作品タイトル不明
537話 悪く思うな、って言いたいところだが
「さーて……ここから先は行かせねえよ。通行止め、っていうヤツだ。どうしても通りたいっていうのなら、俺らをどうにかしてみせるんだな。ただ……ジルオールさまの親衛隊である、このカシオンさまに敵うヤツなんて、人間にいるわけねえけどな!」
自信満々に、カシオンはそう言うのだった。
そんな彼を見て、俺は、ついつい迂闊な言葉をこぼしてしまう。
「カシオン……お前、なんでここに……?」
「あん? なんだ、その口ぶりは? まるで、俺のことを知っているみたいな……いや、待てよ?」
カシオンは、じっとこちらを見つめて……
ややあって、唖然とした表情を作る。
「お前……もしかして、レイか? そっちはユウで、ソーラとルーナか?」
バレた。
一応、顔を合わせていた時と姿や声は違うのだけど……
カシオンは四天王の親衛隊と聞くし、勘が鋭く、洞察力も優れているのだろう。
彼の目をごまかすことはできず、こちらの正体がバレてしまう。
まあ、今のは、ついつい彼の名前を呼んでしまった俺のミスでもあるのだけど。
「おいおい、マジかよ……ネズミが紛れ込んだから、捕まえるのに協力しろと命令されて来てみれば、ネズミがレイ達だったなんてな……勘弁してくれよ。魔族じゃなくて、人間だったのかよ。ったく……俺、お前らのことは、けっこう気に入ってたんだぜ? 親衛隊に推薦しようと思ってたんだが」
「そこまで評価してくれていたのか?」
「当たり前だろ。普通に強いし、なにより、俺らのために戦ってくれた。その心意気に、俺は惚れたのさ」
こちらを油断させるとか、持ち上げるとか、そういう意図は感じられない。
今の言葉は、カシオンの本音なのだろう。
アルテラは、ルイエの命を奪い、さらにその魂まで冒涜した。
絶対に許すことはできない。
しかし、カシオンは同じ魔族とは思えないほど、まっすぐで義理人情に厚い性格をしていた。
正直なところ、良い友達になれるのでは? と思うほどだ。
その上に立つジルオールも、軽く話しただけではあるが、悪い人物には見えなかった。
アルテラと同じ四天王とは思えず、話が通じる相手だと思う。
同じ魔族なのに、この違いは、いったいどういうことなのだろう?
すごく気になるものの……
今は、そういった疑問を考えている場合じゃないか。
「どうして、カシオンがここに?」
「そいつは俺の台詞なんだがな……まあ、いいか。俺が先に答えてやるよ」
やれやれと、カシオンがため息をこぼす。
そんな仕草を取りつつも、隙は見えない。
いつでも戦闘に移行できるよう、常に集中しているようだ。
「俺らは穏健派だから……あー……レイ、お前、人間っていうことは、穏健派とか強行派とか、詳しくは知らねえのか?」
「知らないな。それと……悪い、俺の本当の名前は、レインだ」
なぜかわからないが、カシオンには本当の名前で呼んでほしかった。
「そっか、レインだな」
カシオンは、どことなくうれしそうに頷いた。
「まあ、簡単に説明すると、強行派は、魔王さまの意思を勝手に代弁して、勝手な行動をする連中だ。一線は越えないが、かなり勝手なことをしてやがる。一方の穏健派は、戦いに疲れた連中が集まっている。魔王さまが目覚めたら、もう戦争はやめませんか、って進言しようと考えている派閥だ」
まさか、そんな派閥ができていたなんて。
あまりにも予想外すぎる展開に、思わず目を丸くしてしまう。
驚いているのは俺だけじゃなくて、みんなも……
特に、イリスが一際驚いていた。
彼女は、以前の魔王を知っているだろうし……とてもじゃないが、そう簡単には信じられないのだろう。
「魔王さまの命令は絶対だから、俺達は異端の中の異端だ。排斥されて当たり前で、数も少なく、力もない。ジルオールさまが穏健派のトップに立ってくれていなかったら、とっくに潰されていただろうな」
「……その穏健派のカシオンが、どうして、アルテラなんかに協力を?」
「俺だって、あの性悪幼女なんかに協力したくねえけどな。ちょくちょく、嫌がらせをされるし、たまに本気で潰しにかかってくるし。ただ、要請がある以上、断れねえのさ。そんなことをしたら、全力で潰されちまう」
「なるほど」
アルテラとジルオールは、同じ四天王でありながら対立をしている。
しかし、力関係はジルオールの方が下。
その部下であるカシオンは、アルテラの要請を断ることができず……
ここにいる、というわけか。
アルテラからしたら、貴重な部下をなるべく使いたくないのだろう。
それよりも、目障りな穏健派を使い潰したいのだろう。
「ってなわけで、説明終わりだ。だいたいのところは理解したな?」
「ああ」
義理と恩があるから、納得できないことは説明した。
でも、それも終わり。
後は、本来の役目を果たすだけ。
そう言う感じで、カシオンは構えた。
俺も、クサナギを構える。
魔族のことは、もっと知らないといけないと思うし……
カシオンのことは、好ましいと思う。
でも、立ちはだかるというのならば……斬る!
「ちょっといいかな?」
戦闘が開始されようとした、その時。
いつもと変わらない感じで、ユウキが口を挟んできた。
「僕も聞きたいことがあるんだけど、いい? あ、僕はユウじゃなくて、ユウキだよ。安直な偽名でごめんね」
「確かに安直だな」
カシオンは苦笑しつつ、ユウキに話の続きを促した。
「ちょっとした提案があるんだけど……僕達のことを見逃してくれないかな?」
「あん?」
カシオンは、怪訝そうな声をこぼして……
次いで、ぶわっと激しい闘気を膨らませた。
「俺を舐めているのか? 確かに、お前達のことは気に入っているが、俺は魔族だ。ジルオールさまの親衛隊という誇りもあり、主のことは絶対に裏切れねえ」
「そうだね」
「アルテラのことは気に食わねえが、だからといって、お前達を見逃すつもりはねえよ。んなことをしたら、ジルオールさまが不利になる。あと、俺ら魔族にとって、人間は敵だ」
人間が敵というスタンスは、穏健派も変わらないのか……
謎が一つ、また増えた。
「でも、敵の敵は味方、って言わない?」
「あん?」
「アルテラは、僕達が倒す」
ユウキは、強く言い切った。
その顔は穏やかなものだけど……
瞳には、激しい怒りの炎が宿っている。
「今は、脱出を優先しないといけないけど……でも、その後、アルテラを倒す」
「へえ、言うじゃねえか。アルテラは、ジルオールさまよりも強い。四天王で二番目の力を持っているからな」
あれほどの圧を持っていながら、二番目なのか。
四天王のトップに立つヤツは、いったい、どれほどの力を持っているのか。
考えるだけでげんなりする。
「ここで僕達を見逃せば、アルテラを排除することができる。そうすれば、カシオン達、穏健派はそれなりに有利な立場になるんじゃないかな?」
「だから、見逃せと? 本当に倒せるかどうか……いや、戦うかどうかすらわからないってのに?」
「そこは信用してくれないか?」
「……レイン……」
横から口を挟む。
ユウキだけに無茶難題を押しつけるつもりはない。
彼のことを支えたいと思うし、苦難は一緒に乗り越えたいと思う。
「人間を……軽く話しただけのお前達を、信用しろと?」
「でも、同じ戦場を駆けたことがある。同じ目的で戦ったことがある」
「それは……」
「カシオンからしたら、そんな俺達なら信用はできると思うが……どうだろう?」
「……」
わずかな沈黙。
ややあって……
「悪く思うな、って言いたいところだが……好きにしろ。ただし、今回だけだ。次、会ったら容赦しねえからな」
「……ありがとう」
もしかしたら、魔族ともわかりあえるかもしれない。
カシオンを見て、そんなことを思うのだった。