作品タイトル不明
536話 絶望は続く
「……」
誰もなにも言わない。
後ろを振り返ることなく、前だけを見て、黙々と歩みを進めていく。
時折、後ろからなにかが激突するような音が響いてきた。
ユウキはピクリと肩を震わせるものの、しかし、足は止めない。
なにも言わず。
顔色も変えず。
ただただ前を向いて、歩き続ける。
「ユウキ」
気がついたら、俺は彼に声をかけていた。
俺がしようとしていることは、安い同情なのかもしれない。
意味のない慰めなのかもしれない。
それでも。
グレイと付き合いの短い俺でさえ、こんなにも辛いのだ。
ユウキは、胸が張り裂けそうになっているはず。
そう考えると、どうしても放っておくことはできなかった。
「うん? どうしたの、レイン」
「……グレイの代わりなんて、誰も務まらないけどさ。でも、俺がいるから」
「……レイン……」
「俺だけじゃない、みんなもいる。だから……ユウキは一人じゃない。そのことだけは忘れないでほしい」
一瞬、ユウキの顔がくしゃりと歪んで、
「……うん、ありがとう」
泣きそうになりつつも、笑顔を見せてくれた。
すごく辛いだろうし、その気持ちがわかるなんて、無責任なことは言えない。
それでも、ユウキはまだ笑うことができる。
笑えるのなら、大丈夫だ。
「レイン……ここにいるみんなで、絶対に帰ろうね」
「ああ、そうだな」
俺とユウキは、互いの拳をコツンと軽くぶつけた。
それは、指切りと同じ意味を持つ約束だ。
「タニア。ユニアとアニの様子は?」
後ろを振り返り、二人の様子を確認する。
タニアが二人をまとめて背負っているのだけど……
ルイエのことがあるから、とても心配だ。
「大丈夫よ。今は、ソラとルナの魔法でぐっすりと眠っているわ」
「そっか……なら、良かった」
「でも、目を覚ましたらどうなるか……」
「そう、だな……」
大好きな姉が死んでしまい……
それだけではなくて、魔族にされてしまった。
そんな光景を目の当たりにした姉妹の心は大丈夫だろうか?
どうか無事であってほしいと、祈らずにはいられない。
「レインさま」
先頭を行くイリスが鋭い声を発して、足を止めた。
「この先に強い魔力を感じますわ。おそらく、魔族かと」
「数は?」
「それほど多くはないと思います。それと、さきほどの量産型四天王でもないと思いますわ」
「量産型、って……」
イリスの言い方に、ついつい笑ってしまう。
「ふふ。あのような無粋なもの、量産型で十分ですわ。まともに名前で呼ぶなんてこと、いたしません。その時間すら無駄ですもの」
いたずらっぽく言うイリスは、俺のことを心配しているみたいだった。
だから、あえておどけているのだろう。
俺は、こんなにも素敵な仲間がいる。
だから、悲しいこともなんとか耐えることができる。
できることならば、ユウキのことも俺達が支えたい。
「他に道は?」
「むーん……今、魔法で探ってみたが、ちょっと難しいのだ」
「横に逸れれば、イリスが探知した魔族を避けることは可能かもしれませんが、その場合、さらに遺跡の奥へ迷い込んでしまうかもしれません」
「徹底的に交戦を避けるか、それとも、多少の危険は覚悟で突っ切るか……」
どっちだ?
「……このまま進んで、待ち受けているであろう魔族を蹴散らすぞ」
考えた末に、そんな決断を下した。
ユニアとアニがいる以上、極力、戦闘は避けたい。
しかし、下手な場所に迷い込んでしまうことは、もっと避けたい。
万が一、行き止まりに迷い込み、そこでギガブランド達に追いつかれたら、どうなるか?
想像もしたくない。
危険はあるかもしれないが……
相手がギガブランドの群れでないというのなら、なんとかなるだろう。
「うん、僕はレインに賛成するよ。こんなところにいる以上、危険を完全に回避することは難しいからね」
「あたしもレインに賛成よ。安心して。この子達は、あたしが絶対に守ってみせるわ」
ユウキとタニアを始め、みんなが賛同してくれた。
決まりだ。
どのような魔族が待ち構えていたとしても、必ず突破してみせる。
強い決意を胸に抱いて、俺達は足を進めた。
そして……
「ここは……?」
上から差し込む眩しい光。
陽の光だ。
どうやら、あちらこちらを移動しているうちに、運良く地上へ出ることに成功したらしい。
しかし、喜んでばかりもいられない。
辿り着いた場所は、闘技場らしき空間。
俺達を逃さないように待ち構えていたらしく、複数の魔族の姿が。
ただ、これは予想通り。
複数のギガブランドがズラッと待ち構えていないだけ良しとしておこう。
「よう、人間。詳しくは知らねえが、色々と好きにやってくれたみたいだな? でも、それもここで終わりだ。ここで死んでもらうぜ」
「なっ……」
一つだけ、予想外のことがあった。
俺達の前に立ちはだかる魔族……
そのうちの一人は、カシオンだった。