作品タイトル不明
538話 やっぱり
カシオンと遭遇するというトラブルはあったものの……
なんとか地上に出ることができた。
連れ去られた人の保護をして……
四天王の目的も判明した。
あとは海を渡り、連れ去られた人達と一緒にクリーグラントへ帰還すれば依頼完了だ。
あと少し。
もう少しで脱出できる。
それなのに……
「レイン、まずいわ」
ユニアとアニを背負い、先をゆくタニアが足を止めた。
なんだろう?
もしかして、敵に先回りをされていたのか?
そんな事態を想定するのだけど……
より最悪の展開が訪れる。
「この子達、すごく苦しそうなんだけど……ど、どうする?」
ソラとルナが毛布を地面に敷いて……
タニアは、そっとユニアとアニを寝かせる。
「ユニア? アニ?」
二人は顔を赤くして、はぁはぁと荒い吐息をこぼしていた。
意識が混濁している様子で、こちらの呼びかけに応じない。
「タニア。二人は、いつぐらいから?」
「よくわからないけど……この子達の姉があんな風になってから、元気がなくなっていたように思うわ」
「……そうか」
愛する姉が死んでしまい、それだけではなくて、化け物にされてしまい……
ひどいショックを受けただろう。
そうした心のダメージが表に現れてきた、ということか。
生きる希望がなくなれば、人は簡単に死んでしまう。
元々、囚われの身で体力は落ちていた。
そこに心のダメージが重なり、一気に限界に近づいた、というわけだろう。
「ソラ、ルナ。魔法でなんとかならないか?」
「むう……すまないのだ、それは難しいのだ」
「怪我の治療なら、ある程度は可能ですが、心の傷が原因となっているので、ソラ達にはどうしようも……すみません」
「……いや、謝らないでくれ。無茶を言った俺が悪い」
急いで治癒師に見せる必要がある。
「……ソラ、ルナ。捕まっていた他の人達は、転移で安全な場所に送ったと言っていたが、それはどこに?」
「ソラ達が上陸した場所の近くです」
「あの辺りは魔物も魔族もいないから、しばらくなら隠れていることは可能なのだ」
「ということは、まだ西大陸にいるということ……か」
ここでタニアに竜形態に戻ってもらい、俺達を乗せてクリーグラントへ……という手は使えない。
そんなことをしたら、他の人達を見捨てることになる。
往復をするにしても、そこまでの時間が残されているかどうか。
最善は、他の人達と合流をして、先導をする形でみんなで脱出する。
でも、ユニアとアニの様子を見る限り、無茶はできない。
移動は慎重に。
負担をかけないよう、ゆっくりと穏やかにするべきだ。
「……でも」
追手のことを考えると、できるだけ急ぎたい。
あんな性格をしたアルテラが、素直に俺達を逃がすわけがない。
必死に追いかけてきているだろう。
ユニアのアニに対する負担を考えると、全速の移動はできない。
しかし、そうでもしないと追いつかれてしまう。
「レイン」
とても険しい顔をしたユウキがこちらを見た。
たぶん、俺と同じようなことを考えているのだろう。
「難しくて、残酷なことだけど……決断をしないと」
「その決断っていうのは、もしかして……」
「この子達を見捨てる決断だよ」
「ユウキ、でもそれは……」
「わかっている、わかっているよ。僕がどれだけ酷いことを言っているのか、ちゃんと自覚しているよ……でも、それ以外にないんだ」
ユウキは、強く強く拳を握りしめていた。
あまりにも強く握るものだから、血が流れていた。
それは、彼の心の涙のようだった。
「この子達を気遣っていたら、敵に追いつかれてしまう。そうなれば、終わりだ。僕達だけじゃなくて、海岸の近くで待っているであろう他の人達を助けることもできない。なにも……残らない」
「……」
「でも……この子達を見捨てれば、他の人達を助けることはできる。最低の選択だけど……だけど、残るものはある」
「確かに……そうだな」
ユウキの言葉は、圧倒的な正論だ。
全滅するか、二人を犠牲にして複数を救うか。
その二択なら、圧倒的に後者が正しい。
そんな選択を取ることができるユウキは、とても強い。
「どうして……ユウキは、そんなに強いんだ? 俺は、誰かを犠牲になんてしたくないのに……」
「でも、グレイが犠牲になった」
「……」
「僕は王族だから、いざという時に決断を迫られる。今が、その時なんだろうね。だから、そういう心構えをしてきたから、っていう理由はあるんだけど……やっぱり、一番の理由はグレイかな。彼は、僕達を生かすために犠牲になってくれた。その身と魂を捧げてくれた。なら、僕達は絶対に生き延びないといけない。彼の想いを背負っているんだ」
「……そう、だな。それしかないのか……」
ユウキの言葉に、みんなは悔しそうにしつつも……
次いで、感情を押し殺して、納得するような顔になった。
俺も、似たような顔をしていると思う。
ここに来るまでに、グレイが犠牲になった。
彼の死を無駄にしてはいけない。
だから、俺達は生き延びないといけない。
生きて、より多くの人を助けないといけない。
それが、グレイの想いを背負うということなのだ。
彼に託されたものを無駄にするわけにはいかないのだ。
だから俺は、ユニアとアニを見捨てて……
「レインさまは、本当にそれでよろしいのですか?」
唯一、無表情を貫いていたイリスが、静かに問いかけてきた。
その瞳は、なにかを強く訴えているかのようだ。
「イリス……? 俺は……」
イリスの瞳を見ていると、心が強く揺さぶられた。
彼女と出会い、わがままを押し通した時のことを思い出す。
そう、あの時の俺は……
「レイン、行こう。急がないと、追手が来る」
「……いや」
「レイン?」
「やっぱりダメだ」
俺は、ユウキの圧倒的な正論を否定した。