作品タイトル不明
488話 リースの友人
「ただいまー」
中央大陸の辺境にある屋敷。
モナの陽気な声が響いた。
「おかえりなさい」
そんな彼女を迎えるのは、屋敷の主であるリースという魔族だ。
色々な事件を裏で操り、混乱と秩序の破壊を撒き散らしている。
その目的は不明だ。
「やー、疲れた疲れた。喉カラカラだよ。なにかない?」
「その前に、報告をお願いできますか?」
「えー、めんどくさいなあ」
「やれやれ……あなたは優秀なのだから、もう少し真面目にやってほしいんですけどね」
「十分真面目にやっているって。ホントホント、いつでも真面目」
「そういう言動がダメなんですけどね」
リースはため息をこぼす。
ただ、本気で呆れているとか、そういう雰囲気はない。
どちらかというと、手のかかる妹を相手にしているかのようだ。
「ごめんね、失敗しちゃった」
「え、失敗したんですか?」
「うん。普通なら、闇の呪いを解除できるわけないんだけどねー。でも、相手が普通じゃなかったよ」
「……レイン・シュラウドですか?」
「うんうん。それと、その仲間達。なんなの、あれ? めっちゃくちゃ強いんだけど」
誰にでも化けることができるモナは、体の一部を変化させることもできて、それなりの戦闘能力を有している。
相手が最強種だとしても、ある程度は渡り合えるという自信があった。
しかし、あの人間は別だ。
レイン・シュラウドは……底が見えない。
変身能力を活かして、トリッキーな戦い方をすることで、最初は圧倒することができた。
人質を取り、追い詰めることができた。
ただ……
あのまま最後まで戦っていたら、どうなっていたか?
おそらく、負けていただろうと、モナは冷静に分析した。
渾身の策を用意しても、とっておきの一手を繰り出したとしても、寸前のところで避けられてしまうような予感があった。
そして、最後には強烈なカウンターを繰り出してきて……
こちらの喉元に食らいつく。
そんな危機感を覚えた。
故に、モナはわりとあっさりと撤退することを決めた。
あのまま粘ることも可能ではあったけれど……
どうにもこうにも、悪い結末しか想像できない。
「ごめんねー。ぶっちゃけ、あれは私の手に余るかも」
「では、あの神族の記憶は……?」
「戻ったかな? まあ、一番やばいところは、以前に完全に消去しておいたから問題はないと思うけど……んー、それでも、厄介なことになるのは間違いないか。そこは私のミスだなー、ごめんよ」
「いえ、謝らないでください。そもそも、モナがいたからこそ、呪いが解除されそうになっていることに気がつけたわけですから。それなのに、あなたが悪い、なんてことは言えませんよ」
「前にも言ったけどさ、いっそのこと、殺した方がスッキリするんじゃない? 厄介なことを思い出されることもないし、贄にできるし」
「そうなんですけどね。ただ……できることならば、あの神族は堕として、仲間にしたいんですよ。モナ、あなたのように」
「まあ、最強種を元にした魔族は、とっても強いからねー」
「そのために、色々と仕組んできたのですから」
「でも、無理っぽいけどね。ここまで来たら、相手も相当に警戒してるだろうし」
「頭が痛い展開ですね……まあ、こうなれば諦めるしかないでしょう」
「最強種を魔族にする……おもしろい計画だと思うけど、邪魔者がねー。なんとかしたいけど、難しいし。や、一応、私もがんばったんだけどねー? あれは無理。マジで無理。やるなら、戦闘の専門家が欲しいかな?」
「そうですね……」
モナの言葉を受けて、リースが考える。
戦闘の専門家については、いくらか心当たりがある。
しかし、彼らはリースの直属の部下ではない。
親しい仲でもない。
「なんとかしたいところですが、私は少数派ですからね。使える兵力もコネも限られているので、できることなら、戦力は温存したいですね」
「やっぱ、そうなるかー。あー、少数派って厄介だねー」
「モナは、少数派に回ったことを後悔しているんですか?」
「まっさかー。魔王さまの意思を無視して、魔族っていう種の存続を第一に考える、バカの多数派なんかにはいられないよ。それよりも、魔王さまの意思を叶える少数派こそが、魔族らしいと思うかなー」
「ふふっ、その答えを聞くことができて、安心しました」
「生き延びたいとかいう多数派って、なに考えてるんだろうね? 私ら魔族の存在意義は、魔王さまのためにあるっていうのに、自分を優先しちゃうなんてさ」
「仕方ありません。今は、魔王さまは眠っていますから。今回の眠りは特に長く……本来の役目を忘れるものが現れたとしても、不思議ではないでしょう」
リースは、やれやれとため息をこぼす。
そんな彼女を見て、モナも、困ったもんだと言うかのように肩をすくめてみせた。
「そういや、四天王は私らと同じ、少数派だよね? まあ、一人、倒されちゃったけどさ」
「確かに、彼らも同じ少数派ですが、動かすことはできませんよ? 権限は私よりも上ですし、なによりも、魔王さまの守護をしなければいけませんから」
「そうなんだけど、一人くらい、なんとかならない? ほら。人間が西大陸に攻め込んでくるなんて、まずありえないでしょ? 多数派も、いくらなんでも魔王さまを狙うわけがないし……一人くらいなら、って思うんだけど」
「そうですね……」
リースは考えるような仕草をとる。
ややあって、小さく頷いた。
「わかりました。うまくいくかわかりませんが、機会があれば交渉してみましょう」
「うんうん、そうした方がいいかなー。あのレイン・シュラウドっていう人間、放っておいたらまずい気がするし」
「ふむ……」
ふと、リースはイヤな感覚を得た。
以前、モニカに進言されたことがある。
レイン・シュラウドは危険な人間かもしれない……と。
その時は、アリオスを引き込むことに専念していたため、聞き流した。
心の片隅には留めておいたものの、真剣に検討することはなかった。
それが悪かったのか……
ここ最近は、連続で邪魔をされて、ヴァイスが倒されて、リーンも討伐された。
それなのに成果はゼロ。
「……今までは散発的に動いてきましたが、そろそろ、方針転換をした方がいいかもしれませんね」
「どうするの?」
「魔王さまの覚醒を第一に、本格的な活動をしましょう」