作品タイトル不明
497話 豪炎のアルテラ
西大陸の西端に位置する山脈に魔王城は建つ。
全ての魔族の本拠地。
そして、全ての魔族の主である魔王が眠る城。
その外観は城と言うにはあまりに大きすぎた。
部屋数は千を超えて、最上階は雲の上。
山脈全体に広がっていて、城というよりは街だ。
そんな魔王城の一角……
下級魔族が暮らす居住区に、小さな少女の姿があった。
歳は十くらいだろう。
オレンジ色の髪は、燃える炎を表現しているかのようだ。
逆に、瞳はディープブルー。
宝石のように綺麗ではあるが、どこか冷たさを感じられる。
「あっ」
体の大きい魔族が少女にぶつかる。
少女は尻もちをついて、うつむいてしまう。
そんな少女に対して、体の大きい魔族は嗜虐的な笑みを浮かべてみせた。
「おいおい、ガキがこんなところでなにしてるんだよ? 邪魔なんだよ、邪魔」
「……」
「ここら一帯は、俺様の縄張りだ。許可なく立ち入ることはできないし、立ち去ることもできねえ。それは、ガキでも変わらねえ」
「……」
「とりあえず、持ってるもん、全部出せ。あと、俺様を楽しませてみせろ。そうだな……裸になって、土下座して、全身全霊で楽しませてみせろ」
「……」
「おい、聞いてんのか?」
少女の反応がないことに、魔族は苛立った様子で声を大きくした。
それに反応したのか、少女はぴくりと動く。
ゆっくりと顔を上げて……
「な、なんだ……?」
「ふふっ」
少女は笑っていた。
楽しそうに愉しそうに笑っていた。
「みーつけた」
「あん?」
「おじさんが、最近、ここらで悪さをしている魔族だね? 聞いた話だけど、他の下級魔族をいじめているとか。時々、殺しちゃうとか」
「それがどうした? あぁ? まさか、俺様に説教をするつもりか?」
「説教で済めば、まあ、それでいいんだけど。ねえねえ、そういうの、やめよ? 下級魔族……ハーフだとしても、私達の大事な仲間なんだよ? いじめ、よくないと思うな」
「おいおいおい、ホントに説教するとは……くそふざけたガキだなぁ、おい!」
魔族は少女の胸ぐらを掴み、その小さな体を軽々と持ち上げた。
顔が触れるほどに近づいて、睨みつける。
しかし、少女はまったく動じていない。
欠片も怯えていない。
その時点で、この少女が何者なのか、気づくべきだった。
それ以前に、上位魔族と接する機会がほぼほぼないとはいえ、彼女のことくらいは知っておくべきだった。
「おじさん、反省するつもりはないの?」
「あるわけねえだろ、ばーか。ここにいる連中は、俺様のおもちゃなんだよ。なにをしても許されるんだよ」
「そっか」
少女はにっこりと笑う。
「更生の余地はなさそうだから、死んでね」
「はぁ? くそガキが生意気言ってるんじゃ……あ?」
ふと、魔族の視界が傾いた。
突然、地面に倒れて……
それと、少女も自由になってしまう。
なにが起きたのか?
両手足が一瞬の間に切断されていた。
超高温の炎で焼き斬られたかのように、傷口は塞がっている。
「な、なんだこれはぁ!? 俺様の足が! 手が!? なんでなんでなんで……」
「うるさいよ」
少女が手を振り……
直後、魔族の全身が燃えた。
激しい業火に包まれて、十秒ほどで骨も残さずに焼き尽くされてしまう。
「まったくもう、悪いことはしちゃダメなんだよ?」
少女は、子供らしく頬を膨らませてみせる。
かわいらしいのだけど、しかし、魔族を一瞬で殺したのは少女であり……
一部始終を見ていた他の魔族は、恐れおののいた。
「やれやれ……いきなり処刑ですか」
「あ、リースちゃんだ。やっほー」
どこからともなく、扇情的な格好をした魔族……リースが現れた。
二人は顔見知りらしく、少女は気さくな様子で手を振る。
「アルテラさま。犯罪者とはいえ、問答無用で処刑してしまうのは、いかがなものかと思いますが」
「えー。でもでも、悪い魔族なんだよ? 更生の余地もないんだよ? なら、殺すしかないじゃん」
「わからないでもないですが、我ら魔族の戦力は限られていることを、少しは考えていただけると……」
「あんなゴミがいたら、逆に邪魔になるだけだよ。だから、殺した方が早いと思うな」
「そう言われると……」
リースもわりと過激な発想に至ることが多いため、ついつい、少女の言い分に納得してしまいそうになる。
しかし、すぐに我に返る。
今見たように、少女は行動力にあふれている。
それを諌めるため……ストッパー役を務めるため、自分はここにやってきたのだ。
多少なりとも納得できるところがあっても、厳しくしなければならない。
「処断するにしても、生贄にするなど、色々と有用な方法はあったでしょう? それを考えることなく、すぐに殺してしまうのは、やはり問題があるかと」
「うーん……そう言われると、そうかも」
「まあ、その行動力こそが、アルテラさまらしいとも言えますが」
「私、褒められてる?」
「とにかく、今日からしばらくの間、私がアルテラさまと一緒に行動をさせていただきます。ダメな時はダメと言うので、行動に移る前に一考していただけると幸いです」
「んー……リースちゃんがそこまで言うなら、うん、わかったよ。ちゃんと考えることにするね」
「ありがとうございます」
リースは深く頭を下げる。
見た目で考えるのならば、リースの方が立場は上に見えるが……
実際は、真逆だ。
少女の方が立場は上。
力も上。
彼女は……
四天王の一人。
豪炎のアルテラなのだから。
「ところで、どうしてリースちゃんがこっちに来たの? 確か、リースちゃんは人間の大陸の方で、色々とやっていたんだよね?」
「他の方から、アルテラさまが近々動くからサポートをしてほしい、と頼まれまして」
「おー、そうなんだ! えへへ、リースちゃんは優しいから好き。一緒にがんばろうね」
「はい。ところで……具体的には、なにをされるつもりなのですか?」
「あれ? 聞いていないの?」
「細かいことは、アルテラさま本人から聞いてくれと」
「もー、みんな無責任だなあ。まあいいや。私のやりたいことは、とってもシンプルなことだよ」
アルテラは人差し指と中指を立てて、一つずつ折り曲げていく。
「まず、人間の街を攻めるの。で、その混乱に乗じて、苗床になる女を確保するの。どちらかというと、攻める方がおまけかな? 混乱に乗じて、人間の女をさらうのが本命。本当はもっともっと暴れたいんだけど、魔王さまが寝てる時に勝手をしちゃったら、怒られるかもしれないからね」
少女らしい笑みを浮かべつつ、しかし、おぞましい内容を口にするアルテラ。
子供のような無邪気さと残虐さを兼ね備えたアルテラに、リースでさえ、背筋が冷えるのだった。