作品タイトル不明
506話 白霧の中の戦闘
『レイ……さ……これ……』
『イリス?』
雑音が入り、念話が届かなくなる。
どう考えても、この霧のせいだろう。
魔力を阻害する霧なんて聞いたことがない。
「みんな、敵だ」
「さっそく釣れたみたいだけど……」
「むう、これはちと厄介なのだ」
「ルナ、この霧についてわかるのか?」
「うむ。なんとなくだが、これは……」
「視界を遮るだけではなくて、魔力を阻害する要素も秘めているようです。さらに言うのならば、霧が意思を持っているかのように動いて、対象を拘束することも可能でしょう。霧の牢獄、というところでしょうか?」
「我の台詞が!?」
ルナがショックを受けたような顔に。
度々、こんな場面を見かけるのだけど……
もしかして、解説好きなのだろうか?
それはともかく。
「イリスと連絡がとれないのは厄介だな……」
イリスもグレイも強い。
滅多なことにはならないと思うが、それでも、連絡がとれないというのは少し不安だ。
一応、分断された時にどう動くか? という話し合いもしていたのだけど……
情報が少ない中で、敵の動きを完全に読むことは難しい。
結局は、臨機応変な対応を迫られる。
「レイン、どうする?」
「ユウキじゃなくて、俺が決めるのか?」
「うん。僕は、それなりに訓練は積んできたつもりだけど、実戦経験は圧倒的に少ないからね。レインの方が向いていると思うから、任せるよ」
「……わかった」
十秒、考えて結論を出す。
「敵が引っかかったことは間違いないけど、まだ、完全に釣り上げたわけじゃない。二人を信じて、もう少し、様子を見よう」
「レイン、それでいいのね?」
「ああ」
タニアが念押ししてくるものの、答えは変えない。
ここで、心配して助けに入ることは簡単なのだけど……
それじゃあ根本的な解決は難しい。
そもそも、そうなるとイリスを信頼していないということにもなり……
それはない。
イリスなら、きっとうまくやる。
そう信じて、今はまだ、見守ることにした。
――――――――――
「ふむ?」
霧に囲まれたことで、視界がゼロになる。
しかし、イリスは慌てることなく、むしろ落ち着いてなにが起きているか見極めようとしていた。
まずは、霧に触れてみる。
感触は得られない。
代わりに、魔力を感じた。
「やはり、人為的なものですか……しかし、霧を生み出す魔法などあったでしょうか? まあ、わたくしは人間の魔法に詳しいわけではありませんが……グレイさん、その辺りはどうなのでしょうか?」
「さてな。俺も魔法は専門外だからなあ」
「役に立ちませんのね」
「嬢ちゃん、かわいらしい見た目に反して、口はキツイな」
「あら、失礼いたしました。わたくし、基本的に人間は好かないものでして」
「ってことは、俺のことも?」
「嫌いですわね。まあ、レインさまが信用しているようなので、敵意は抱いておりませんわ。そこは、ご安心くださいませ」
「喜んでいいのか、ガックリするべきなのか……」
苦笑しつつ、グレイが大剣を構えた。
それに合わせるかのように、イリスが背中側に立ち、構える。
「とりあえず、背中は任せた」
「とても不本意ですが、任されましたわ」
イリスは、レイン以外の人間を信用していない。
復讐しようという気持ちは消えているものの……
それでも、笑顔で接することはまだ難しい。
ただ、グレイの力は認めていた。
人間にしては、なかなか。
故に、背中を任せられてもいいし……
逆に背中を預けてもいい。
「きますわ!」
霧が意思を持つかのように、その形を変える。
人の手となり、四方八方からイリスとグレイに迫る。
「ふんっ!」
グレイは迷うことなく大剣を振り抜いた。
霧を斬ることはできないが、その風圧が散らすことに成功する。
しかし、決定的なダメージを与えることはできない。
散らされた霧はすぐに元に戻り、再び迫る。
「ちっ……さすがに、剣で霧を斬るなんてことはしたことねえからな。難しいか」
「がんばってくださいまし」
「おいおい、嬢ちゃんもがんばってくれよ? よくわからねーけど、最強種なんだろ?」
「あなたの脳は、空っぽなのですか? 捕まえようとしている相手が最強種と判明すれば、相手も警戒するでしょうに。誘い出すまでは、力は使えませんわ」
言いつつ、イリスは徒手空拳で霧を迎撃する。
武器は持っていない。
それでも、圧倒的な速度で拳を振り抜いて、迫りくる霧を迎撃する。
「言いたいことはわからねえでもないが……こうして迎撃してたら、同じことになるんじゃねーか? 敵さんも警戒するだろ」
「被害者には冒険者も含まれているようです。多少の抵抗は、向こうも承知のはず。予想外の抵抗にならないくらいに暴れて、油断させて、誘い出せばよろしいのですわ」
「色々と考えているんだな」
「あなたが考えなさすぎなのですわ……まったく、レインさまを見習ってください」
二人は言葉を交わしつつも、キッチリと霧を迎撃する。
次第に霧の手が増えていくものの、未だ、一つも体に触れさせていない。
とはいえ、それも限界だ。
霧の手が倍々で増えていき……
やがて、視界を埋め尽くすほどの数になる。
さすがのグレイとて、これは厳しい。
イリスは能力を使えば、なんてことはないのだけど……
それでは、さきほど口にしていたように、敵を釣り上げることはできないだろう。
なので、あえて捕まる。
「……この辺りでしょうか」
頃合いを見計らい、イリスは抵抗をやめた。
もちろん、それが計算したものとバレないように、力尽きたという感じで。
イリスの意図を察したグレイも、同じく抵抗をやめる。
そして……霧の手が一斉に襲いかかり、二人を拘束した。