作品タイトル不明
498話 来訪者
「ふむ……」
新しい我が家に作られた屋上で、俺は中央大陸の地図を開いていた。
大陸の中央に王都が。
そこから南下したところにホライズン。
そして、周囲にいくらかの都市、街、村が建ち並ぶ。
「レイン、なにしているの?」
「カナデか。ちょっと、考え事をな」
「考え事? ごはんのこと?」
「それもいいんだけど、今は別のことかな。どこかに、魔族の拠点があると思うんだけど、それを特定することができないかな……って頭を悩ませていたんだ」
モニカとモナ。
アリオス達。
そして、未だ顔は見たことはないが、一連の事件の背後にいるリースという魔族。
連中は、おそらく中央大陸のどこかにいる。
転移の魔道具を所持していたとしても、いちいち西大陸から足を運んでいるとしたら、手間がかかることこの上ない。
それに、いざという時に迅速に動くことができない。
だから、中央大陸のどこかに拠点があると思うのだけど……
「……難しいな」
「にゃー、レインでもわからないの? とんでもテイマー能力でなんとかならないの?」
「とんでも言われるのも慣れてきたな……まあ、それはともかく。アジトを突き止めるのに適した動物はいるにはいるんだけど、でも、転移の魔道具を使われると厳しいんだよな」
例えば、犬を使役して匂いで追跡することはできる。
しかし、途中で転移をされれば、そこで匂いは途切れ、それ以上の追跡は難しい。
「後手後手に回ってきたから、そろそろ反撃に移りたいんだよな」
「レインは、シフォンみたいに魔族と戦うつもり?」
「彼女のような強い使命感はないんだけど……ただ、モニカやアリオスを放っておくわけにはいかない」
また事件を起こすかもしれない。
そして、また涙を流す人がいるかもしれない。
誰かが止めなければならない。
その力が俺にあるというのなら、できることはしていきたいと思う。
まあ……結局のところ、世界のため、なんていう大義はないが。
俺は、大事な仲間を守りたいと思っていて……
そのために脅威を排除したいだけ。
結局のところ、わがままでしかない。
「でもでも、私は、そんなレインはとても良いって思うな。それに、えっと……す、好きだよ?」
「そ、そうか……」
「……」
「……」
照れて、互いに無言になってしまう。
カナデ達に対する答えも、きちんと考えていかないといけない。
やること、多いな。
「にゃん?」
ふと、カナデが小首を傾げた。
その視線は家の外に向いている。
「レイン、お客さんみたいだよ」
カナデの視線を追いかけると、二人の人影が見えた。
一人は俺と同じくらいの男。
もう一人は、三十くらいの男。
共に、冒険者という感じの格好をしていた。
「お客さんかな」
拠点の予想は中断して、俺は屋上を後にした。
「あ、レインの旦那。ちょうどよかった、お客さんやでー」
リビングに移動したところで、ティナがそんなことを言う。
「お邪魔しています」
「よっ」
丁寧な挨拶と大雑把な挨拶が。
ひとまず、こちらも頭を下げる。
「こんにちは。俺は、レイン・シュラウド。こっちは仲間のカナデで、ティナ」
「よろしくねー」
「よろしくやでー」
「よろしくお願いします。僕は、ユウキといいます」
「俺はユウキさ……ぼっちゃんの護衛のグレイ・サガだ。よろしくな」
互いに簡単な挨拶を交わしたところで、対面のソファーに座る。
隣にカナデが座り、ティナは、みんなの分のお茶を淹れてくれた。
うーん?
ユウキだけ名字を名乗っていないのだけど……
なにかしら事情があるのだろうか?
「この二人、なんかレインの旦那に頼みたいことがあるらしいでー。冒険者ギルドで紹介されて、やってきたんやって」
「なるほど……頼みたいこと、っていうのは?」
「その前に、ちと内密の話があってな。嬢ちゃん二人は、悪いが席を外しちゃくれないか?」
やはり訳ありか。
でも……
「それはダメです」
「なに?」
「カナデもティナも、俺の大事な仲間です。彼女達に隠し事をしなければいけないというのなら、あなた達の頼みを請けるわけにはいかない」
「大事な話でな。周囲に漏れるとまずいんだよ」
「俺はみんなを信じています。だから、やっぱり、このまま同席してもらいます」
「しかしだな……」
「グレイ、それ以上、無茶を言うのはやめておこう」
ユウキが話に割り込んできた。
すると、グレイが途端に困り顔になる。
この二人の上下関係は、ユウキの方が上らしい。
「シュラウドさんが信じている方を信用できないと言うのは、彼をバカにしているのと同じだ。仲間なら大丈夫という、シュラウドさんの言葉を信じるべきでは?」
「わからないでもないですが、ぼっちゃんは、ちと甘いですからね……世の中には、善人面して平気で人を地獄に叩き落す外道がいるんですぜ?」
「大丈夫。シュラウドさんは、不思議と信じられる気がするんだ」
「根拠はあるんですかい?」
「勘かな」
「はぁ……こうなったら、意地でも意見を曲げないですからね。わかりやした、ぼっちゃんに従いましょう」
最終的にグレイが折れた。
一見すると、ユウキはおとなしく見えたのだけど……
でも、俺の目が間違っていたみたいだ。
おとなしく見えるのは外見だけで、芯は強く、自分の主張をハッキリと伝えて押し通す強さを持っている。
「はて?」
ふと、そんなユウキの態度に既視感を覚えた。
どこかで見たような気がするのだけど……
でも、初対面だよな?
「失礼しました」
「いえ、気にしていませんから」
「そう言っていただけると助かります」
ユウキは穏やかな笑みを見せて……
次いで、キリッと真面目な表情を作る。
「改めて、自己紹介をさせてください。僕の名前は、ユウキ……ユウキ・ヴァン・ロールリーズ。国を治める王の息子で、第一王子です」