作品タイトル不明
524話 実験
遺跡の最深部。
豪炎のアルテラとリースの姿があった。
彼女達の前に、無数のカプセルが並べられている。
カプセルの中は半透明の液体で満たされていて……
その中に、拘束された裸の女性が収められていた。
肺まで液体で満たされているものの、溺死しているわけではない。
意識はハッキリとある。
体は拘束されているものの、視線は動かせるらしく、あちらこちらを見ている。
「うーん」
カプセルと繋がっている魔道具らしきものを操作するアルテラは、悩ましそうな声をこぼす。
それから、部下らしき魔族に声をかける。
「数値はどうかな? 変化はある?」
「そうですね……多少、上昇はしているみたいです」
「ホント?」
「ただ、多少というだけで、劇的な上昇とは言えず……その、えっと……」
「なにか言いたいことがあるの? うん、いいよ。言ってみて」
「はっ、では失礼をしまして……魔力がこの程度しか上昇しないのならば、この実験の意味はないかと。手間、費用……どちらも効率が悪いです」
「うーん、やっぱりそうなっちゃうか。ねえねえ、リースちゃんはどう思う? 人間を魔素漬けにして、それから魂を取り出す……私としては、けっこう良いアイディアだと思ったんだけど」
「私も、同意見でしょうか。ちょっと、効率が悪すぎますね」
「そっかー、残念。うまくいけば、一気に魂を回収できると思ったんだけどなー」
アルテラは子供のように唇を尖らせた。
見た目も子供なので、その仕草はよく似合っている。
しかし……
彼女が行っている実験は、人間の命を弄ぶ行為に他ならない。
それなのに、アルテラはまったく気にしていない。
むしろ、思うようにいかず軽く苛ついていた。
「もうっ、私達の糧になるしか生きる意味なんてないんだから、ちゃんと良い餌になってよね!」
ごんっ、とアルテラは女性が収められたカプセルを蹴る。
中の女性は恐怖に顔を歪めるが……
「あはははっ、おもしろい顔! うんうん、そういう反応は良いよ? もっと見せてね、ほらほら」
アルテラの嗜虐心をそそる結果となり、何度も何度も恐怖を与えられる。
女性は耐えきれず、失神した。
「なんだ、もう気絶しちゃったの? つまらなーい」
あまりにも残虐な行いに、部下でさえもヒヤリとしたものを感じていた。
しかし、それは絶対に表に出さない。
そんなことをすれば、次は自分が贄になってしまう。
「アルテラさま、この人間はどういたしましょう?」
「んー……まだ生きてる?」
「はい。生命活動に支障はないかと」
「なら、繁殖部屋につれてって。苗床として機能しないのなら、それくらいは役に立ってもらわないとねー」
「かしこまりました」
繁殖部屋。
苗床。
不穏当な言葉が飛び交うものの、やはり部下は顔色一つ変えず、カプセルごと女性を部屋の外に連れ出した。
それを見送った後、アルテラは椅子に座り、背もたれに深く寄りかかる。
「あー……良質な魂の人工栽培って、難しいねー。ちょちょい、ってやればうまくできると思ってたなー」
「まだ研究を初めて間もないですからね。難航するのは仕方ないかと」
アルテラの愚痴にリースが相槌を打つ。
「これなら、クリーグラントとかいう人間の街を攻め落として、そこの兵士の魂を採取した方がいいかも。兵士なら、そこらの雑魚よりはマシかなー、って思うんだよね」
「確かに、その通りですね。だからこそ、アルテラさまは研究と進軍、両方の準備を進めていたのでは?」
「うんうん、そういう抜かりのない女なんだよ、私は。えへんっ」
かわいらしく言ってみせるアルテラ。
そんな上司を見て、リースは内心でやれやれとため息をこぼす。
見た目通りの幼い性格、思考をしているのならば御しやすい。
しかし、アルテラは違う。
残虐で狡猾。
それでいて頭の回転が早く、洞察力に優れている。
力も知恵も備えていて、伊達に四天王の一角を務めていない。
(もう少し愚かだったのならば、私もやりやすかったのですが)
そんな本音は、絶対に表に出さない。
(まあ、魔王さまを覚醒させるという目的は同じ。今のところ利害は一致しているので、アルテラさまのためにがんばるとしましょうか)