作品タイトル不明
500話 もっと気軽に
「えっ……ちょ!? 頭を上げてください」
慌ててそう言うものの、ユウキさまは頭を上げようとしない。
むしろ、さらに深く下げてしまう。
「僕の話は、シュラウドさんとその仲間を危険に晒してしまうことです。それなのに、頭を下げることすらしないなんて、ありえません」
「……ユウキさま……」
「今はこの程度しかできないことが、僕はとても歯がゆく……もちろん、今回の依頼にあたり、報酬は用意させていただきます。シュラウドさんが望むものを、できる限りの範囲で用意しましょう」
そこまで言ったところで、ユウキさまは顔を上げた。
今度は、まっすぐな目を向けてくる。
目と目が合う。
なんていうか……不思議な感覚を覚えた。
出会ったばかりの相手で、しかも、相手は第一王子。
このようなことを考えるのは不敬なのかもしれないが、長年の友達のような親近感を覚えた。
「どうか、力を貸していただけませんか……!!!」
「お願いしやす!」
グレイもユウキさまの隣に並び、頭を下げる。
「えっと……」
カナデとティナを見る。
二人はすぐに俺の視線に気がついて、その意味を察して、考えるような顔に。
「うーん、私は賛成かな? 危険はあるかもしれないけど、でも、レインが無茶するのはいつものことだから」
「うっ」
「そういうところをサポートするのが、私達の役目だからね。あと、どちらにしても、そういう話を知っちゃった以上、放っておくことはできないかも」
「せやな。でも、みんなで話し合う必要はあると思うで」
「ああ。そこは、きちんとしていくよ」
ユウキさまに視線を戻す。
「基本的には、引き受ける方向でいきたいと思います」
「本当ですか!?」
「ただ、俺の一存で決めるようなことはしたくないので、みんなと話し合う時間をください」
「ええ、それはもちろん」
「前向きな判断、感謝するぜ」
ユウキさまとグレイが、どことなくほっとした様子で笑顔を見せた。
内容が内容だけに、断られるかもしれないと思っていたのだろう。
「えっと……みんな、今は家にいないよな? どこに出かけているんだっけ?」
「にゃー。ソラとルナとリファは買い物かな? ニーナとノキアさんはお散歩」
「フィーニアもサクラの散歩に出たでー。タニアとイリスは謎やな……ごはんまでには戻る、ってゆーてたけど」
「そうなると、ちょっと時間がかかるかもしれないな……」
タニアは、探せば見つかりそうな気もするが……
イリスはなにをしているのか、さっぱりわからない。
気がつくと姿が消えていて……
いつの間にか戻ってきているということが多々ある。
なにをしていたのか? と聞いても、意味深にふふふと笑うだけで答えてくれないんだよな。
プライベートに干渉するのもどうかと思うので、深く追求することはないのだけど……
うーん、謎だ。
「なら、せっかくやしごはんを食べていきませんかー?」
「え、いいのですか?」
「もちろんや……もちろんですぜー」
ティナ、緊張しているのはわかるけど、ちょっと敬語がおかしい。
どこかの怪しい商人みたいな口調になっているぞ。
「おぉ、そいつはうれしいな。メイドの嬢ちゃんは料理がうまそうだから、期待してもいいんだろ?」
「せやでー。期待の期待、超期待してええでー」
「グレイ、そんな不躾なことをお願いするなんて……」
「いえ、こちらは問題ありませんよ。ウチは人数が多いから、いつもたくさんの食材を買っているので、一人二人増えても問題はないですし、ただ待たせるだけでもてなしをできない方がまずいですから」
「えっと……」
「俺が言うのもなんですが、ティナの料理はおいしいですよ。もう一人、料理のできる子もいますし……」
「……破壊兵器を作る子もおるけどな」
ティナは遠い目をして言う。
そのことは思い出させないでほしい。
「よければ、ぜひ」
「……わかりました。では、お言葉に甘えて」
ユウキさまはにっこりと笑い、楽しみです、と付け加えるのだった。
――――――――――
「こちらが屋上になります」
食事ができるまでの間、ユウキさまが我が家に興味を示していたみたいなので、家の案内をすることにした。
グレイは警護らしく、家の近辺を見回っている。
「わぁ……綺麗なところですね。とても落ち着くし、それに眺めもいいです」
「でしょう? ウチの自慢です」
みんなとの家が褒められるとうれしい。
自然と笑顔になってしまう。
「最近、リフォームしたばかりなんですけど、とても良い感じにできたと思っていて……こうして、ユウキさまにも良いと言っていただけて、とてもうれしいです」
「えっと……」
ふと、ユウキさまの顔色が変わる。
気を悪くしたとか、そういう感じはしないのだけど……
なにやら俺の様子を気にしているみたいで、チラチラと視線が飛んでくる。
「どうかしましたか?」
「そのこと、なんですが……」
どのこと?
「ちょっと唐突な話をしますが、僕は王族に向いていないと思うのです」
「本当に唐突ですね……」
「王は、あのように威厳を備えているのですが、僕は、どうにもそういうのは苦手でして……もっと気楽にしていたいと思うのです。まあ、立場上それは難しいため、それなりにきちんとしてはいますが」
「そう、ですね……自分が言うのもなんですが、それなりにわかるところはあります」
俺も、ホライズンの英雄とか言われているからな。
そんな大層なものじゃないから、もっと普通に見てほしい、と思う時はたまにある。
「なので、いつでもどこでもとは言いませんが、人前でなければ、よければもっと気さくに……シュラウドさんの仲間にしているように接していただけませんか?」
「え? いや、しかしそれは……」
「そうしていただけると、とてもうれしいです。そして……」
ユウキさまは、そっと手を差し出してきた。
その顔は不安と期待、相反する感情で揺れている。
「よかったら、僕と友達になっていただけませんか?」
「友達に……?」
「はい。たぶん、僕とシュラウドさんは、良い友達になれると思うのです。ただの直感ですが……でも、僕の直感はわりと当たるのですよ」
ユウキさまは、こんな人なのか。
凛としている人かと思えば、親しみやすいところがあり、笑顔が優しい。
そんな人柄に、俺は惹かれているのかもしれない。
自然と、この人のことをもっと知りたいと思っていた。
「一つ、条件があります」
「条件ですか? それは、どのような……」
「……俺のことは、レインで。友達ならそう呼ぶだろう? な、ユウキ」
「あ……」
ユウキさまは……いや。
ユウキは、にっこりと笑う。
「そうだね、レイン」
「よろしく、ユウキ」
俺達はしっかりと握手を交わした。