作品タイトル不明
516話 迎撃戦
ソラとルナによると、魔族に扮する魔法は、ちょっとやそっとのことでは解除されないらしい。
なので、普通に戦う分には問題はない。
ただ、今後の展開次第では、カシオンと戦うことになる。
そんな彼の前で全力を出してしまうと、こちらの手の内を晒すことになり……
かといって、全力を出さなければ街に被害が出てしまうかもしれず……
なかなかに悩ましいところだ。
「魔族にさらわれた人達を助けるために、ここまでやってきたのに、魔族の街を守るために戦うことになるなんて、なんか皮肉だね」
「確かに」
ユウキの言葉に苦笑する。
本来の目的から程遠い行為だ。
意味がない。
ないのだけど……
でも、見過ごすことはできなかった。
魔族が血も涙もない連中なら、助けるなんてことはしないのだけど……
でも、そんなことはない。
この街の魔族は、カシオンを含めて、とても人間くさい。
俺達と同じできちんとした感情が……心がある。
それを見た以上、知った以上、放っておくことはできない。
それにしても……
魔族とはどういうものか?
後で、しっかりと考えないといけないな。
「そういえば、ユウキは双剣を使うんだな」
普通の剣よりも短い刃。
それを両手に一本ずつ。
それがユウキの武装だ。
以前、街道で魔物に襲われた時は、普通の剣を使っていた記憶があるのだけど……
「今回は、ちゃんと本気を出した方がよさそうだからね。僕は、ちょっと変な方向に才能があるらしくて……普通の剣よりは双剣の方が得意なんだ」
「なるほど」
「レインこそ、ダブルセイバーなんて珍しいね?」
「まだ練習中で、本命はこっちの短剣なんだけどな」
ぽんと、腰に下げたカムイを叩いた。
こちらは切り札だ。
できれば、カムイを使うようなことがないことを願う。
「レイっ、ユウっ」
カシオンが駆けてきた。
「そろそろ魔物がやってくる。二人は中衛……前衛の俺らが取りこぼした魔物を頼む」
「了解、任せてください」
「でも、僕らが中衛でいいんですか?」
戦力を考えるのなら、俺達も最前線に立つべきなのだけど……
「いや、中衛で頼む。街にやってきたばかりのお前達に、迷惑はかけられねえよ。あの街は、俺ら穏健派にとって希望でなくちゃならねーんだ。いきなり戦いに巻き込むなんてこと、普通はできねーよ」
「気にしないんですけどね……」
「俺が気にするんだよ。それに、二人は強いんだろ? そんな二人が中衛にいて、街を守ってくれるのなら、俺達は背中を気にすることなく思う存分にやれる。そっちはそっちで、かなり大事なポイントなんだよ」
「なるほど」
確かに、街が襲われるかもしれない、なんて考えながら戦うことは難しい。
安心して戦えることは、わりと大事なことだ。
「じゃあ、頼んだぜ。でも、無理はすんなよ? やばいと思ったら、すぐに逃げろ」
カシオンはぽんと俺達の肩を叩いて、最前線に戻っていった。
「……ねえ、レイン」
「うん?」
「カシオンは魔族……なんだよね?」
「そのはず、なんだけどな……」
どう見ても、俺達人間と変わりない。
その事実に、未だに戸惑う俺とユウキだった。
とはいえ、戸惑ってばかりもいられない。
魔族の街を守ると決めた以上、しっかり務めを果たしてみせる。
被害なんて欠片も出さない。
「よしっ。やろうか、ユウキ!」
「そうだね、レイン!」
俺とユウキは気合を入れて、それぞれの武器を構えた。
――――――――――
カシオン率いる最前線の部隊が魔物との戦闘に突入して……
十分ほどしたところで、討ち漏らした魔物がこちらにぽつぽつと流れ込んできた。
キラータイガーが複数。
巨大な芋虫のような、ランドワームが一匹。
それと、ワイバーンが一匹。
「俺達がランドワームとワイバーンを相手にするから、他はお願いします!」
いつものクセで、勝手に指示を出してしまったのだけど、魔族の兵士達は反論することなく指示に従ってくれた。
たぶん、カシオンから色々と言われているのだろう。
「ランドワームを任せてもいいか?」
「問題ないよ。なら、レインはワイバーンをお願いするね」
「任せてくれ」
最初にユウキが駆け出した。
速い。
風のような速度でランドワームに迫り、両手に持つ剣を振る。
その動きはとてもなめらかで、まるでダンスを見ているかのよう。
それでいて変幻自在で、ありとあらゆる角度から刃が襲う。
ランドワームは悲鳴を上げつつも、反撃のためにその巨体をうねらせて、鞭のように振るう。
しかし、ユウキの真骨頂はここからだった。
あろうことか、ランドワームの突撃を真正面から受け止めてみせた。
ランドワームの突撃は、全速力で走る馬車を止めるよりも遥かに厳しいと思うのだけど……
ユウキは涼しい顔をして受け止めていた。
なんていう馬鹿力。
「はぁあああああっ!」
これくらいで驚かないように、という感じでユウキが動いた。
裂帛の気合を響かせて……
なんと、ランドワームの巨体を押し返してみせた。
そんなのアリか?
カナデと契約している俺でも、あんなことはできないのだけど……
圧倒的なパワー。
それがユウキの力なのだろう。
「さて、俺も負けていられないな」
ユウキの頼もしい姿を見ていたら、自然と、俺もがんばらないと、という気持ちになる。
俺はダブルセイバーを構えて、空を飛ぶワイバーンを睨みつけた。