作品タイトル不明
514話 脱線話とトラブルと
「へー、あんたらは兄弟なのか」
ギルドのような建物に案内された後、カシオンによって事情聴取が始まった。
事情聴取といっても、根掘り葉掘り聞かれるわけじゃない。
俺達の関係や近況など、ある意味で世間話に近い。
ひとまず、俺達は家族という設定にしておいた。
俺が長男で、ユウキが次男。
そして、ソラとルナが双子の姉妹。
親は亡くなり、強硬派に命を脅かされる事態に。
そのため城を脱出して、この街を頼りにした……という説明をする。
さきほど知ったばかりの情報を織り交ぜての話なので、いつボロが出ないかヒヤヒヤする。
「……」
カシオンは鋭い表情だ。
急ごしらえの設定、話だから、やはり怪しんでいるのだろうか……?
思わず緊張していると、
「あまり緊張しないで大丈夫ですよ。別に、カシオンさまは怒ったりなんてしていませんから」
お茶を持ってきてくれた他の魔族が、そんなことを言う。
「そうなんですか?」
「カシオンさまってば、こんな顔をしているのに、とても涙もろいんですよ。今も、あなた達の話を聞いて同情をして、涙をこぼさないようにぐっと我慢しているんですよ」
「よ、余計なことを言うんじゃねえ!」
カシオンが赤い顔で怒鳴り、お茶を淹れてくれた魔族は苦笑しつつ部屋を出ていく。
仕切り直すように、カシオンは咳払いをする。
その際、そっと目元を指先で拭っていた。
「……なあ、レインよ」
「……この魔族、もしかしてもしかしなくても、とんでもないお人好しなのでは?」
「……かもしれないな」
お人好しな魔族なんて、まるで想像したことがないのだけど……
でも、カシオンが演技でこんなことをしているとは思えない。
もしもこれが演技だとしたら、もう脱帽するしかない。
「しかし、城からここまで来るの、けっこう大変だったろ? ここらの魔物は、俺らの命令聞かねーからな。襲われたりしなかったか?」
「あ、えっと……それなりに腕に覚えはあるので、なんとか」
下手にウソはつかない方がいいと判断して、腕に自信があることを話す。
ここは魔族領で、俺達の常識が通用しないかもしれない。
それに、ただでさえ温厚な魔族という、常識外の現実を見せつけられている。
下手にウソをついてしまうと、思わぬ展開になり、事態を複雑にしてしまう可能性がある。
そう判断して、できる限りのことは素直に話すことにした。
もちろん、俺達が人間であることなど、絶対に話せないことはあるが。
「ふむふむ」
ある程度の話をしたところで、カシオンはペンを口に咥え、なにから思考に入る。
なにを考えているかさっぱりわからないため、口を挟むことはできない。
ただ待つだけだ。
「よしっ」
五分ほど経ったところで、カシオンはにかっと笑う。
「話を聞かせてくれて助かったぜ」
「結局、俺達はどうなるんです?」
「もちろん、この街にいていいぜ」
ほっと、安堵の吐息をこぼす。
「まあ、実を言うと、ちと不透明な部分はあるが……」
「……」
「ただ、俺の勘が、お前らは悪いヤツじゃないって告げてる。なら、俺は俺の勘を信じるぜ。お前らも、俺の信頼を裏切らないでくれよ?」
「……ありがとうございます」
カシオンは、俺達を完全に信用してはいないのだろう。
でも、悪人ではないと信じることにした。
……キツイなあ。
カシオンは魔族だ。
でも、そのまっすぐな信頼を裏切るような形になってしまっていることで、心がチクチクと痛む。
ホライズンに現れた魔族やヴァイスのように、優しさなどがまったく感じられないのなら、こんな困惑を抱くことはなかったのに。
って、それは勝手な考えか。
カシオンのような魔族がいるという事実を俺は知らなかった。
知識不足、認識不足だ。
それなのに、魔族は悪だと決めつけていて、その判断に疑いを持つことはなかった。
いつの間にか視野が狭くなっていたみたいだ。
誘拐された人達の救出、アルテラの計画を壊すこと。
それらの目的は変わらないが……
でも、それだけじゃなくて、魔族というものを知ることも必要なのかもしれないな。
「お前ら、これからどうするつもりなんだ?」
「正直、この街に来ることだけを考えていたので、詳しいことはなにも……」
「そっか。なら、宿の手配をしておいてやるよ。なに、金はいらねえ。こういう時のために、ここと連携してる宿があってな。まあ、高級宿じゃねえけど、そこは我慢してくれ」
「ありがとうございます。その、わがままついでに、一つお願いをしてもいいですか?」
「ん? なんだ?」
「実は、友人が三人いまして、でも途中ではぐれてしまって……もしかしたら、どこかで合流できるかもしれません。その時は……」
「ああ、わかった。お前らのツレってことなら、心配はいらねーだろ。宿には、七人って連絡しておくぜ」
「ありがとうございます」
街に滞在できるのなら、ここを拠点にして活動をした方がいいかもしれない。
リスクはあるものの、それ以上にリターンの方が大きい。
そう判断してのことだ。
もちろん、タニア達の意思を確認する必要はあるため、反対されたら諦めるが。
「よし、これで手続きは完了だ」
カシオンは笑みと共に、握手を求めてきた。
「ようこそ。水王のジルオールさまが治める街、グルンヒルドへ」
「よろしくお願いします」
握手に応じて、笑みを交わす。
交わした手は……温かい。
「た、大変ですっ!」
突然、扉が強く開かれた。
さきほどお茶を淹れてくれた魔族が、やけに慌てた様子で飛び込んでくる。
「おいおい、まだ客人がいるんだぜ? そんな態度は……」
「す、すみません。しかし、魔物の群れがこちらに向かっているとの報告が」
「なんだと!?」
潜入はうまくいくと思っていたのだけど……
そうそうすんなりといかないらしい。