作品タイトル不明
528話 待ち構えていた者
通路の先から、複数の魔族を引き連れた女の子が現れた。
見た目は幼いのだけど……
しかし、見た目に騙されてはいけないと、強く警戒する。
対峙しているだけで、自然と体が震えてしまいそうな、そんな威圧感を覚えた。
「ふふっ、はじめまして」
女の子はにっこりと笑い、お辞儀をする。
「私は、アルテラ……四天王の一人、豪炎のアルテラ。よろしくね」
「お前が……」
ギガブランドは、身の丈三メートルを超える、巨人のような大男だった。
だから、アルテラも似たようなものを想像していたのだけど……
意外な真実に驚いてしまう。
「レイン、これは……」
「どうやら、罠だったらしいな」
すでに、俺達の潜入はバレていて……
アルテラは、あえて俺達を泳がせていたのだろう。
「ここまで、俺達の好きにさせていたみたいだが……なぜだ?」
「あれー、わかっちゃう? わかっちゃう? きゃははっ、だって、その方が楽しいじゃん♪」
「楽しい?」
「あとちょっとで脱出できる、みんな助かる……っていう希望を抱いたところで、実はダメでしたー! って絶望を突きつけてやるの。すごく楽しくない?」
「……」
「捕まえた人間達で、そういうことを何度かしたんだよねー。そしたら、みんな、ものすごく面白い顔をして、泣いて喚いて……あははっ、ダメ。思い出したら笑えてきた、お腹痛い」
ユウキを始め、みんなの顔が険しくなる。
たぶん、俺も似たような顔をしているだろう。
出会ったばかりだけど……
アルテラの性格は最悪だと断言することができた。
「悪いが、簡単に絶望なんてしないからな?」
クサナギを構える。
それから、三人を頼むと、タニアにアイコンタクトを送る。
タニアはコクリと頷いて、ルイエをしっかりと抱いて、それからユニアとアニを自分の近くへ招いた。
ユウキは双剣を、グレイは大剣を、それぞれ武器を手に取る。
「邪魔をするなら、強引に押し通るだけだ」
「やだー、お兄ちゃん、こわーい」
ふざけたヤツなのだけど……
でも、それだけの余裕があるのだろう。
事実、俺達は圧倒的に不利な立場にいる。
出口は、アルテラとその部下達によって塞がれている。
引き返そうとしても無駄だろう。
たぶん、来た道も魔族が配置されているはずだ。
「ちっ、だから言ったじゃねーか」
「責任はとる」
グレイの憤りはもっともだ。
だから、俺は俺にできることをする。
「俺がアルテラと、その他の魔族を相手にする。二人はタニアの援護を。どこかで隙を見て、逃げてくれ」
「は? お前……坊っちゃんらを逃がすために、犠牲になるっているのか?」
「犠牲になるつもりはないさ。でも、誰かが足止めをしないといけない。でないと、ここで全滅だ」
「……」
「俺が言い出したことだ。だから、足止めは俺がする」
「お前のこと、甘いって言ったが……ちと追加させてもらう。甘っちょろい、っていうところは訂正しないが、ただ、覚悟はできているみたいだな」
ありがとう。
それは、とてもうれしい褒め言葉だ。
「グレイ! まさか、レインを置いていくつもりなのかい?」
「坊っちゃんも理解しているでしょう? 全員で、というのは不可能ですぜ。誰かが犠牲にならないとダメな場面だ」
「それは……ぐっ」
この状況を切り抜けるには、文字通り、誰かが命を賭ける必要がある。
ユウキもそのことを理解しているらしく、とても苦い顔をした。
拳を握り、唇を噛む。
ややあって、前を向いた。
「……レイン、お願いしてもいいかな?」
「任せてくれ」
「……ごめん」
「謝罪よりも、別の言葉が欲しいかな?」
「がんばれ」
「ああ!」
作戦は決まった。
俺はクサナギを手に、突撃を……
「色々と考えているところ、悪いんだけどー」
アルテラが笑う。
「私の楽しみのために、もっともっと、もーっと絶望してね?」
パチンと指が鳴らされる。
「なにを……?」
「えっ!? ちょ、な、なによこれ!?」
「タニア?」
アルテラを警戒しつつ、肩越しに振り返る。
すると……
「なっ!?」
タニアが抱えていたルイエの遺体に異変が起きていた。
皮膚の下に生き物がいるかのように、ボコボコと膨れ上がる。
「タニアっ、ルイエから離れるんだ! ユニアとアニを連れて、早くっ!!!」
「くっ!」
タニアは、ルイエをその場に置いて、変わりにユニアとアニを両脇に抱えた。
そのまま、一気に俺のところまで跳躍する。
その直後だった。
ルイエの遺体が一気に膨れ上がり……
膨大な魔力を撒き散らしつつ、異型へ変貌する。
「これは……そんな、バカな……」
ルイエだったものは、まったく別のものに変わった。
作り変えられた。
その大きさは三メートルほど。
巨人と見間違えるほどに手足が太い。
胸部には、黒く輝くクリスタルが埋め込まれていて、不気味な光を放っていた。
瞳は赤く、赤く、赤く……
血のようなとても深い紅だ。
ところどころ、細部が違う。
性別も逆転している。
でも……同じだ。
アイツと同じだ。
見間違えるはずがない。
「……ギガブランド、だと?」
ルイエだったものは……
四天王の一人、大地のギガブランドに変貌した。