作品タイトル不明
503話 クリーグラント
城塞都市クリーグラント。
中央大陸、最西端にある街は、そう呼ばれていた。
魔族領に最接近しているため、街というよりは要塞だ。
観光地などはゼロ。
代わりに軍事施設が立ち並び、訪れる人の大半が軍関係者。
そんな街に俺達は到着した。
普通、関係者以外は立ち入ることはできないのだけど……
ユウキがいるため顔パス。
改めて、彼は王族なんだなあ、と実感するのだった。
「それじゃあ、行こうか」
こうして接している分には、とても気さくで、良い意味で王族とは思えないんだけど。
「レイン、どうかした?」
「いや、なんでもない。それよりも、行くってどこへ?」
クリーグラントが目的地というだけで、その後の行動は聞いていない。
「あ、そっか。ごめんごめん」
「もう、うっかり猫みたいなことはやめてよね」
「うっかり猫……?」
「気にするな、なのだ」
「それで、どちらに?」
「改めて説明するけど、僕達は少数の別働隊。フットワークの軽さを活かして、王が派遣した大規模な部隊とは別に、魔族の動向を探りたいと思うんだ」
「街を攻めようとしているのか、あるいは別の目的があるのか……」
「なかなか判断が難しい問題ですわね。ただ、わたくしとしては、後者を推したいところではありますが」
「その根拠は?」
問いかけると、イリスはわずかに考える間を挟んだ後、確認するようにゆっくりと話す。
「レインさまはご存知かもしれませんが、魔族は絶対的な王政です。魔王が全てを決めて、そして、どのような内容であれ魔族は絶対服従。魔王に逆らうことなんてありませんし、魔王の選択を絶対的に守り、誓います」
例えるなら、魔族はアリと似ている。
女王アリが魔王。
その他のアリが魔族。
女王のために働き、時に、己の身を犠牲にすることもためらわない。
そして、命令には絶対服従。
「魔王の目的は人間を根絶やしにすることですが……それは、自分の手で行いたいはず。事実、以前の魔王はそうしていましたわ」
「以前……? まるで見てきたかのように言うんだね」
「それは……秘密ですわ」
イリスは口元に指先を当てて、パチリとウインク。
ユウキの疑問をごまかす。
「……」
グレイは微妙な顔をしていたため、完全にごまかせたか不明だが……
少なくとも、敵と判断されてはいなさそうなので、今はよしとしておく。
「ですが、今は魔王は休眠期。トップが動けない以上、下は勝手な行動はできないはずなのですが……」
「ふむ? 話はわかるが、ちとおかしくないか?」
「そうですね。勝手な行動ができないというのなら、クリオスや北大陸の件は説明がつきません」
「魔族にも変わり者はいますから。逸脱した行動を取る者はいますし……極稀にですが、魔王に従わない魔族もいると聞きますわ」
それは初耳だ。
てっきり、全ての魔族は忠実な魔王の下僕だと思っていた。
「まあ、そんな事例はほぼほぼないと思っていただいて構わないので、今の話は聞き流してください。話を元に戻しますが、クリオスや北大陸の一件は、一部の魔族……リースさんによって引き起こされました。その目的は、魔王の覚醒に必要な魂を集めること。わたくしの魂を奪い取ったのも、そのためでしょう。そう考えると、決して、魔王の意思に反して行動しているとは言えないのです」
「なるほど」
「なので、今回も魂を集めるためにこの街に攻め入る可能性はありますが……」
「そうだとしたら、ちとリスクが高くないか?」
グレイが口を挟む。
たぶん、同じことを考えているから、そのまま話を聞く。
「ここは、見ての通り要塞と言っても過言じゃないからな。そんなところを攻めるより、別の街を攻めた方が効率的だと思うが?」
「そこは、わたくしも不思議に思っていますわ。なので、もしかしたら別の可能性があるのかもしれません」
「その可能性とやらは?」
「心当たりはありませんわ」
「もったいぶるような話をしておいて、結局、それかよ……」
グレイが呆れたようなため息をこぼす。
イリスには悪いのだけど、その反応は仕方ない。
「現状を確認することは大事だと思うよ。その上で、これからどうすればいいか? それを決めるために必要な情報を集めようと思うんだけど、どうかな?」
「あまり派手に動けないことを考えると……情報屋とか?」
「レイン、正解」
ユウキは、どことなく楽しそうだ。
王族だから、気さくに接してくれる人はいなかっただろうし……
こういう、なんてことのない会話が楽しいのかもしれない。
「国の諜報員から話を聞いて、あと、現地の情報屋をあたってみようと思うんだ。現地の人しかわからないこともあるだろうからね」
「そうね、それはあたしも賛成。でも、あまり時間をかけたくないから、二手に分かれた方がいいんじゃない? 到着したばかりで襲われるなんてこと、あまり考えられないし……今なら二手に分かれても問題ないと思うわ」
「た、タニアがまともなことを言っているのだ……」
「レイン、どうやら大雨が降るようです。傘を用意しましょう」
「あんたら……」
タニアが拳を握ると、ソラとルナはきゃーと悲鳴をあげて逃げる。
そんな二人を、待ちなさいとタニアが追いかけて……
緊張感はまるでないのだけど、それでいいと思う。
変に緊張するよりはマシだ。
目立つのかもしれないけど……
複数の最強種が揃っている時点で、すでに目立っているのだから、今更の話だ。
開き直り、ある意味で楽しむことにしよう。
「じゃあ、ぼっちゃん。俺は諜報員のところに行ってくるんで、情報屋の方はお願いしやす」
「うん、了解。なにもないとは思うけど、念の為、気をつけて」
「へい」
グレイと分かれた後、俺達は、まずはクリーグラントの冒険者ギルドへ。
要塞と変わらない街だけど、ここで暮らす人々もいるので、冒険者ギルドも存在する。
情報屋を探すのなら、まずは冒険者ギルドだろう。
「よう……こそ……クリーグラントの冒険者ギルド、へ……」
建物内に入ると、やけに陰気な受付嬢に出迎えられた。
幽霊!?
と見間違うほどに顔色が青く、ちょっと心配になる。
「なにか……ごよう、でしょうか……?」
「えっと……情報が欲しいんだけど、情報屋とか知らないかな?」
「情報屋、ですか……うふ、ふふふっ……」
唐突に薄ら笑いを浮かべる。
この人、ちょっと怖いぞ。
ソラとルナなんて、軽く涙目になっている。
「情報、でしたらぁ……私にお任せ、ですよぉ……ふへ」
「そ、そっか……えっと、あなたが情報屋も兼ねている、ということで?」
「そうですよぉ。クリーグラント一の情報屋……マリリーちゃんとは、私のことです……ふひっ」
失礼なのだけど……
かわいらしい名前と性格が釣り合っていないような?
いや。
実は、打ち解けたら陽気になるのかもしれない。
彼女の性格は気にしないことにして、話を続ける。
「どのような情報をお求めでぇ……?」
「魔族に関する情報だ。大きなことでも小さなことでも、なんでもいい。なにかあれば、教えてくれないか?」
「魔族、ですかぁ……ふひっ」
「こやつが魔族ではないのか……?」と、怯えるルナのセリフは聞こえなかったことにして、マリリーの言葉に耳を傾ける。
「魔族、でしたらぁ……ちょうど、良いネタがありますよぉ……ふへ」
「それは……?」
「四天王と……それに匹敵する力を持つ魔族がぁ……ふひ、目撃されています」