作品タイトル不明
541話 欲しい
「へぇ」
ようやく侵入者に追いつくことができたアルテラは、驚きに目を大きくした。
その視線の先には、レインとユウキが。
二人は互いの死角をカバーしつつ、迫りくるギガブランドのコピーと戦う。
理性も自我もないのだけど、その力は以前よりも上。
しかも、十数体。
普通に考えて、敵はいない。
その圧倒的な破壊力を受けて、耐えられるものなんていない。
抵抗することは許されず、押しつぶされるだけ。
そのはずなのだけど……
「ファイヤーボール・マルチショット!」
「壱之剣……雪月花!」
いつまで経っても、レインとユウキはやられない。
多少の傷は増えているのだけど、それだけ。
致命傷には至らず、その動きは止まらない。
むしろ、疲労なんてどこへその、時間の経過と共に加速していた。
ギガブランドのコピーの群れの攻撃を受け止め、受け流し、避けて……
そして、反撃を叩き込む。
一撃で倒すことはできない。
なら、何度でも、倒せるまで叩き込めばいい。
そう言うかのように、二人は絶え間なく攻撃を続けて……
ついに、三体目のコピーが壊れた。
「うわ、驚いた。なに、あれ? 本当に人間? うーん、すごいなー」
アルテラは素直に感心していた。
コピーとはいえ、四天王なのだ。
それを大量にぶつけられて、生き延びるだけではなくて、徐々にではあるが、戦況をひっくり返しているなんて。
「うーん……あの人間を苗床にしたら、すごい魔族が生まれるかな? でもでも、贄にして、魔王さまに捧げる、っていう選択肢も捨てがたいなー。うーん、迷っちゃう」
「アルテラさま」
リースが追いついてきた。
所用をアルテラに頼まれていたため、一時的に、前線を離れていたのだ。
「あっ、やっほー。おかえり、リースちゃん」
「アルテラさまに頼まれていた通り、施設は破棄しておきました。」
「そっか、そっか。うんうん、ありがとうね。リースちゃんは、とってもできる子だから、私もだーい好き。場所がバレちゃった以上、施設をそのままにしておいたら、面倒なことになりそうだからねー」
「いえ、お気になさらず。今回の私の仕事は、アルテラさまのサポートなのですから。その代わり、役に立ったと思っていただけたのならば……」
「コピー技術の提供、だっけ? うん、いーよ。あれは、別に独占するつもりはないからね。まあ、穏健派の連中には与えられないけど……でも、リースちゃんならいいよ。中立派も、言ってみれば、私達と同じだもんね」
「ありがとうございます」
不穏な会話が交わされている間も、レインとユウキは交戦を続けていた。
戦い始めて、すでに一時間は経過しただろうか?
普通なら、体力が尽きて、動きが鈍くなっていてもおかしくはない。
それなのに、レインとユウキは止まらない。
ますます加速して、コピーを迎え撃つ。
さらに一体、撃破された。
「おー、すごいすごい。本当にすごいね。まさか、ただの人間があそこまでやるなんて……もしかして、アレが勇者?」
「正式に認められているわけではないですが、その資格は有していると、そのような情報を耳にしています」
「なるほどー」
アルテラは、キラキラとした目でレインとユウキを見る。
なにも知らない人が見たら、英雄に憧れる女の子のように見えただろう。
しかし、中身はぜんぜん違う。
アルテラの心は闇が渦巻いていて、いつでもどこでも、おぞましく、ろくでもないことばかりを考えている。
「……ねえねえ、リースちゃん」
「はい?」
「あいつらのせいで、せっかく捕まえた人間達には逃げられちゃったんだよねー。残念だよねー。でもでも、あいつらで代用できると思わない?」
「それは……」
「あいつらを苗床にしたら、きっと、とんでもない力を持った魔族ができると思うんだよね。苗床じゃなくて、贄にするのもアリかな? 魔王さまが早く目を覚ましてくれるくらい、上質な魂を持っていそう。あ、でもでも……」
アルテラが、ニヤリと笑う。
幼い容姿に反して、邪悪で、歪で、醜悪で……
恐怖を撒き散らすかのような、恐ろしい笑みだった。
「私のおもちゃにする、っていうのもアリかな♪」
「……」
「あ、それいいかも。思いつきで言ってみたけど……うんうん。たくさん遊んで、かわいがって、優しくしてぇ……で、最後はぱくり、っておいしく食べないと。そうしたら、私、もっともっと強くなれるよね」
アルテラは、他者を捕食することでここまでの力を手に入れた。
そうすることで、限界を超えて成長してきた。
「ねえねえ、リースちゃんはどう思う?」
「そうですね……」
少し考えた後、リースは笑顔と共に答える。
「私としても、レインさんは、そろそろ退場してほしいと思っていたので、とても素晴らしい案かと。あちらの人間と一緒に『食べて』しまえば、アルテラさまは、さらに強くなれるでしょう」
「だよね、だよね!? あー、そうなると、ワクワクしてきたかも。もう、逃げた人間達のことなんてどうでもいいや。あの二人、欲しいなー、早く食べたいなー」
ウキウキとするアルテラは、今すぐにでも前線に突撃しようとするが、
「アルテラさま、もう少し我慢してください。せっかく、コピーをぶつけているのです。コピーでは、あの二人を倒すことは難しそうですが、体力を削ることは可能でしょう。多少、時間はかかりますが……ある程度すれば、動けなくなるはず。その後、アルテラさまが好きにすればいいかと」
「えー、それって、私が姑息みたいなんだけど」
ぶーと唇を尖らせて……
しかし、すぐにアルテラは笑顔になる。
「でもでも、それはそれで楽しそうかな♪」
アルテラは、戦い続けるレインとユウキを見る。
二人は、こんな状況でも諦めていない。
絶望することなく、希望を抱いている。
ならば、それを打ち砕いてやりたい。
全て乗り切ったと思い、安心したところで、自分が登場して絶望させてやりたい。
その時、どんな顔をするだろう?
悲鳴をあげてくれるだろうか? 泣いてしまうだろうか? 助けてくれと懇願してくるだろうか?
それらを想像しただけで、アルテラはブルブルっと体を震わせてしまう。
「あぁ……もう、たまらないなあ♪」
アルテラは、愉悦に満ちた笑みを浮かべた。
それは、悪魔以外の何物でもない。
他者の不幸を己の幸福とする、歪んだ心。
自分のことしか考えていない、自己中心的な思考回路。
人間の間で語られているように……
アルテラは、誰よりも魔族らしい魔族だった。
レインとユウキが欲しい。
早く欲しい。
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい……
アルテラは、必死に戦場に乱入するのを我慢した。
成り行きを見守ることにした。
そして……
いよいよ、レインとユウキの体力がゼロに近づいてきた。