作品タイトル不明
487話 正しい再会
「……ん」
ゆっくりと目を開けると、リビングの天井が見えた。
頭がぼんやりしていて、記憶が曖昧だ。
えっと、確か俺は……
「じー」
「リファ?」
あいかわらずの無表情で、リファが俺の顔を覗き込んできた。
ただ、どことなく心配してくれているように見える。
「レイン、大丈夫?」
「ああ……うん、大丈夫だ」
体を起こす。
すると、カナデ達みんなの姿が見えて……ああ、そっか。
思い出した。
呪いを解くために、ノキアさんの心の中に入っていたんだっけ。
「う……」
ティナ、ニーナ、イリスも順に目を覚ました。
若干、だるそうにしているものの、特に問題はなさそうだ。
「ふぅ……ウチら、戻ってきたん?」
「みたい、ですわね……ちょっと頭がクラクラしますわ」
「心の中に入るということは、けっこうな負担じゃからのう。肉体的な問題はないものの、精神はかなり疲労しているはずじゃ」
「では、ソラがお茶を淹れましょう」
「ルナで……おね、がい」
「どういう意味ですか!?」
「そのままの意味であろう?」
「うぅ……まさか、ニーナにまで言われてしまうなんて……」
みんなのやりとりを見ていると、自然と笑顔になる。
心の世界から戻ってきたんだな、という実感が湧いてきた。
「それで、レイン。どうなったの?」
「あ、それ、私もすごく気になるんだけど……」
タニアとカナデの問いかけに、俺は首を傾げる。
「あれ? アルさんから説明を受けていないのか?」
「なにも聞いていないわ」
「最後は、ちと魔力が乱れたのか、そちらの様子が見えなくてのう。どうなったのか、よくわからぬのじゃ」
「なるほど」
肝心な場面がわからないとなると、みんな、ものすごくモヤモヤしているだろう。
あの後、どうなったのか?
詳細を説明しようと口を開いて……
「……んぅ」
そこで、ノキアさんがゆっくりと目を開けた。
俺達と同じく、頭がぼんやりとしている様子で、どこか反応が鈍い。
「ノキアさん、大丈夫ですか?」
「えっと……」
「水、飲みますか?」
「……はい、お願いします」
「どうぞなのだ」
ルナが水を差し出す。
その後ろでソラが、「ソラだって水くらい淹れることはできます……」と拗ねていたが、見なかったことにした。
「……ふぅ」
水を飲んで、いくらか落ち着いたらしい。
ノキアさんの顔は、起きた時よりもスッキリとした様子で、顔色も良い。
「「「……」」」
呪いは無事に除去できたのか?
みんな、そのことが気になるらしく、うずうずとした様子だ。
しかし、ノキアさんに無理をさせるわけにはいかず……
じっと口を開くのを待っている。
「えっと……聞いてもいいですか?」
「はい、どうぞ」
「呪いは……どうなったんでしょう?」
「それは……」
答えようとしたところで、ノキアさんの視線が別のところへ移動した。
その視線の先に、ニーナがいる。
突然、じっと見つめられて、ニーナは不思議そうに、小首をこてんと傾げた。
そんな彼女を見たノキアさんの瞳に、涙が浮かぶ。
「……ニーナ……」
ノキアさんがニーナの名前を呼ぶ。
つまり……そういうことだ。
「ふぁ……?」
「ニーナ……なんですよね? あれから大きくなっているけど、でも……あぁ、やっぱりニーナです」
「ママ……わたしの、こと……わかる、の?」
「もちろんです」
ノキアさんは立ち上がり、一歩、前に出る。
そして、おいでと言うように両手を広げた。
「こんなに立派になって……ああ、もう。本当に、どれだけ会いたかったか……私の大事な大事な娘……会いたかった」
「……ママ……」
ニーナの小さな目から涙がこぼれた。
ぽろぽろ、ぽろぽろと。
一度あふれた涙は止まらない。
次から次にあふれて、ニーナの頬を濡らしていく。
「ママぁっ!!!」
「ニーナ!」
ニーナがノキアさんの胸に飛び込む。
ノキアさんは、大事な宝物を扱うかのように、しっかりとニーナを受け止めた。
そのまま優しく抱きしめて、娘の存在を、熱を、全身でしっかりと確かめる。
「わたし、ずっと、ママに……あ、あい……会いたくて……」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ニーナ……」
「レインや、みんな、いたから……でも、やっぱり、ママに会えないの寂しくて……」
「私も、すごく寂しかったです……あぁ、ニーナ」
「うぅ、ひっく……ぐす、ママぁ……やっと、会えたの……もう、離れないで……一緒に……いてぇ……」
「もちろんです、もちろん……ずっと一緒です、ニーナ……」
「うぇ、えええええっ……うあああああっ」
離れていた時間を埋めるように。
心の傷を癒やすように。
ニーナとノキアさんは、互いをしっかりと抱きしめた。
泣いて、泣いて、泣いて……
感情を大きく揺らしつつ、互いを求め合う。
ようやく叶った母娘の再会。
その光景に、みんなも目を潤ませていた。
「……みんな」
「うん」
静かに合図をして、みんなは小さく頷いた。
今は、二人だけにさせてあげよう。
俺達は、もう一度、二人を見て……
そっと、リビングを後にした。