作品タイトル不明
526話 間に合わなかったとしても
「……」
いったい、なにが起きているのか?
目の前の光景を理解することができない。
いや……
理解はしていた。
なにが起きているのか、すぐに察した。
でも、それを受け止めることができず、呆然としてしまう。
「レイン」
そっと、タニアが隣に立ち、俺の手を握ってくれる。
その温かさが、俺に正気を取り戻させてくれる。
「……ありがとう、タニア」
「ううん、どういたしまして」
「遅かったとしても……やることをやらないとな」
一度、深呼吸をして……
どうにかして心を鎮めた後、そっと前に出る。
「だ、誰っ!?」
「ひぅ!?」
足音でこちらに気がついたらしく、女の子達が勢いよく振り返る。
一人の女の子が前に出て、こちらを強く睨みつける。
もう一人の女の子は、倒れている子をしっかりと抱きしめる。
たぶん、三人は姉妹なのだろう。
とても強い絆で結ばれていることがわかる。
なるべく警戒させないように、俺は、ゆっくりと手を差し出す。
「俺の名前は、レイン・シュラウド。冒険者だ。きみ達を助けに来た」
「え……?」
「助け……に?」
二人の女の子は、ぽかんとする。
そして……俺の言葉を信じることができない様子で、次いで迷いの表情に。
見た目は人間と変わらない魔族もいるから、当たり前の反応だろう。
なので、ここはユウキを頼りにさせてもらう。
「大丈夫。俺達は、人間だ。その証拠に……ユウキ」
「うん、任せて」
今度はユウキが前に出る。
「僕の名前は、ユウキ・ヴァン・ロールリーズ。国の第一王子だよ。ほら、これがその証拠だよ」
ユウキは、王家の紋章を取り出して見せた。
こんなものを偽造して使うバカなんていないし……
わざわざ、魔族が複製する理由もない。
そのことを女の子達も理解したらしい。
助けが来たということを知り、安堵して、体中の力が抜けていく。
地面にへたり込んでしまい、そのまま静かに涙をこぼす。
「よか、った……ほ、本当に、助けが来てくれたんだ……私達、これで……」
「でも、なんで……もうちょっと早く来てくれたら、お姉ちゃんは……なんでぇ……」
「……っ……」
女の子達の涙が心に突き刺さる。
俺はなにも言えない。
慰めの言葉一つ、かけることができない。
唇を噛み、拳を強く握りしめた。
――――――――――
「……すみません、もう大丈夫です」
五分ほどで、女の子達は落ち着きを取り戻した。
本当は、もっと泣きたいだろうに……強い子達だ。
「私、ユニア、って言います」
「私は妹のアニです。それで……」
「……お姉ちゃん、ルイエです」
ユニアとアニは、再び泣きそうになるものの、なんとか涙は堪えた。
「私達、その……」
「いいよ」
なぜ、こんなことになっているのか?
二人が説明しようとしたが、あえて、それを遮る。
「すぐに話をする必要はないさ。まずは、ここを脱出して……それで、安全なところに行って、ゆっくりと休んで……それからでいい」
「いいんですか……?」
「もちろん」
「……ありがとうございます」
なにが起きているのか?
本当は知りたいのだけど、でも、姉を亡くしたばかりの女の子に話をさせるなんてひどいことはできない。
真実を知るのは後回し。
今は、女の子達の身の安全と心のケアを最優先にしないと。
「ここから逃げるための道は確保しているから、安心して」
「よ、よかった……私達、やっとここから……」
「あ、でも……」
ユニアとアニの視線が、今はもう動かないルイエに向いた。
迷うような未練を残すような、そんな顔。
こんなところに残していくなんて、と悔しく思っているのだろう。
「大丈夫」
自然と体が動いていた。
倒れたままのルイエに歩み寄る。
「ヒール」
ボロボロの体を魔法で癒やす。
もちろん、彼女を生き返らせることはできないが……
それでも、あのままでいるよりはマシだ。
それからルイエを抱き上げようとして……
「タニア?」
俺よりも先に、タニアがルイエを抱き上げて、おんぶする。
「この子はあたしに任せて。きちんと、家まで送り届けてあげるわ」
「ありがとう、タニア」
「間に合わなかったから、これくらいは……ね」
同じことを気にしているらしく、タニアは、わずかに苦い顔をした。
しかし、ユニアとアニを不安にさせないために、すぐにいつもの様子に戻る。
「それじゃあ、すぐにここから……」
「ちょっと待て」
脱出しようとしたところで、グレイが待ったをかけてきた。