作品タイトル不明
505話 敵を釣り上げろ!
俺が思いついた作戦は、わりと単純なもの。
敵が街の人をさらっているのなら、街の人に変装をして誘い出して……
そして、ぱくりとエサに食らいついたところで一本釣り。
以前、タニアを騙る竜族相手に使用した作戦とほぼほぼ同じだ。
街の外にある、採石場に移動した。
街を作るため、かつてはたくさんの人が働いていたらしい。
しかし街が完成した今、訪れる人はかなり少ない。
たまに、小遣い稼ぎを目的とした人が訪れるくらいだ。
人気がなくて、なおかつ、周囲に木々があるため視界も悪い。
誰かが誘拐を企んでいるのなら、絶好のポイントとなる。
そんな場所を、グレイを連れたイリスが歩いていた。
見た目の印象は、採石場を見学するお嬢さまとその護衛、という感じだろうか。
「もう……あたしだって、囮くらいできたのに」
離れたところで様子を見守っていると、隣のタニアがぼやいた。
「仕方ないだろう? タニアは、一目で竜族ってわかるし……敵も、さすがに竜族を誘拐しようなんて思わないだろ」
「では、なぜソラ達はダメなのですか?」
「ソラとルナは、魔法特化だからなあ……いざという時、力任せに来られたら対処できない可能性があるだろ?」
その点、イリスはなに一つ問題がない。
翼を収納しておけば、深窓の令嬢にしか見えない。
見た目は華奢な感じなので、敵も誘拐しやすいと思うだろう。
まあ、採石場を令嬢が一人で歩くなんてありえないので、仕事であることを強調するためにグレイを護衛役として同行させたのだけど。
『レインさま、聞こえますか?』
頭の中にイリスの声が響いた。
彼女の魔法だろう。
えっと……確か、念じるだけで会話ができるんだよな?
『ああ、聞こえるぞ』
『他のみなさんはどうですか?』
『うむ、バッチリなのだ』
『僕も問題はないよ』
『それはなによりですわ。レインさま、そちらから、わたくし達はどのように見えていますか? なにか動きはありそうですか?』
『今のところはなにもないな。ただ、偽装は完璧だと思う。イリスとグレイは、お嬢さまと護衛を見事にやりきっていると思うよ』
『ふふっ。わたくし、元はそれなりの身分でしたもの』
え、そうなのか?
ついつい驚いてしまうが、今はそんな話をしている場合じゃない。
疑問は頭の奥に引っ込めて、話を先へ進める。
『釣りは始めたばかりだ。もうしばらく、頼んだ』
『ええ、任せてくださいませ』
『ただ、絶対に無理はしないでくれよ?』
『わかりました。また、レインさまに心配をかけてしまっては、わたくしも心苦しいですし、きちんと気をつけることにいたします』
なんてことを言うのだけど……
イリスって、おとなしそうに見えて、しかしその性格は大胆不敵。
時に、平気な顔をして無茶をしそうだから怖い。
まあ、俺達が傍にいるから、滅多なことにはならないと思うが。
「ねえ、レイン」
隣で採石場の様子を見るユウキが、ぽつりとつぶやいた。
「レインは、こんなことをたくさんしてきたのかい?」
「こんなこと?」
「囮捜査とか……あとは、魔物の討伐とかアイテムの採取とか。あるいは、ダンジョンの探索とか」
「んー……その時々で色々な目的があったりするけど、一通りはこなしてきたかな? それがどうかしたのか?」
「なんて言えばいいのかな……」
ユウキは遠くに視線をやる。
その横顔は、どこか寂しそうに見えた。
「……うらやましいな、って」
「うらやましい?」
「実は、僕は冒険者に憧れていたんだ」
「へぇ、そうなのか。きっかけがあったり?」
「子供の頃、冒険者の活躍が描かれた本を読んだのがきっかけかな? 勇者が魔王を倒して世界を救う。単純な話だけど、でも、男なら心がワクワクするよね?」
「わかる。ものすごく、わかる」
俺も、父さんと母さんに本を読んでとおねだりしたものだ。
故郷があんなことになった後、冒険者の道を選んだのは、生きるために他の選択肢がなかった、というところもあるが……
父さんと母さんに読んでもらった本に影響されていない、と言い切ることはできない。
やっぱり、ある程度は影響を受けていると思う。
「だから、レインのことがうらやましいな、って」
「……ユウキ……」
「僕は王族だからね。そのことに誇りを持っているし、不満があるわけでもないんだ。ただ……たまに、思うんだ。冒険者として生きることも、それはそれでとても楽しいのかな、って」
「そっか……」
ユウキの気持ちがわかるなんて、そんな簡単なことは言えない。
俺は不器用だから、うまいこと励ます言葉も思い浮かばない。
ただ……
「もしも、の話だけどさ」
「え?」
「今回みたいに、冒険者としての活動をすることがまた来た場合、俺も付き合うよ」
「……レイン……」
「その時は、こんな大きな事件じゃなくて、もっと気楽な依頼でも請けて……うん。そんな感じで、色々と楽しんでもいいんじゃないか? それくらい、問題ないさ」
「そう、かな?」
「そうだよ」
「……」
ユウキは、目を閉じた。
そのまま考えるような時間が過ぎて……
「うん、そうだね」
にっこりと笑う。
晴れやかな顔だ。
いくらか迷いなどが晴れたのならいいのだけど……
こればかりはなんともいえない。
ただ、手助けをすることくらいはできる。
ユウキが困り、悩むようなことがあれば、その時は力になりたいと思う。
王族だからとか、そういう理由じゃなくて……
友達として。
「レイン」
タニアが俺の服を軽く引っ張る。
「お話の最中、悪いんだけど……なんかイヤな感じがするわ」
「うむ、タニアの言う通りなのだ」
「とてもイヤな気配です……」
タニア、ルナ、ソラが険しい顔をしていた。
俺はまだ、なにも感じないのだけど……
最強種であるみんなが……しかも三人ともイヤな感じがするという。
ほぼほぼ、なにかが起きつつあると見て間違いないだろう。
『イリス、聞こえるか?』
『はい、なんでしょう?』
『タニア達が、なにかイヤな予感がする、って。そっちはどうだ?』
『そうですわね……場所の問題なのか、わたくし達の方では……いえ、これは』
迷うような声が届いた、その直後。
「なんだ……?」
採石場を覆うかのように、どこからともなく霧があふれてきた。