作品タイトル不明
548話 いつも一緒に
ふと、戦場に第三者の声が響いた。
それは、よく知っている声。
とても涼やかで、鈴が鳴るように可憐で……でも、冷たく鋭利な声。
「来たれ、嘆きの氷弾」
無数の氷の刃が飛来した。
その全てがアルテラに向けて降り注ぎ、炎の体を切り裂いていく。
体が炎と化しているのなら、氷で傷つけることができる。
それが道理だ。
「ふふ、わたくしの挨拶はいかがですか?」
振り返ると、イリスの姿が。
いや、彼女だけじゃない。
「「ドラグーンハウリング!!」」
ピタリと声を重ねて、魔法が唱えられた。
竜の咆哮を模した衝撃波がアルテラに食らいついた。
「くううう、こんなものぉっ!!!」
アルテラは、爆発させるような勢いで炎を撒き散らして、己に絡みついてくる衝撃波を吹き飛ばした。
攻防一体。
彼女が操る炎は、やはり、相当な脅威なのだけど……
それ以上の攻撃が叩き込まれれば、ダメージを受けるしかない。
「これでも……くらいなさいっ!!!」
凛としつつ、強い意思を感じる声。
それと同時に、嵐の時の横殴りの雨のような感じで、圧倒的な光の奔流が飛んできた。
おそらく、先の魔法は余計な力を使わせるための囮。
本命は、こちらの攻撃……ドラゴンブレスなのだろう。
「あぐっ!?」
アルテラが光に飲み込まれて、小さな声ではあるが、悲鳴をあげるのが聞こえた。
ガガガッ、となにかが激突して削れるような音。
アルテラが必死に抵抗しているのだろう。
「こんな、ものぉ……邪魔ぁあああ!!!」
アルテラが叫び、天に届くかと思うほどの豪炎が立ち上がる。
ドラゴンブレスが散らされてしまうが……
しかし、アルテラは肩を上下させていた。
さきほどまであった余裕は消えている。
「お姉ちゃん達……逃げたんじゃなかったの? お兄ちゃんを囮にして、逃げたんだよね?」
「バカなことを言わないでくれません?」
「あたしらが、レイン達を置いて逃げるわけないでしょ」
「その通りです。レインは、ソラ達の主なのですから」
「これは、作戦というやつなのだ!」
「……みんな……」
ああ……もう。
これは、なんて言えばいいのだろうか?
うまく言葉にできない。
とにかく熱い感情がこみ上げてきて、胸が震える。
「レイン、おまたせ」
タニアを始め、みんながこちらにやってきた。
「それにしても……もうっ、かなり無茶したみたいね?」
ボロボロの俺とユウキを見て、タニアが眉を曲げた。
後で説教されるのかな?
されるんだろうなあ……
でも、それはそれでいいか、なんて思えてしまう。
いや。
みんなに説教をされることがうれしいわけではないが、でも、一緒にいると実感することができるのだ。
殿を務めることになって、絶対に生きて帰るつもりではいたものの……
正直、不安がなかったわけじゃない。
心の片隅で、もしかしたら、と一度も考えなかったことはない。
だから、こうしてみんなに会うことができて、本当にうれしい。
「レインさまが無茶をするのはいつものことですが……ユウキさんと一緒だからなのか、いつも以上に無茶をしていらっしゃるみたいですね」
「あはは……ごめんね。僕がストッパーになればよかったんだけど、つい、僕も一緒に」
「まったく、男っていうのはこれだから。心配する女の身にもなりなさい」
「うむ、許せないのだ。罰として、帰ったら我が姉の料理のフルコースなのだ!」
「ルナ? それは、どういう意味なのですか? ソラの料理が罰というのは、意味がわからないのですが」
「ここに来て、まだ自覚していないとは……恐ろしい姉なのだ」
「ははっ」
こんな時でも、みんなはなにも変わらない。
それがうれしく、そして、頼もしくもあった。
「ユニアやアニ……捕まっていた人達は?」
「安心してください。ソラ達の転移魔法で、街へ送り届けておきました」
「イルカに乗って渡ったから、どれくらいの距離があるかわかっていたのがよかったのだ。ギリギリまで寄れば、なんとか我らの魔法の範囲内だったのだ」
「レインとユウキが時間を稼いでくれたおかげよ」
「そっか……よかった」
捕まっていた人達を救出することができた。
そして、みんなが戻ってきた。
心配することはゼロに。
そして、みんなが一緒にいることで、今まで以上に心が強く大きくなる。
うん。
これでもう、完璧だ。
「……ねえ」
アルテラの冷たい声が響いた。
その目は怒りに燃えていて、血肉を前にした獣を連想させる。
「なんで、私の邪魔をするの? お兄ちゃん達で遊んでいたのに、横から殴りかかってくるなんて……ひどいよ」
「あーら、怒ったのかしら? ごめんなさいね。でも、あんたの苛立ち顔、最高に面白いわ。もっと怒ってもいいわよ?」
「……むかつく」
「これくらいで怒るとか、所詮、お子様ね。もうちょっと心に余裕を持った方がいいわよ? カルシウム足りている?」
タニアの挑発が半端ない。
たぶん、俺のために怒ってくれているのだろうけど……
それにしては、挑発する様が似合っているというか生き生きしているというか。
女王さま?
失礼かもしれないけど、ついついそんなことを考えてしまう。
「リースちゃん。それと、みんな」
アルテラは低い声を発して、仲間に呼びかける。
「もういいや。じっくり遊ぼうとか、そういうの、もういいや……叩き潰すよ」
「わかりました。アルテラさまがそう言うのならば、そうしましょう」
リースと呼ばれた女性の魔族が前に出た。
それを合図にするかのように、他の魔族も戦闘態勢に移行して……
さらに、残りのギガブランドも大きな足音を響かせて、こちらに接近してくる。
アルテラは得意そうに笑う。
「キャハハハッ! お姉ちゃん達が戻ってきても、私が有利なのは変わらないんだから! 私は強いし、リースちゃん達もいるし……うん、絶対に負けないよね。私の楽しみを邪魔した罰として、お兄ちゃん達は、もっともっと苦しめてあげる。あ、お姉ちゃん達はいらないから、すぐに死んでね?」
「その減らず口、いつまで叩けるか試してあげる」
「お姉ちゃん、バカなの? 戦力差がわからないの? もういいや、さっさと死んじゃえ」
アルテラが腕を振り、炎を飛ばしていた。
それは、さながら煉獄の炎。
全てを燃やし尽くして、塵も残さない。
「戦力差があるというのなら、妾が埋めてやるのじゃ」
ふと、そんな声が響いた。