作品タイトル不明
499話 王子がやってきた
「「なぁっ!?」」
俺とティナが驚愕して、
「にゃん?」
王族に対して、それほど強い敬意などを持っていないカナデは、のんびりとした反応だ。
「えっと……すみません。失礼ですが、王族としての証は……?」
王族を騙ることは重大な犯罪だ。
内容次第によるが、ほぼほぼ極刑となる。
なので、普通に考えて王族を騙る者はいない。
ユウキの言葉は本物と考えていいのだけど……
それでも、念の為に証拠が欲しい。
「えっと、そうですね……これならどうでしょうか?」
そう言って、ユウキは腰に下げていた剣をテーブルの上に置いた。
確認をさせてもらうと、柄に王家の紋章が刻まれている。
王家の紋章は複雑な作りとなっていて、専門の職人でないと作ることはできない。
幸いというべきか、王やサーリャさまと顔を合わせたことがあるため、王家の紋章のことは覚えている。
偽物なんかじゃない。
本物だ。
慌ててソファーから降りて、膝をつく。
ティナも横に並び、頭を下げる。
「申しわけありません、殿下。試すようなことを口にしてしまうなんて……」
「ああ、いえ。気にしないでください。当然の反応だと思いますから……というか、立ってください」
「ですが……」
「ここは公の場ではありませんし……そうだとしても、僕は、王の息子というだけで、シュラウドさんの上司とか、そういうわけではありません。そのような態度をとられてしまうと、逆に困ってしまいます」
軽く顔を上げる。
本気で困っているらしく、ユウキ……いや。
ユウキさまは、あたふたとしていた。
「にゃー……王子さまっていうと、もっと自信たっぷりで偉い感じをイメージしていたんだけど、そういうわけじゃないんだね」
「お、おい、カナデ!?」
「にゃん?」
頼むから、思ったとしても、そういうことは言わないでほしい。
寿命が縮む。
あるいは、緊張で心臓がどうにかなってしまう。
「あははっ」
不敬罪も覚悟するのだけど、しかし、ユウキさまは楽しそうに笑う。
「おもしろい方ですね。父からは、カナデさんの詳しい話は聞いていなかったので、なんだか、新鮮な気分です」
「私、褒められた?」
「とにかく、そういうわけなので……気にしないでいただければ」
「……わかりました。寛大な処置、感謝いたします」
「うーん、そういうところなんですけど……まあ、すぐには難しいですね」
ユウキさまは苦笑するが、こればかりはどうしようもない。
最強種であるカナデならともかく、俺は、この国で暮らす一人の人間。
頂点に立つ王族を前にして、敬意を払わないなんてこと、できるわけがない。
「ま、あんたらの気持ちはわかるけどな。ぼっちゃんは、ホントに気さくな方だから、礼儀とか気にしなくても問題ないぜ? そういうのを気にする方だったら、俺は、とっくにクビになっているだろうからな。あるいは物理的に首が飛んでいるさ、はははっ」
グレイが豪快に笑うが、俺からしたらまったく笑えない冗談だ。
とにかくも、ユウキさまが言うのならば……と、ソファーに座り直した。
「えっと……それで、俺達に頼みたいことっていうのはなんでしょう?」
「今から話すことは他言無用でお願いします。シュラウドさんの仲間に打ち明けるのは構いませんが、それ以外はなし、ということで」
「わかりました。仲間以外には話さないと誓います」
「助かります。今回、僕は、とある依頼をシュラウドさん達に頼みたいと思い、こちらまでやってきました」
王子がわざわざ足を運ぶほどの依頼。
簡単なものではないだろう。
「シュラウドさんは、クリ―グラントを知っているでしょうか?」
「えっと……確か、中央大陸の西にある街ですよね? 西大陸に一番近いから、軍備がかなり増強されていて、要塞都市と呼ばれている」
「その通りです。まだ断定することはできないのですが……そのクリーグラントに魔族が攻め込んでくるかもしれません」
「なっ」
王子が動くのだから、よほどの事態だろうと考えてはいたが……
その予想を上回るほどの大事だ。
今までに、魔族が人の街に攻め込んできたなんていう事件はない。
いや、あるにはあるのだけど……
それは戦時中のこと。
魔王が休眠期にある中、魔族が攻め込んでくるなんて、ありえないはずだ。
「もしかして……開戦が近いんですか? 魔王が、活動を開始したんですか?」
「いえ、そういうわけではありません。魔族の動向は常に監視をしていますし、魔王に関してはなおさら。今のところ、魔王が目覚めることも開戦することもないでしょう」
「それは朗報やけど……」
「それならなんで、魔族は人間の街に攻め込んでくるの?」
カナデのもっともな質問に、ユウキさまは難しい顔になる。
「それは、わかりません。今回の話も、百パーセントという確たる情報ではなくて、そうなるかもしれない、という可能性の話でして……」
「その情報源は?」
「僕が独自に持つ情報網と、あと、国の諜報機関によるもの……二つを重ね合わせたものになります」
「なるほど……」
国の調査だけではなくて、ユウキさまが持つ情報網にも引っかかった、というわけか。
そういうことならば、情報の精度は高いだろう。
確かに、百パーセントと断言できないけれど……
だからといって、無視していい話じゃない。
「その件について、王はどういう反応を……?」
「王も事態を深刻に受け止めています。すでに、さらなる調査をしていますし……それと、僕も独自に動くことにしました。クリーグラントへ赴いて、現地での調査をしようと考えています」
「それは……かなり危険なことでは? 王子であるユウキさまがやるようなことじゃないかと……」
「そうですね。情報が確かなら、かなりの危険があるでしょう。ですが、だからといって放置するわけにはいきません。安全なところに逃げて、縮こまっているわけにはいきません。民を導いて、国を動かす王族だからこそ、先頭に立ち、突き進んでいかないといけないのです」
「……」
とてもしっかりとした考え方に、思わず感心してしまう。
あの王の息子なのだから、立派な方だろうとは思っていたのだけど……
想像以上だ。
ユウキ・ヴァン・ロールリーズ。
この人は、今以上に優れた王になるかもしれない。
「ただ正直なところ、こちらの戦力が足りないところでして……グレイは、元はAランクの冒険者でかなりの実力者ですが、彼一人では全てを補うことはできません」
「ぼっちゃんは容赦ないねえ……ま、事実だけどな」
「認めてしまうんですか」
「認めるさ。俺は、それなりに腕に自信はあるけどな。ただ、一人で全てを完璧にこなせる、なんてバカなことを言うつもりはねえよ。己の分はきちんとわきまえてる」
己の力はここまでしか通用しないと、そうやって客観的に自分を見ることができる人は、なかなかいない。
ユウキさまの護衛を務めるだけあって、実力だけじゃなくて、知恵も人格もきっちりとしているのだろう。
「彼の他に護衛は連れていかないんですか?」
「情けない話ですが、確実に信頼できる者となると、グレイ以外に思い浮かばず……モニカの件があるため、なかなか難しいんです」
「あぁ、なるほど」
「そこで王に相談したところ、シュラウドさんの名前が挙がったんです」
なんで、そこで俺を指名するんですか……?
「今回の件は、四天王が関わっている可能性があります」
「四天王が?」
「想像している通りの事態ならば、かなりの激戦となるでしょう。そのようなところに来てほしいなんて、とんでもないわがままなのですが……しかし、あえて今はわがままを言わせてもらいます。どうか、力を貸してくれませんか?」
ユウキさまは立ち上がり……
なんと、平民である俺に対して深く深く頭を下げてしまうのだった。