作品タイトル不明
515話 例え魔族だとしても
「魔物の群れは、どれくらいの規模だ?」
「百は超えるそうです」
「それくらいなら……」
「……ただ、Aランク相当が三割を占めるとか」
「ちっ……俺らはともかく、街の連中にはキツイな」
百を超える魔物の群れ。
カシオンは四天王の親衛隊と言うし、Aランクが相手だろうと問題はないのだろう。
ただ、街の人にそこまでの力はない。
それを懸念しているらしく、すごく苦い顔だ。
「自然発生するわけねえな……仮にしたとしても、群れが街にやってくるわけがない。強硬派の嫌がらせか? くそっ、やってくれる」
「ど、どうしましょう……? 今からでも、避難を……」
「……ダメだ、防備を固める」
「ですが……」
「街の連中を一番に考えないといけないが……ここを捨てるとなると、どの道、生きていけねえよ。ガキや老人もいるんだ」
「あ……」
「ぜってーに死守する。守備隊の連中に、そう伝えておけ!」
「は、はいっ」
一気に慌ただしくなる。
なぜ、魔族が魔物に襲われているのか?
強硬派という連中と対立をしているのか?
色々な謎が一気に出てきて、頭がパンクしてしまいそうになる。
ただ……今は、それらの謎については後回しだ。
俺達は、これからどうするべきか?
それを考えないといけない。
「……レインよ、我らはどうするのだ?」
「……普通に考えるのならば、外へ出て、タニア達と合流するのが一番と考えますが」
「……そうだね。ここにいたら、僕達も巻き込まれてしまう。しまうのだけど……でも、それは」
ユウキを始め、みんなは迷いを顔に出していた。
たぶん、俺も似たような表情をしていると思う。
門兵と話をした時のことを思い返した。
彼は俺達のことを疑うこともなく、逆に心配してくれた。
街の魔族達は、気さくに話に応えてくれた。
たまに雑談などをして、話が脱線して……
笑顔を交わしたこともある。
そして、カシオン。
彼は俺達に同情して、涙を流しそうになっていた。
演技などとは思えないし、とても男らしいと思う。
「レイン」
ユウキがこちらを見る。
彼の瞳からは、強い意思を感じた。
俺も同じ想いだ。
頷き返す。
「このまま放ってはおけない。助けよう」
相手は魔族だ。
全ての生物の天敵だ。
でも……
この街にいる彼らが悪とは思えない。
わかりあえない相手とは思えない。
もしかしたら演技なのかもしれないし、後で敵になるかもしれない。
ここで手を貸したことで、とんでもないしっぺ返しを喰らうかもしれない。
ただ、そうなったらそれで構わない。
後のことは後で考えればいい。
まずは、今この時のことを考えていかないと!
「すみません、少しいいですか?」
「ん? あぁ……悪いな。安全なところに避難したはずが、こんなことに巻き込んで。でも、安心してくれ、俺らがぜってーに守るからな」
「いえ、そのことなんですけど……俺達も手伝わせてくれませんか?」
「なに?」
「魔物の群れが迫っているんですよね? 俺と……ユウは、それなりに戦うことができます」
後ろでルナが、「なぜ我らを除外する?」と言うのだけど、今は後回し。
「その気持ちはうれしいが、戦うのは俺ら軍人の仕事だ。あんたらに迷惑はかけられねえよ」
「プライドの問題で、街の人を危険に晒すつもりですか?」
「なんだと?」
「詳しい事情は知らないですが、今は、一人でも多くの戦力が必要なはず。なら、俺らを受け入れてください。軍人だからとか、そういうのにこだわっている場合じゃありません」
「ぐっ、それは……」
カシオンが迷うような顔に。
プライドと現実の間で考えが揺れ動いているみたいだ。
「しかし、軍人が民間人に協力をしてもらうなんて、本末転倒じゃねえか。そんなことになるくらいなら……いや。他の連中を危険に晒す方が問題か。あー……くそっ」
カシオンはしばし悩み、やがて思考の折り合いがついたらしく、こちらを見る。
「それなりに戦えるってのは、どの程度なんだ?」
「Aランクの魔物なら、複数は相手にできると思います」
「あ、僕は一匹ぐらいですね」
「おいおい、マジかよ……見た目に反して、すげえ実力者じゃねえか。って……わりい、バカにしたわけじゃねえんだ」
「いえ、気にしていませんから」
「でも、それだけの戦力が加わるのなら……よしっ」
カシオンはなにか納得した様子で……
次いで、深く頭を下げてきた。
「頼むっ、この街の連中を守るため、力を貸してくれ!」
――――――――――
カシオン達が作戦を考えている間、俺達は、客間に移動した。
武具の点検をしたいと言ったところ、客間を貸してくれたのだ。
作戦前に、一度話し合いをしておきたいところなので助かる。
「えっと……まずは、ごめん。情報収集をしないといけないのに、厄介事に自ら首を突っ込んで。それに、魔族を助けるとか、なんか本末転倒な気もするし……」
「僕はいいと思うよ。確かに彼らは魔族だけど、でも、僕が知る魔族とはぜんぜん違うし……放っておくのは、後味が悪くなりそう」
「うむ。それについては我も同意見なのだが……しかし、なぜ我らが留守番なのだ?」
防衛戦に赴くのは、俺とユウキだけ。
ソラとルナは、戦闘能力がないということにして、この街で待機することになった。
「二人は魔法を使う時、羽が出るだろう? そうなったら、一発で精霊族だっていうことがバレる」
「あ」
考えていなかったらしく、ルナが間の抜けた声をこぼす。
「あと、これが巧妙に考えられた罠、っていう可能性もある。念の為に、二人は街で待機してもらいたい。で、なにかあった時は……」
「ソラ達の出番、というわけですね?」
「正解」
カシオンは、俺達を騙しているようには見えないのだけど……
でも、彼は魔族で、ここは敵地。
あらゆる可能性を考えておくことは必要だろう。
誠実そうなカシオンを疑うことは、ちょっと心が痛いけどな。
「ひとまず、魔物の相手は俺とユウキで。ソラとルナはいざという時に。あと、場合によってはタニア達に連絡を」
「ラジャったのだ!」
「任せてください」
「ひとまず、今考えるべきことは、こんなところか」
方針は決まった。
決まったのだけど……
「……後で、色々と考えないといけないことがおもいきり増えたな」
魔族のこと。
その内部勢力と関係のこと。
本当に、いったいどうなっているのやら。