作品タイトル不明
513話 親衛隊
「あんたらが、今日、街にやってきたっていう新参者か?」
男は明るい口調で言う。
しかし、その口調とは裏腹に、強烈な闘気をまとっていた。
俺達が変な行動を見せれば、すぐに対処できるように、軽く身構えている。
この男、かなり強い。
まだ戦ってはいないが、ビリビリと伝わってくる気配から、男の戦闘能力の高さを知ることができた。
できることなら戦いたくはないが……
果たして、うまくごまかせるかどうか。
ひとまずウソをついても意味はないと思い、首を縦に振る。
「ああ、そうだけど……」
「あー、やっぱりか。知らねー顔だから、そうじゃねえかと思ったが、よしよし。俺の勘も捨てたもんじゃねえな」
「えっと……?」
敵意は感じられない。
それだけに戸惑ってしまう。
この男、本当に何者だ……?
「あぁ、そんな警戒すんな。俺は敵じゃねえよ。お前らが下級魔族だからって差別しねーし、理不尽に暴力を振るったりもしねーよ」
「……」
「まだ警戒されてんな、俺……顔か? この凶悪そうな顔のせいなのか? くそ、顔はどうにもならねーじゃねえか。ちくしょう」
よくわからないし、まだ気を許してはいけないことはわかっているのだけど……
それでも、この男は話が通じるような気がした。
ホライズンに現れた魔族やヴァイスと違い、きちんと意思疎通ができる……ような気がする。
「確かに、俺達は今日、この街にやってきたんだけど……あなたは?」
「え? マジで? 俺の顔、知らねーの?」
「えっと……すみません」
「マジかー……ジルオールさまの右腕として、それなりに活躍してきたつもりなんだけどなー。うわー、凹むわー」
今、ジルオールって言ったよな?
その名前はさっきも聞いたが、いったい誰なのか?
「俺は、カシオン。四天王ジルオールさまの親衛隊の一人だ」
ジルオール……それが、アルテラとは別の四天王の名前か。
それにしても、魔族内の階級なんてものは知らないのだけど……
親衛隊というのだから、四天王の次に権力を持っているのだろう。
そんなヤツといきなり遭遇してしまうなんて……
いや。
これは、逆に幸運なのかもしれないな。
そこらの一般魔族にいくら話を聞いても時間が過ぎるだけ。
ならば、ある程度の権限を持つ者を相手にした方がいいのかもしれない。
もちろん、その分、危険は大きくなるが……
誘拐された人達のため、多少のリスクは覚悟で挑むべきだろう。
「失礼しました。自分は……レイと言います」
危うく本名を言いかけて……
でも、咄嗟に偽名を名乗ることに成功した。
モナは俺のことを知っていたし……
もしかしたら、名前を知られている可能性もあるから、偽名を使うに越したことはないだろう。
「僕は、ユウです」
「ソーラです」
「ルーナなのだ」
みんなも、それぞれ偽名を名乗る。
それにしても……
安直すぎる偽名じゃないか?
いや、俺が言えたことじゃないんだけどさ
「ふむふむ。レイにユウ。それと、ソーラにルーナか……お前ら、城から逃げてきたのか? そう門兵に聞いているが」
「えっと……はい、その通りです」
逃げる、と言うとマイナスのイメージがあるが、しかし、門兵にはすでにそういう方向で話がまとまっている。
話を変えても怪しまれるだけと判断して、素直に頷いた。
逃げたことを咎められるだろうか?
そう警戒するが……
「そっか……お前ら、まだ若いだろうに、大変だったな。辛かっただろうな」
なぜか、カシオンは泣きそうな顔になる。
どういうことだ?
「強硬派の連中、最近は好き勝手にやってやがるからな……俺らみたいなのはともかく、ガキや女まで戦いに駆り出そうとしてやがる。ったく、ふざけたことをしてくれるもんだぜ」
強硬派とか、また知らない単語が出てきた。
魔族のことは、全ての生き物の天敵という認識だったのだけど……
もしかしたら、そんな単純な話ではないのかもしれない。
俺の知らないなにかが隠されていて、複雑な事情があるのかもしれない。
ふと、そんなことを思った。
「辛い思いをしただろうが……でも、安心してくれ。この街にいれば、もう安全だ。強硬派の連中には手出しさせねえよ。ここは、ジルオールさまが、お前らみたいなヤツを保護するために作った街だからな」
「そう、ですか……」
「ただ、強硬派のスパイって可能性もあるからな。ちと、色々と聞きたいが、ついてきてくれるか?」
カシオンは、くいっと奥にある大きな建物を指差した。
たぶん、冒険者ギルドや騎士団支部のような、そんな役割を持つところなのだろう。
「……それは、取り調べですか?」
「そんな堅苦しいものじゃねーよ。ちと時間はかかるが、色々と聞かせてもらいたいだけさ。さっきも言ったが、強硬派のスパイが紛れ込んでくる、っていう事件もあるからな」
「スパイ……ですか」
「ま、安心しろ。お前らがそうって決めつけてるわけじゃねー。誰にでもやってることだ。だから……協力してくれるよな?」
一瞬ではあるが、カシオンは鋭い目を俺達に向けてきた。
彼が言うように、今は、誰にでもしている念の為の措置。
しかし、ここで断れば疑いが発生する。
それはまずいが……
しかし、ある意味で、敵の本拠地に乗り込むようなものだ。
準備もなしに、いきなりそんなことをしてもいいものか?
「……」
ちらりとみんなを見ると、俺に任せる、というような感じで頷いた。
できることなら危険は避けたいが……
それはそれでみんなを信頼していないことになるし、いざという時は、俺が全力で守ればいい。
「わかりました、話をすればいいんですね?」
敵陣に乗り込もう。
そう判断をして、頷いてみせた。
そうすると、カシオンはにかっと気持ちのいい笑顔を見せる。
「おう、助かるぜ。たまに、疑われているみたいでイヤだ、ってごねるヤツもいてなー。そういう場合は、無理に話を聞くことはできねーが、念の為に監視をつけることにしてんだ。ちゃんと話をしてくれれば、そんなことはねーから安心してくれ」
「はい」
「じゃあ、ついてきてくれ。こっちだ」
こうして、俺達は魔族の拠点の一つに足を踏み入れることになった。