作品タイトル不明
539話 もう誰も
「ユニアとアニは見捨てない」
迷いは消えた。
きっぱりと言い切ると、みんなの顔が明るくなる。
なんだかんだで、みんなも同じ想いを抱いていたみたいだ。
こんな時だけど、そのことがうれしい。
「レイン、それは……」
ユウキが険しい顔になる。
そんなことは不可能だと、そう言いたいのだろう。
ふと、アクスとセルのことを思い出した。
互いにどうしても譲れないところがあり、対立することになってしまったが……
今回も、そうなるのだろうか?
ユウキと衝突してしまうのだろうか?
同年代の友達は初めてで、そんなことは避けたいのだけど……
でも、俺が俺であるために。
あくまでも、信じる道を突き進んでいきたいと思う。
「気持ちはわかるよ。こんな小さい子を見捨てないといけないなんて、絶対にしたくない。でも……そうしないと、僕らは全滅だ。僕らだけじゃない。途中まで逃している人達も、西大陸から脱出することができなくなって、同じく全滅してしまう。厳しいことを言うけど、レインは、彼らの命まで奪おうとしているんだよ?」
「このままなら、そうなるだろうな」
「え?」
一応、俺も学習している。
ただのわがままで、みんなや捕まっていた人達の命を危険に晒すつもりはない。
「早く移動することができない。そのせいで、追手に捕まってしまう。だから、ユニアとアニを見捨てる……それはダメだ」
「なら……どうするんだい?」
「答えは、簡単だ。足が遅くなる分、敵の足も遅くすればいい……俺が殿を務める」
「なっ!?」
ユウキが驚いて……
一方で、みんなはあまり驚かない。
長い付き合いだ。
俺の台詞を、なんとなく予想していたのだろう。
ただ、それを許容してくれているかというと、それは別の話で……
また勝手なことをして。
というような感じで、ジト目を向けられてしまう。
「俺が敵の足を止める。その間に、みんなはユニアとアニを連れて、できるだけ距離を稼いでほしい。どの道、二人を見捨てても追いつかれるかもしれないからな」
「……レインは、どうするつもりなんだい?」
「もちろん、死ぬつもりなんてない。みんなが逃げ切れるだけの距離を稼いだら、なにか、合図をくれ。そうだな……空に向けて魔法を打ち上げるとか、そんな感じで。そうしたら、全力で逃げて、みんなに追いつくよ」
「そんなこと……簡単に言わないでくれよ!!!」
怒りを爆発させるかのように、ユウキは強く叫んだ。
そのまま、こちらを睨みつけてくる。
「グレイでも無理だったんだ! それなのに、レインが大丈夫なんていう保証はどこにもないだろう!? 無理に決まっている! なんで、命を投げ出すようなことをするんだ!!!」
ユウキは……怒りを爆発させたわけじゃない。
悲しみを爆発させていた。
大事な仲間を失い……
そしてまた、俺を失おうとしていることを悲しみ、その結果を拒絶しようとしているのだろう。
とても優しい人だ。
もしも、彼が次の王になるのだとしたら、この国は安泰だろう。
「ごめん、心配させて」
「謝るくらいなら、そんなバカな案は撤回してほしい」
「悪い、それはできない」
「どうして……レインだって、本当はわかっているだろう!? こんなことはしたくないけど、でも、ユニアとアニを見捨てるしかないんだ! こうする以外の方法がないんだ。それなのに……」
「わかっているよ。わかっている……だから、やっぱり、これは俺のわがままなんだろうな」
結局のところ、俺はそういうタイプの人間だ。
自分の思い通りにならないと気が済まない。
そして……
思い描く未来を手に入れるためならば、なんでもしてみせる。
「現実的なことを言うと、ユニアとアニを犠牲にするよりも、俺が犠牲になった方がいいだろう?」
「そんなこと……!」
「あるよ。未来ある小さな命が二つと、普通の一つの命。比べるとしたら、前者だろう?」
「それは……」
「まあ、現実的な話はそれで。あと……俺としてはこちらが本当に話したいことなんだけど、もうイヤなんだ」
「レイン……?」
「誰かを犠牲にして生き延びるなんて、イヤなんだ」
「……」
「グレイのことは仕方ないって、そう自分に言い聞かせたけど……でも、やっぱり納得できそうにない。何度も何度も後悔しているよ。やっぱり反対しておけばよかった、俺も残ればよかった……後悔しかない。あの選択は間違いだったって、そう言える。だから、もう後悔したくない。間違えないように、二人を見捨てない道を選ぶ」
「だからって……!」
「そのためならなんでもしてみせる。グレイがそうしたように、俺も命を賭けてみせる! わがままを言うからには、それくらいの覚悟はあるよ。もう俺は、誰も犠牲にしない……絶対に、だ!!!」
「……」
俺の絶対的な意思を感じ取ったらしく、ユウキは言葉を失う。
たぶん、内心では俺を引き留めようと、考え直させようと思っているのだけど……
俺の決意を前に、言葉が見つからないみたいだ。
そんな彼を安心させるために、俺はさらに言葉を続ける。
「付け足しておくと……俺は、死ぬつもりなんてない。強がりでも、ユウキを安心させるための虚言でもなくて、本気でそう思っている」
「そんなこと、無理に決まっているじゃないか……」
「そうか? そんなこと、誰が決めた?」
「それは……」
「俺は、生きて帰るよ。だって……誰も犠牲にしない、って決めたんだ。その中に、当然、自分自身も含まれている」
「あ……」
「それに、グレイと約束したんだ。ここで死ぬようなことはしないし、生きてみせる。そして……俺らしくあってみせる」
「……レイン……」
「ここでユニアとアニを見捨ててしまうのは、俺らしくない。グレイとの約束を違えてしまう。それだけは絶対にダメだ。それこそ、彼の行為を無駄にしてしまう」
「それは……」
「みんなも、そのことをわかっているんだよな?」
タニアとイリス、ソラとルナは、当然というように頷いてみせた。
「レインが無理無茶をするのは、わりといつものことだから、最近は慣れてきたわ。まあ、心配はするんだけど」
「ですが、レインならソラ達を悲しませるようなことはしないと、そう信じています」
「ユニアとアニ、それと、捕まっていた人達のことなら心配するな。我が、責任を持ってクリーグラントまで送り届けるとしよう」
「そもそも、わたくし達がレインさまのことを信じなければ、誰が信じるという話ですわ。故に、わたくし達は絶対的な信頼をレインさまに寄せるのですわ」
「うん……みんな、ありがとう」
本当は、ものすごく心配してくれているのだろうけど……
それを我慢して、俺を送り出そうとしてくれている。
俺の意思を尊重してくれている。
彼女達は、本当に良い仲間だ。
出会えたことを、神さまに感謝したい。
「……はあ」
降参というような感じで、ユウキはため息をこぼした。
その顔は、どこか晴れ晴れとしていた。
「まさか、レインがここまでの頑固者だったなんて。僕は、まだまだレインのことを知らなかったみたいだね」
「これから、知っていけばいいさ」
「そうさせてもらうよ。だから、そのために……僕も残るよ」
「え!?」
さすがに、この展開は予想外だった。
目を大きくして驚いて、ついつい、ユウキをじっと見つめてしまう。
「いや……まてまてまて! そんなことは認められないぞ」
「レインがわがままを言うから、僕もわがままを言うよ。止められないからね?」
「一人で十分だ! 二人も必要ない!」
「でも、二人の方が生存率が高くなると思わない?」
「それは……」
返す言葉がない。
「本気……なのか?」
「もちろん」
「かなり危険だぞ? それに、ユウキは王子で……」
「そうだね、僕は王子だ。本来なら、危険に突っ込むなんてしたらいけない。グレイがここにいたら、とんでもなく怒られるだろうね」
「なら、どうして……」
「でも、ここで先に行くと、それはそれでグレイに怒られるよ。っていうか、失望されるかも」
「なんで……」
「そんなこともわからないのかい? レインって、聡かったり鈍かったり、コロコロと変わるね」
ユウキは、ニッコリと笑う。
とても澄んだ、青空のような笑顔だ。
「僕は、レインの友達だ」
「あ……」
「友達の力になるのは、当たり前のことだよね? その友達を見捨てたら、グレイに怒られるよ。というか、グレイが誇れる主でいられない。僕は僕で、グレイとの約束を守りたいんだ」
「……ユウキ……」
「できるなら、ユニアとアニを見捨てたくはないし……やれるっていうのなら、レインに賭けることにするよ。友達だからね」
「……っ……」
うれしすぎる言葉に、ついつい涙がこぼれてしまいそうになる。
でも、今は泣き顔を見せる時じゃない。
今は……
「ありがとう」
俺も笑顔を浮かべて、ユウキと握手を交わした。