作品タイトル不明
510話 魔族領
霧が深かったこともあり、魔物や魔族に見つかることなく、西大陸へ上陸することに成功した。
まずは、身を隠せる森の中へ。
そこで濡れた服などを乾かして……
それから、周囲を警戒しつつ、西大陸の様子を見る。
「ここが西大陸か……」
魔族領。
多数の魔物と魔族が徘徊して、足を踏み入れて、生きて帰ったものはごく少数。
魔境と言われ、歴戦の戦士でさえ震え上がってしまう恐ろしい場所と言われているのだけど……
「なんていうか、普通なのだ」
「そうですね、普通ですね」
ルナとソラがそんなことを言う。
そんな二人に賛同するかのように、タニアとイリスものんびりと言う。
「あたし、魔族領に行ったことはさすがにないから、又聞きなんだけど、もっとおどろおどろしいところを想像していたわ」
「ですが、わたくし達が暮らす中央大陸と、さほど変わりありませんわね」
そうなのだ。
魔族領というのだから、木々が枯れていたり、見知らぬ凶悪な動物が生息していたり、毒沼があったり……
そんな光景を想像していたのだけど、ハズレ。
しっかりとしたたくましい大地。
青く晴れやかな空。
鮮やかな緑の葉をつけた木々。
その枝にとまる鳥は、どこにでもいるようなもの。
チチチッと鳴き声を響かせて、どことなく平和な空気が漂う。
「平和だな……」
「平和だね……」
想像していたものと現実が違いすぎて、どう反応していいかわからない。
結果、俺とユウキも、ついついのんびりとしてしまう。
「って、ボーッとしている場合じゃないな。すぐに動かないと」
「でも、どうするんだ? 西大陸に渡ることはできたが、敵の細かい情報は、相変わらずゼロだろ?」
グレイが言うように、四天王の活動拠点は不明のまま。
前に囚えた魔族も口を割らず、それに関してはわからないのだ。
「まずは、魔族の街を探そう」
「どうやって? 手分けして探すにしても、手間がかかるし、なにより目立つぜ?」
「それについては、心配しなくてよいですよ」
「うむ。レインのとんでもテイムに任せておけば、街の一つや二つ、簡単に見つけられるのだ」
だから、とんでもテイム言わないでほしい。
いや、まあ。
最近は慣れつつあるし、自分の能力がおかしいということは理解しているのだけど……
それでも、言われる度に微妙な気分になる。
「敵のことは敵に聞けばいい。魔族の街を見つけたら、そこで情報収集をしよう」
「でも、普通に足を運んだら、捕まるか殺されるか……ロクな結果にならないんじゃないかな?」
ユウキの言うことはもっともだ。
なので、その対策をみんなで考えたい。
「可能なら、変装とかしたいよな」
「変装でごまかせるものでしょうか?」
「魔族は、わたくし達とあまり姿は変わらないことが多いですが、それでも、その身にまとう魔力や気配が大きく違いますからね」
「匂いとかでバレそうよね」
「犬ではないのだぞ……?」
うーん、と頭を悩ませる。
「まあ、手がないこともないぞ」
なにか秘策があるらしく、ルナがドヤ顔を見せた。
こういう時の彼女はとても頼りになる。
「我ら精霊族は魔法のエキスパート。スペシャリスト。テクニシャンなのだ!」
最後は、ちょっと意味が違わないだろうか……?
「そんな我らならば、変身魔法が使えるぞ」
「そうなのか?」
「まあ、変身魔法といっても、姿を変えるわけではありません。他者からの認識を阻害して、書き換え、まったく別の存在に見せる……というものです」
「えっと……つまり、どういうことよ?」
「きぐるみを被るようなものと考えてもらえれば」
なるほど、わかりやすい例えだ。
「ただし、けっこう難しい魔法でな。我ともう一人にしか使えぬ」
「つまり、ソラとルナと、あと二人だけ、ということですね」
「街に潜入できるとしたら、ソラとルナプラス二人、っていうことか……」
誰にしよう? とみんなを見ると……
みんなの視線が俺に集中する。
「レインさまは、確定ですわね」
「確定ね」
「え、なんで即決?」
「どのような不測の事態が起きるかわかりません。ならば、ありとあらゆる状況に対応できる方がベストでは?」
「レインなら、大抵の問題には対処できるでしょ?」
「そう……かな?」
信頼されていると思えばうれしいのだけど……
過大評価な気もして、ちょっと気後れしてしまう。
「もう一人は僕が立候補したいんだけど、ダメかな?」
ユウキが名乗りをあげた。
「能力面を見ると、イリスさんやタニアさんに任せた方がいいのかもしれないけど……でも、まがりなりにも王族である僕が、レイン達だけに任せてしまうなんて、それはちょっとどうかと思うんだ。まあ、プライドとかの問題だから、実利を考えるとどうかな、っていう話にはなっちゃうんだけどね」
「いや、悪いことじゃないと思う」
こう言うと失礼かもしれないが……
タニアやイリスに比べると、ユウキの戦闘力は低い。
ただ、ユウキは賢く、頭の回転も速い。
彼と一緒に行動することで、俺達では気づけないことを指摘してくれるかもしれないし、思わぬ危機も察知してくれそうな気がした。
みんなも同じことを考えているのか、反対意見は出てこない。
ただ、グレイは苦い顔をした。
「大丈夫ですかい? ぼっちゃんは王族ですぜ。あまり無茶をされても……」
「民を狙う魔族がいる。それと、誘拐された民がいる。今無茶しないで、いつ無茶をすればいいのかな?」
「そういう話じゃなくて、どんな時も無茶はやめてほしいんですが……はあ、言っても聞かないんでしょうねえ」
グレイは大きなため息をこぼした。
てっきり、グレイがユウキの舵取りをしていると思っていたのだけど……
その逆なのかもしれない。
無茶をするユウキにグレイが振り回されている、そんな印象を受けた。
「わかりやした。ただ、絶対に無茶はしないでください。なにがあっても、自分の命を一番に考えてください」
「うん、大丈夫。僕は、これでも王族だからね。そういうところの線引きとか判断は、しっかりしているつもりだよ」
「本当にしっかりしているのなら、まったく心配なんてしないんですけどね……まあ、こうなったら信じるしかねえか」
なかなかに苦労しているみたいだ。
ちょっと同情した。
「それじゃあ、俺とユウキとソラとルナが街に潜入するということで。残りのメンバーは……」
「俺らは俺らで、別ルートから情報を探ってみる。そうだな……一日、二十四時間後に、またここで合流、ってことでどうだい?」
「わかった、それでいいよ。タニア、イリス、気をつけて」
「ふふっ、大丈夫よ。魔族が出てこようと、あたしの敵じゃないわ」
「レインさまを悲しませるようなことは、一切いたしませんわ」
頼もしいのだけど、でも、無茶をする時があるから心配だ。
グレイもこんな気持ちなのだろうか?
思わず彼の気持ちを推察して、苦笑してしまうのだった。