作品タイトル不明
542話 思わぬ提案
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
「うっ、くぅ……はぁはぁ、はぁはぁ……」
俺とユウキは、戦って戦って、戦い続けて……
かれこれ、数時間は剣を振り続けただろうか?
十体のギガブランドを倒すことに成功したものの、さすがに体力が尽きてきた。
体が重くなり、呼吸が乱れ、集中力が途切れてしまう。
傷が増えて、血が流れ、体が冷えてきた。
今すぐに治療を受けないと危ないかもしれないが……
でも、敵はまだいる。
ようやく増援は止まったらしく、新しいギガブランドが現れることはない。
残り五体。
ただ……それだけじゃない。
魔族も追いついてしまい、ギガブランドの後ろに陣を構築している。
その最奥に、アルテラと、見知らぬ女性の魔族がいた。
まだまだ戦いは終わらない。
「ユウキ……大丈夫か?」
「もちろん。ちょっと疲れてきたけど……ちょっとだけ、かな。レインは?」
「俺もちょっと、っていうところだ」
「あはは」
「ははっ」
こんな状況なのに、互いに笑う。
笑うことができる。
だから、俺達はまだ大丈夫。
まだ戦うことができる。
仲間のためだけじゃない。
囚われていた人達の命が、この肩にかかっている。
ならば、どこまでもいつまでも戦い抜こう。
「ユウキ。残りのギガブランドを、まとめて一掃しよう」
「魅力的な提案だけど、できるの?」
「みんなの力が込められた魔石のストックは、あと一つ……コイツを使って、クサナギのサードフォームを起動させれば、それなりの破壊力が生まれる」
「最初の一体を倒した時のアレだね? でも、まとめてとなると、少し火力に不安が残るんだけど……」
「そこは、ちょっとした切り札がある。たぶん、なんとかなると思う」
できることなら、使いたくない切り札なのだけど……
この際、温存なんてしていられないか。
「わかったよ。じゃあ、ギガブランドを一点に誘導しよう」
「話が早くて助かるよ」
「場所は、僕達の手前に……って、あれ?」
ふと、ユウキが怪訝そうな顔に。
その視線を追うと、なぜか、ギガブランドが動きを止めた。
道を作るように、左右に分かれる。
奥にいる魔族達も、同じく左右に分かれていた。
そうしてできた道を、アルテラと女性の魔族が歩いてくる。
どういうことだ?
トドメは自分の手で……ということだろうか?
それにしては敵意が感じられないし、闘気も感じられない。
「やっほー」
ほどなくしてアルテラが俺達の前に姿を見せて、気軽に挨拶をしてきた。
戦闘の最中とは思えないくらい気さくで、笑顔を見せている。
元より、アルテラはこうした性格であると、だいたいの判断はしていたが……
それにしても、まったく戦う意思が感じられないのは、どういうことだろう?
「二人共、すごいんだね。私、感心しちゃった。まさか、無数のコピーを相手に善戦するだけじゃなくて、逆に壊滅させる勢いで戦っちゃうなんて。うんうん、本当にすごいと思うな」
「……ここで、やられるわけにはいかないし、みんなの後を追わせるわけにもいかないからな」
目的は不明だけど、ひとまず、アルテラはこちらとの会話を望んでいるみたいだ。
少しでも体を休めたい。
それと、アルテラがなにを考えているのか知りたい。
二つの思惑があり、会話を受け止める。
「ぶっちゃけ、私としては、すぐにやられちゃうと思っていたんだよねー。だって、ギガブランドだよ? コピーだから理性も自我もないけど、その分、力はマシマシ。普通に考えて、泥臭い人間なんて、すぐに蹴散らしちゃうよねー」
「……」
「でも……あなた達は違う。やられるどころか、逆にやり返して……うんうん、本当にすごいと思うなー。私が誰かを褒めることなんて滅多にないんだから、光栄に思ってよね?」
「そいつはどうも」
「私ね、あなた達のこと気に入っちゃった」
アルテラが笑う。
残虐な笑みではなくて、今回ばかりは、子供のように無邪気なものだった。
そして……手を差し出してきた。
「私のものにならない?」
にっこりと笑いながら、そんな誘いを口にした。
「……なんだって?」
「ど、どういうこと……?」
予想外すぎる展開に、俺とユウキは目を白黒させてしまう。
そんな俺達の反応を笑うわけではなく、アルテラは静かに言葉を続ける。
「だーかーらー、私のものにならない? って言ったの」
「それは、つまり……魔族の仲間になれ、と?」
「うん、そういうこと♪」
コイツ……正気か?
敵ではあるものの、ついついアルテラの頭の心配をしてしまう。
しかし、彼女は至って正気だった。
本気ということをアピールするかのように、勧誘の言葉を重ねてくる。
「人間なのに、ここまで強いなんて予想外。すごくすごく驚いたんだよ? 本当なら、ここで叩き潰さないといけないし、そうしたらとても楽しそうなんだけど……うーん、でもね? 私、ちゃんと損得計算ができる、良い女なの! だーかーら」
アルテラが笑う。
冷たく、鋭利に、酷薄に笑う。
「ぷちっと殺しちゃうよりも、私の部下にしてあげた方がいいかなー、って思ったんだ。うんうん、私ってば、優しいなー。きゃははは♪」
「そんなことを言われて、誘いに応じるとでも?」
「断るの? なら、死んじゃうよ?」
「……」
「それに、私の部下になれば、たくさんたくさん楽しいことができるよ? 知ってる? 人間を殺すのって、すごく楽しいんだよ♪ 口先だけの連中は、圧倒的な力を見せつけて、まずは絶望させてやるの。それで、必死に命乞いをさせて……そこから、手足をねじ切ったりして、じわじわと殺してやるの。その時の悲鳴は、んっ……達しちゃうくらい最高なんだよ♪」
「お前は……」
「あと、人間の女子供を殺すのも楽しいよね♪ この子だけはー、とか言う母親の前で、子供を丸焼きにしてやるの。その時の母親の顔は……あは、あはははっ! ダメダメ、思い返したら笑えてきちゃった。アレ、すごくツボったんだよねー」
「あなたという人は……」
俺とユウキは、共に怒りのゲージが増していく。
そのことに気づいているのかいないのか……
アルテラは、とても楽しそうに、仲間になった利点を語る。
「あ、そうそう。あと、今以上に強くなれるよ? 人間をやめて、魔族になってもらうからね。どれくらい強くなれるのか、っていうのは、具体的には示せないんだけど……うーん。少なくとも、十倍くらいは強くなれると思うよ? ね、とても魅力的でしょ?」
人間が……魔族になる?
ホライズンのエドガーの状況とは違い、根本的に存在が変わってしまうのだろうが……
そんなことが可能なのか?
だとしたら……
「あなた達は、とっても強くなりそうだから、私のお気に入りにしてあげる。えっと……そうだ! 今、私は親衛隊がいないから、二人共、親衛隊にしてあげる。ね、ね、とっても素敵でしょう? 考えただけで、想像しただけで、ブルブルって体が震えてこない? 恍惚とした気分にならない?」
「「……」」
「そんなわけで……二人共、私のものになって?」
俺とユウキは、一度、互いの顔を見て……
それから、アルテラを睨みつける。
「「断るっ!!!」」