作品タイトル不明
558話 果てに……
「ぎっ……あぁ!!!?」
届いた。
そんな手応えが伝わってきた。
「あっ、ぐぅううう!? わ、私の体が……あっ、あああぁ!?」
アルテラは悲鳴をこぼしつつ、後退してよろめいた。
己の体を抱きしめるようにする。
その手の内から炎がこぼれて、散り、次々と消えていく。
炎化した体を維持することが難しくなってきたみたいだ。
たぶん、アルテラをアルテラとして存在させるための核を傷つけることに成功したのだろう。
人で言うと心臓か。
「あぁ!? ダメ、なんで!? 私の手、私の手……あううう!?」
アルテラの右手が空気に溶けるように消えていく。
続けて左手。
それらの消失は胴体にまで侵食しようとしていて……
「くうううぅ!」
激痛に耐えるような顔をしつつ、アルテラは炎化を解除した。
あのままでは消滅していただろうから、苦渋の決断なのだろう。
しかし、失った両腕はそのままだ。
元に戻ることはない。
傷口は炎で焼いて止血しているようだけど、衰弱が激しい。
戦闘能力はゼロ。
もはや、アルテラに戦う力は残っていない。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……リースちゃん!」
「あの方なら、もういませんわ」
「は?」
アルテラの呼びかけに応えたのはリースではなくて、イリスだった。
ユウキ、フィーニア、ニーナと一緒にこちらへやってくる。
戦闘は終えている様子だ。
「あなたがレインさまに痛い目に遭わされたところで、どこかへ消えてしまいました。周囲に反応もないので、まあ、逃げたと考えるのが普通ですわね」
「そんな……」
見捨てられるとは思っていなかったらしく、アルテラが愕然とした表情に。
しかし、まだ諦めていないらしい。
リースがいなくても、他の魔族がいる。
ギガブランドのコピーがいる。
そんな希望を抱いて、周囲を見るのだけど……
「……うそ……」
全て倒されていた。
まともな姿で立っているのは俺達だけ。
魔族は全て掃討されている。
というか……
あれだけの魔族がいたのだから、まだ戦闘は続いていると思ったのだけど。
しかし、そんなことはなくて、アルさんとノキアさんは掃討を完了していた。
あの二人、どれだけ強いんだ……?
「投降しろ」
クサナギの刃をアルテラの喉元に突きつけた。
彼女はもう防ぐことはできないし、逃げる体力も残っていないだろう。
「もう戦うことはできないだろう? なら無駄な抵抗はやめて、おとなしくしろ」
「……」
「返事は?」
「私に情けをかけるの? 殺したいと思わないの?」
「思うさ」
ギリッと、クサナギの柄を強く握りしめる。
ともすれば刃が突き刺さってしまいそうだ。
ルイエを弄んだことは忘れていない。
グレイの最後に見た背中姿も忘れていない。
その他……
アルテラはたくさんの人を傷つけた。
涙を流させてて、その魂を陵辱した。
許せる相手じゃない。
でも……
アルテラはもう戦うことができない。
されるがまま。
そんな状態で彼女の命を奪うということは、感情に任せた暴走だ。
アルテラとやっていることに変わりはない。
俺は……こんなヤツと同じレベルに堕ちるつもりはない。
「……あはっ」
ややあって、アルテラは小さく肩を震わせた。
その震えはどんどん大きくなり、
「あはははははっ、きゃは、あーっはっはっは!」
心底おかしいという様子で、アルテラが笑う。
子供のように無邪気に。
しかし、悪魔のように残虐に笑う。
「人間に投降しろ? この私が? 四天王なのに? きゃは、きゃははははは! そんなことするわけないよ、できるわけないよ。そんなふざけたこと、私の魂が許さないもん」
「なら、容赦はしない」
アルテラを放置するわけにはいかないし……
完全に無力化することも難しいだろう。
戦えない相手を攻撃するというのは、あまり選びたくない方法ではあるが、ここで……倒す。
俺はクサナギを振り上げて……
「私は、魔王軍四天王の一人、豪炎のアルテラ」
刃を恐れることなく、アルテラはまっすぐにこちらを見た。
その瞳は、まるで殉教者のように澄んでいて……
「人間なんかにやられてあげないよーだ! べーっ」
あっかんべー、をして……
アルテラは、失った肘から先に炎の腕を作り、それを自分の胸に突き刺した。
「かはっ」
「お前……そこまで……」
「人間、なんて……私は、魔族として……誇り高い死を、選ぶんだから……あはっ」
アルテラは口から大量の血を流す。
その血の色は……赤だ。
「人間なんかに、殺されてなんかやらないもん……私は、私の好きに……好きに生きて……後悔なんて、これっぽっちも……あはっ、あははは……きゃはははははっ!!!」
やがて、アルテラの体が燃え始めた。
激しい炎が立ち上がり、小さな体を全て焼き尽くしていく。
その間も笑い声は響いていて……
それは、しばらくの間続くのだった。