作品タイトル不明
509話 まずは移動手段の確保を
魔族領である西大陸へ移動する手段は、基本的に用意されていない。
まあ、当たり前の話だ。
自国と敵地を繋ぐルートなんてものを用意したら、逆に利用されかねない。
なので、橋なんてものはかけられていないし、船が使われることもない。
「やっぱり、船を使うしかないかな?」
ひとまず、巨大な川の手前に移動して、みんなで方法について話し合う。
「そうだな。俺も、ユウキと同じく、船を使うべきだと思う」
「だなあ。ここは崖になっているわけじゃないから、やろうと思えば、普通に船で渡ることができる」
「ですが、二つ問題があります」
「魔族領へ向かう、なんていう危険な仕事を誰が引き受けてくれるのか? というのが、一つ目の問題なのだ」
「二つ目の問題は、仮に誰かが船を出してくれたとしても、なにかしら細工をしないと上陸前に見つかって、沈められそうだわ」
「なら、空から行けばいいのではないか?」
「……もしかして、あたしの背中に乗ろうとしてる?」
タニアがものすごくイヤそうな顔をした。
最近はだいぶ丸くなってきたけど……
それでも、基本的に彼女はプライドが高いからな。
以前も言っていたことがあるけれど、馬車扱いされるのはイヤなのだろう。
なので、無理に頼むようなことはしたくない。
いや、そもそも……
「タニアの背中に乗れば簡単かもしれないが、おもいきり目立つよな?」
「こっそり、というのは難しいかもしれませんわ」
「むう……我ながら、ナイスアイディアだと思ったのだが」
「おあいにくさま。あたしの背中は、そんなに簡単に乗れるほど安くないの」
「以前、乗ったことがありましたが……」
「あ、あの時はイリスのことで急いでいたから……と、とにかく。あたしの背中に乗る、っていうのはナシ、ナシよ! レインが言うように目立つし、下手したら着陸前に撃ち落とされるわ」
タニアの言う通りだよな。
ドラゴンが飛んできたら、普通に考えて迎撃をする。
潜入どころの話じゃなくなってしまう。
「となると、やっぱり船か?」
「わたくしなら、水の上を歩けますが?」
「え?」
「こう、ステップを踏むような感じで」
「……」
「……」
「どうにかして、船を手配してもらえないか考えよう」
「スルーされましたわ……」
イリスが唇を尖らせる。
いや、ごめん。
だって、その方法はイリスにしかできないだろう?
「そういうことなら、僕達に任せてくれないかな?」
ユウキがそう名乗り出た。
「心当たりが?」
「軍の船を一つ、貸してもらうよ」
「船なら俺が操縦できるからな」
なんとも頼もしい二人だ。
しかし、軍の船を簡単に借りることができるなんて……
改めて、ユウキは王子なのだなあ、と実感するのだった。
「でも、船も目立たないでしょうか? タニアの背中を借りるよりはマシかもしれませんが、それでも、他に行き交う船がない以上、見つかりやすい気はします」
「隠蔽するための魔法とかは?」
「ないこともないですが、完全に隠れることは難しいですね。ソラ達だけなら問題はありませんが、船も隠すとなると、なかなか……」
「そうなると、船も厳しいか……?」
ケンカを売りにいくのなら、目立ったとしても気にしないのだけど……
今回の目的は、誘拐された人々の救助だ。
隠密行動が原則なので、目立ってしまったら意味がない。
「軍事用の船じゃなくて、漁業用の船でも借りるかい?」
「それ、全員乗れるの?」
「うーん、難しいかなあ……」
「小さいけれど複数の船を使うということになれば、あまり変わらないと思いますわ」
「さらに小型の船で、一人一隻とか?」
「そのようなもの、あるのですか?」
「それも難しいね……」
小型の船……
一人一隻……
「……なあ、ユウキ。ちょっと確認したいんだけど、この先は川じゃなくて海だよな?」
「え? あ、うん。そうだね。大陸に挟まれているから巨大な川に見える場合もあるけど、基本的に海に分類されるよ。流れている水も、海水だから」
「そっか……なら、いけるかもしれないな」
頭の中でとある計画を立てて、シミュレートしてみる。
いくらかの不確定要素はあるが……
それでも、成功する確率は十分に高いという結論に至る。
「レイン、なにか思いついたのですか?」
「ああ。うまくいけば、船を使うよりも確実に、しかも見つかることなく、西大陸へ渡ることができるかもしれない」
「おおっ、それはすごいのだ!」
「そんな都合の良い方法があるのですか? にわかには信じられませんが……」
「まあ、レインがそう言うのなら、なにか手があるんでしょ。いつも突拍子もなくて、とんでもないことを思いついて実行しちゃうから」
「そうですわね。レインさまは、時々おかしくなりますからね」
褒められているのか、どうなのか……
気になるところではあるのだけど、気にしないことにした。
今は、一刻も早く西大陸へ渡り、誘拐された人達を助けないと。
それと、四天王の目的を潰さなければいけない。
「一度街へ戻って、準備をしよう」
「準備って、なにをするんだい?」
「エサを買うんだ」
――――――――――
空はあいにくの曇り。
陽の光はまったく差していない。
おまけに濃い霧が発生していた。
数メートル先は白一色で埋め尽くされていて、視界はほぼほぼゼロ。
海を渡るとしたら、とんでもない悪条件なのだけど……
でも、今の俺達からしたら、かなりの好条件だ。
これだけの霧が立ち込めているのなら、敵に見つかる可能性は低いだろう。
船を使っていれば、あるいは、見つかったかもしれないが……
「へぇー……この子達、すごいわね」
「こうしてわたくし達を背中に乗せているのに、まったく速度が落ちませんね」
「それに不安定じゃないし……うん、すごいね」
タニアとイリスとユウキが笑顔で言い、
「だ、大丈夫なのですか? 突然、ぐわっと噛みついたりしてきませんか?」
「お、おおおおお!? 微細な振動がけっこうクルのだ……これはこれで、やばいのだ……」
ソラとルナは微妙な反応を見せていた。
乗り物……と言うのは語弊があるのだけど、全般的に、苦手なのかもしれない。
「しかし、まさかイルカに乗るなんてなあ……」
グレイが苦笑していた。
そう……俺達は、イルカに乗り西大陸を目指していた。
もちろん、俺がテイムしたものだ。
でなければ、野生のイルカが背中を貸してくれるなんてこと、ありえない。
「船の代わりにイルカに乗せてもらう……まったく、とんでもない発想よね。ずいぶん長いこと一緒にいるのに、まだ驚くことがあるなんて」
「ふふっ、船がなければイルカに乗ればいいのですわ……という感じでしょうか? さすが、とんでもテイマーですわ」
「誰だっ、イリスにその呼び方を教えたのは!?」