作品タイトル不明
486話 偽物と本物
「あら?」
ノキアさんがこちらに気がついた。
不思議そうにしつつ、歩いてきて……
「……ママ?」
ニーナの不思議そうな声。
最強種は薬に対する耐性もあるから、もう目が覚めたのだろう。
その声につられて振り返ると……
「あら?」
二人目のノキアさんが。
「ノキアさんが……二人?」
「え? え? これ、どういうことなんや?」
「どちらかが本物で、どちらかが偽物? いえ、しかし、心の世界とはいえ、本人が現れるなんていうこと、ありえるのでしょうか……?」
どういう状況なのかわからず、俺達は混乱してしまう。
「あの……これは、どういう状況なのでしょうか? 私、気がついたらここにいて……」
「それと、そこにいるのは私……ですね。どうして、私が二人もいるのでしょうか?」
幸いというべきか、二人のノキアさんは、こちらと敵対する意思はないらしい。
現実にいる時と変わらない様子で、オロオロとしている。
普通、もっと驚いてもよさそうなのだけど……
けっこうマイペースな性格をしているんだな。
こんな時だけど、ちょっとした親近感を覚えた。
「アルさん、こちらの状況は把握していますか?」
「うむ……まさか、ノキアが現れるとはのう。しかも、二人」
「これ……どちらかが本物でどちらかが偽物、という感じでしょうか?」
「そうじゃろうな。付け加えるのならば、偽物は、残りの楔が集まり作られたものじゃろう。つまり……」
「どちらが偽物か見極めて、倒せ……と?」
「うむ」
思わず舌打ちをしてしまいそうになる。
この悪趣味極まりない展開を用意したのは、間違いなくモナだろう。
状況を打破するためには、偽物とはいえ、ノキアさんを斬らないといけない。
失敗すれば最悪の事態に。
かといって、ためらい迷っていたら、時間切れで強制退去。
楔を排除することはできず、呪いを解くことはできない。
悪趣味ではあるが……
かなり良い策であると、認めざるをえない。
「あのクサレ外道魔族……次、出会ったら絶対にぶちのめす……泣かす、絶対泣かしたる……」
「わたくしが正義を語ることはできませんが……これは、さすがに気持ちのいいものではありませんわね。悪趣味ですわ」
ティナとイリスも眉をしかめていた。
みんな、モナが用意した展開に怒りを覚えている。
絶対に打ち破ってみせると、強い意思を見せている。
ただ、どのようにして突破すればいいのか。
絶対に失敗するわけにはいかないし、なによりも……
「あの……みなさん。これは、どういうことなのでしょうか?」
「なにが起きているのか……ひとまず、状況を教えていただけると助かるのですが」
どちらが本物でどちらが偽物だ?
見た目はまったく同じ。
性格も違いがあるとは思えない。
引っかけるような話題を持ち出して、偽物がミスするように誘導してみるか?
あるいは、本物しか知らないような話をしてみるか?
しかし、精密で細かい変身能力を持つモナが作り出した偽物だ。
もしかしたら、記憶を共有しているという可能性もある。
その場合は、正確な判断を下すことができない。
むしろ、こちらが早とちりをしてしまい、本物を手にかけてしまうという可能性も……
「くっ……」
「レインの旦那。なんかこう、お得意の非常識でなんとかならん……?」
「人を非常識の塊のように言われても……」
「それは事実なのでは?」
「イリスまで。っていうか、そんなことができるならいいんだけど……ごめん。今は、なにも思い浮かばない」
「くうううっ、あとちょっとっていうところやのに、めっちゃもどかしいねん!」
「絶対に失敗できないというのが厄介ですわね……プレッシャーとなり、思考の幅も狭めてしまいますし、焦りが思わぬ選択ミスを招いてしまうことも」
残り時間はまだある。
しかし、確実にこれが正しいという答えを出せるかどうか……
「ふぁ?」
俺達が苦悩する中、ニーナは不思議そうにしていた。
とても不思議そうにしていて、特に悩んでいる様子はない。
「みんな……なんで、悩んでいる、の?」
「それは、絶対に失敗するわけにはいかないから……」
「ふぁ?」
ニーナはとても不思議そうな顔をして、コテンと小首を傾げる。
その顔は、なんで悩むの? と言っているかのようだ。
悩んで当たり前だろう。
ノキアさんの安全がかかっている以上、絶対に失敗することはできない。
どちらが偽物で本物なのか、確信が持てず、悩んでしまうわけで……
いや、待てよ?
ニーナが話を理解していないということはないだろう。
それなのに、なんら迷う様子を見せていない。
それはつまり……
「もしかして、ニーナは、どっちのノキアさんが本物なのか、わかるのか?」
「わかる……よ?」
逆に、なんで俺達はわからないの?
そんなことを言いたそうに、ニーナは不思議そうにしていた。
「え? それ、マジなん? ウチら、まったくわからへんのやけど……」
「ちなみに、どちらが本物のノキアさんなのでしょうか?」
「こっちが……本物の、ママ」
ニーナは、後から現れたノキアさんの手を取る。
「どうして、そっちのノキアさんが本物だと?」
「ふぇ? だって……すぐに、わかる……よ」
「いや、その……なにか根拠はないのか?」
「んー……ない、よ?」
「ないのか……?」
「でも、わかる……よ。こっちが、ママ……わたしの、大事なママ」
ニーナは安心しきった様子で、本物だというノキアさんに体を寄せる。
そのまま、スリスリと頬を寄せて甘えた。
その顔は信頼であふれていて、疑念なんて欠片もない。
ああ、そうか……そういうことか。
なるほど、納得だ。
「よし、決まりだ。本物と偽物の区別はついた。さっさと終わらせてしまおう」
「え? い、いいん? なんの根拠もないのに……もしも間違えたら、とんでもないことになるんやで?」
「大丈夫さ」
ノキアさんを見るニーナの顔を見て、言う。
「ニーナは、ノキアさんの娘だ。子供が親を見分けられないはず、ないだろう?」