾が放たれて、アルテラの核は粉々になった。
アルテラの瞳から光が消えて、その小さな体が倒れる。
ややあって、塵となって消えた。
「もう一つの理由ですが……あなたは、やりすぎました。いくら人間が相手でも、とても不愉快でした」