作品タイトル不明
543話 倒すべき敵
「……」
アルテラは、キョトンと目を大きくして驚いて……
「え?」
次いで、小首を傾げた。
その表情は疑問の色でいっぱいで、わけがわからないというような顔をしていた。
「んー……今、なんて?」
「断る、って言ったんだけど?」
改めて、ユウキはアルテラの誘いにノーを突きつけた。
俺もアルテラを睨みつけて、誘いに乗ることはないと態度で示してやる。
「えー、なにそれ。わけがわからないんだけど。私の誘いを断るとか、どういうこと? 人間のくせに、生意気なんだけど!」
「どうして、俺達が誘いを受けると思っていたのか、すごく不思議なんだけどな」
「悪いけど、僕達は魔族に魂を売り渡すなんてしないよ。最後まで……」
「戦うだけだ!」
それは、ある意味で宣戦布告のようなものだ。
アルテラの思い通りにさせない。
その野望を叩き潰す。
改めて、そんな俺達の意思を突きつけてやった。
「……ふぅん」
アルテラの顔から笑みが消えて、その目はどんどん冷たいものに変化した。
プレッシャーが増して、ギシギシと空気が悲鳴をあげる。
「そっか、私の誘いを断るんだ。せっかく目をかけてあげたのに……あーあ、だから人間ってバカなんだよねー。唯一、生き残る道を自分で蹴っちゃうなんて。ほーんと、バカ」
「そういうわけでもないさ」
「どういうこと? まさか、この状況で逃げられるとでも?」
「いいや。さすがに、それは無理だろうな」
「だよねー。なーんだ、それくらいは理解していたんだね。バカだけど、そこそこ物を考えることはできるみたいだね」
「逃げられないだろうが……なら、敵を倒せばいい」
「……」
「お前を倒して、突破させてもらう」
そうして言葉にすることで、俺は、改めて決意をした。
アルテラは、ルイエの魂を冒涜した。
グレイの命を弄んだ。
そして、たくさんの人々を傷つけてきた。
絶対に許すことはできない。
今、ここで倒しておかなくてはいけない、敵だ。
「……あはっ」
ぽかんとして……
ややあって、アルテラは歪んだ笑みを浮かべる。
「あはっ、あははははは!!!」
腹を抱えて笑う。
涙を流すほどに笑う。
「私を倒す? 人間が? 私を? あはっ、ダメダメ、きゃははははは! なにその冗談。おもしろすぎるんだけど。あははは、笑いすぎて、どうにかなっちゃいそう!」
ひとしきり笑い、
「……調子に乗らないでね?」
ピタリと笑いが止み、ぶわっと殺気があふれだした。
圧を感じるほどの強烈な殺気で、嫌な汗が流れてしまう。
アルテラの足元から炎が舞い上がり、その小さな体を包み込む。
それは、彼女を守る鎧であり、敵を貫く刃だ。
全身に炎をまとわせて、構える。
無事……と言うのも変な話だけど、アルテラを戦線に誘い出すことに成功した。
厄介な敵が一人、増えたのだけど……
しかし、彼女を討てば、一気に現状を打開できる。
「殺してあげる。骨も残さないで、焼き尽くしてあげる」
アルテラが手の平を上に向けて広げて……
そこから、ゴゥッ! と紅蓮の炎が舞い上がる。
「リースちゃんと他の連中は、そこでじっとしててね? アレ、私の獲物だから」
「わかりました。ただ、敵の力は相当なもので……」
「大丈夫、大丈夫。リースちゃんが言うように、そこの人間がアレの血を引いていたとしても、所詮、人間だもん。雑魚は雑魚。それに……」
さらに炎が膨れ上がり、周囲の気温がどんどん上昇していく。
「私、本気でいくからね」
アルテラの瞳の色が変わる。
真紅。
燃えるような赤に染まる。
「だから、心配はいらないよ。リースちゃん達は、あいつらを逃さないように注意しておいて」
「はい、任せてください。アルテラさまが本気を出すというのなら、私達の出番はないでしょうし……逃げ道を塞ぐことに専念しますね」
「うん、お願いね。リースちゃん」
ちょくちょく、リースという名前が聞こえてくるのだけど……
あの女性の魔族が、イリスから聞いたことのあるリースなのか?
そうだとしたら、色々と聞きたいことがある。
アリオスやモニカのこと。
今まで裏で色々と動いてきたのは、なにを企んでのことなのか……などなど。
ただ……
今は、リースのことを考えている余裕はなさそうだ。
アルテラに集中しないと、たぶん、一瞬でやられてしまう。
「ユウキ……あと少し、がんばれるよな?」
「もちろん。レインと一緒なら、なんでもできると思うよ」
「ありがとう、すごく頼もしいよ。ユウキが一緒で、本当によかった」
「それ、僕の台詞だよ」
こんな時だけど、互いに笑い合う。
すぐに死闘が開始されるのだけど、それに対する悲壮感や恐怖といったものはゼロだ。
ユウキが口にしたように、俺達が一緒なら、なんでもできる。
叶わない願いなんてないし、打倒できない敵なんていない。
そう……なんでもできる!
「気に入らない、気に入らないよ……本気になった私を前にして笑っていられるなんて、すごく気に入らない! 泣いて、叫んで、恐怖して、無様に命乞いをするべきなんだから!」
「お前に屈することはない」
「あぁ……もうっ! 本当に生意気、生意気、生意気っ!!!」
ダンダンダン、とアルテラは地団駄を踏む。
その度に地面が割れて、わずかに大地が揺れた。
なんていう力だ。
見た目は幼い少女なのだけど……
その力は、ギガブランドを軽く超えている。
四天王に序列はあるらしいと、以前、勇者パーティーにいた頃に聞いたことがあるが……
おそらく、アルテラは、ナンバーワンかツーなのだろう。
それくらいの力と圧を感じた。
「燃やすっ!!!」
全身に炎をまとうアルテラが突撃を開始して……
戦闘が開始された。