作品タイトル不明
517話 圧倒
ワイバーンの能力は、Aランクマイナス。
若干、足りていないところはあるが……
Aランクなので、けっこうな脅威だ。
高速で空を飛び回り、ブレスなどで一方的に攻撃することができる。
対空迎撃能力を持っているだけではなくて、防御にも優れていないと倒すことは難しいだろう。
一応、それなりの自信はあるのだけど……
しかし、油断は禁物。
己の力を過信せず、全力で、そして被害が出ないように迅速に対処しよう。
まずは……
「よし、頼んだ!」
仮契約をした鷹を十羽ほど、一気に飛ばした。
鷹達は、ワイバーンの目を狙い鋭い飛翔を繰り返す。
ワイバーンは鬱陶しそうにしつつも、鷹を無視することはできず、その場で滞空した。
鷹を噛み砕こうとするものの、巨体故にその動きは遅い。
そんなものに捕まる鷹ではなくて、するりとワイバーンの攻撃をかいくぐりつつ、さらなる攻撃を重ねた。
「グルァアアアアアッ!!!」
苛立ちをあらわにしたワイバーンは、ブレスでまとめて鷹を薙ぎ払おうとする。
「させるか!」
両手のアイギスを天に向かって構える。
そして、一斉に針を掃射。
ワイバーンのブレスを制止させることに成功する。
「でもって……コイツもくらえ!」
ワイバーンの動きを止めたところで、クサナギを構える。
すぐにセカンドフォームに移行して、十二の刃を散らす。
不規則かつ高速で飛ぶ十二の刃は、ワイバーンの翼をズタズタに切り裂いた。
「グァ!?」
空に留まることができず、ワイバーンが墜落……
すると思ったら、高度を大幅に下げただけで、なんとか墜落は免れていた。
見ると、傷つけたはずの翼が、ゆっくりとではあるが再生を始めていた。
ワイバーンに再生能力があるなんて、初耳なのだけど……
今は疑問は後回しにしよう。
とにかくも、こんなヤツを街に行かせるわけにはいかない。
どれだけの被害が出ることか。
悪いが、ここで仕留めさせてもらう。
「続けて、コイツだ!」
アイギスからワイヤーを射出した。
ワイバーンの飛行高度が下がったおかげで、ワイヤーが届くようになった。
細い鋼線は傷ついた翼に絡みついて、その動きを封じる。
翼を癒やすことはできても、絡まったワイヤーを引き離すことはできない。
今度こそ飛行能力を失い、ワイバーンは地面に墜落した。
「おぉっ、アイツ、単独でワイバーンを落としたぞ!?」
「すごいな、あんな真似、カシオンさまやジルオールさまくらいしかできないと思っていたが……」
「さすが、カシオンさまが連れてきただけのことはあるな。俺らも負けてられない!」
俺の戦いを見て、周囲の魔族達が戦意を上げた。
魔族達を励ますようなことに、なんともいえない複雑な気分になるのだけど……
まあ、それも考えるのは後回し。
今は、俺の役目をきちんと果たそう。
「グガァアアアアアッ!!!」
地に落とされながらも、ワイバーンは未だ健在だ。
怒り狂い、ブレスを撒き散らそうとする。
が、それは予想済み。
「続けて、頼む!」
あらかじめ仮契約をしていたのは鷹だけじゃない。
魔力に干渉して、その流れを乱す能力を持つリアクターアントとも仮契約を済ませていた。
俺の合図で、リアクターアントが一斉にワイバーンに群がる。
ワイバーンのブレスは、魔法のようなものだ。
魔力を燃料にして、体内の特殊な器官からブレスを放つ。
なら、その魔力を燃料にできなければどうなるか?
「グゥ!?」
ブレスを放つことができず、ワイバーンは動揺するような仕草を見せた。
それが極小のリアクターアントの仕業とは気づかないで、何度も何度もブレスを吐こうとする。
しかし、全て失敗。
「グウウウ……ガァッ!!!」
さらに怒りが増した様子で、直接、その手で俺を叩き潰そうとする。
巨大な体を支える足を振り上げて、振り下ろしてくる……が、遅い。
横にステップを踏んで、ワイバーンの攻撃を避ける。
攻撃の風圧で髪が揺れるが、ダメージは一切受けていない。
そのままヤツの懐に潜り込む。
さらに、ワイバーンの膝や肩を階段代わりに利用して、一気に頭部まで駆け上がる。
ワイバーンは、俺を噛み砕いてやろうと思ったのだろう。
歪な牙が並んだ口を大きく開けるが、それは悪手。
「召喚!」
今回の遠征にあたり、色々な武器や道具を購入して……
イリスと契約して得た能力で、いつでも召喚できるようにセッティングしておいた。
俺が召喚したのは、鉱山で発破に使う爆弾。
そいつの導火線に火を点けた後、ワイバーンの口の中に放り込む。
吐き出さないように、念の為、アイギスのワイヤーでワイバーンの口を縛り……
そして離脱。
大きく後ろへ跳びつつ、クサナギの十二の刃を操作して、ワイバーンの足を攻撃して完全に足を止める。
そして……
ボンッ! という鈍い音がワイバーンの内部から響いた。
その巨体がビクンと震える。
ややあって、ワイバーンは仰向けに倒れ……
ほどなくしてその巨体は魔石に代わり、討伐されたことを証明する。
「よしっ」
被害を出すことなく、俺も傷つくことなく勝つことができた。
俺は、確かに強くなっている。
守りたいと思う人やものを守るだけの力を身に着けつつある。
そんな実感を得た俺は、拳を握り、小さな笑みを口元に浮かべるのだった。