作品タイトル不明
485話 これが人の心なのでしょう?
どこからともなく光の球が飛んできて、パァンッ! と獣の頭を容赦なく撃ち抜いて、砕いた。
「えっ!?」
この展開は予想していなかったらしく、モナが動揺するような声をこぼす。
ただ、驚いているのはこちらも同じだ。
今のはティナがやったのだけど思うのだけど、どうしてここに?
「ふふっ、ニーナさんは返してもらいますわ」
「あっ!?」
八枚の翼を広げたイリスが天から舞い降りてきて、ニーナをモナから奪い返して、再び飛ぶ。
ナイスだ!
「レインさま、ニーナさんは取り戻しましたわ」
「ありがとう。そのまま、眠らせることはできないか?」
「可能ですが……?」
「モナに操られているんだ。このままだと……」
「なるほど。では……」
ジタバタと暴れるニーナを、イリスが抑え込む。
ニーナは最強種ではあるが、イリスはさらにその上を行く、天族というトップクラスの最強種だ。
力で叶うはずもなくて、おさえこまれてしまう。
「では、おやすみなさいませ」
「ふぁ……」
イリスはポケットからハンカチを取り出すと、なにやら、よくわからない液体を染み込ませてニーナの口元へ。
ほどなくして、ニーナがコテンと寝てしまう。
助かったには助かったのだけど……
「それ、睡眠薬か? なんでそんなものを持ち歩いているんだ?」
「隙があればレインさまに……いえ、なんでもありませんわ」
「……今は戦いの最中だから、聞かなかったことにしておくよ」
踏み込んだら怖い答えが返ってきそうなので、スルーすることにした。
「おうおうおうっ、うちのかわいいかわいいニーナになにしてくれてんのや!? あぁん!? いてこましたるぞ、われぇ!!!」
ティナが激怒していた。
言葉遣いも荒く、普段の飄々とした様がウソのようだ。
あまりにも激しく怒るものだから、俺の方の怒りが消えてしまう。
「っていうか、二人共、どうしてこっちへ? 楔を全て破壊したわけじゃないよな?」
「すまんやで。楔は、あれから二つ破壊しただけや」
「ただ、途中で妙な胸騒ぎがして、レインさまの様子を見に行ったほうがいい、という結論になりまして」
「そんなことを……どうして?」
「あら、これはレインさまに教わったことですわ」
「俺?」
「人の行動に理屈なんてない。以前、そうおっしゃっていたではありませんか」
「あ……」
「なので、わたくし達も己の心の赴くまま、行動したというわけですわ」
「結果、それで正解だったみたいやな。まさか、ニーナを人質にして、さらに操るなて……あのド腐れ外道魔族。しばいたるっ!!!」
ノキアさんを助けるという目的がある以上、二人の判断は褒められたものじゃないのかもしれない。
それでも、俺はうれしいと感じていた。
仲間としての確かな繋がりを覚えることができて……
胸が心がとても温かくなる。
「よし!」
パシンを自分の頬を叩いて気合を入れた。
「みんな、速攻でモナを倒すぞ! それから、残りの楔、全部破壊する!」
「「了解!!」」
俺達の気合は十分。
やる気もたっぷり。
さて……モナは、どう出る?
自分で言うのもなんだけど、今の俺達は、かなり厄介で敵に回したら恐ろしいぞ。
「あちゃー、まいったなあ。パーティーを分断させると思っていたんだけど、まさか、全員で立ち向かってくるなんて」
「覚悟してもらおうか」
「んー……よし、決めた。逃げようっと」
あっさりと言い、モナは一歩、後ろへ下がる。
「ここまでふざけたことしといて、逃げるんか!?」
「ティナさん、落ち着いてくださいな。罠かもしれません」
「安心していいよ。本当に逃げるだけだから。私、あまり戦闘得意じゃないからねー。レインくんだけならともかく、三人を真正面から相手にするなんてバカなことはしないってば」
「さて、どうでしょうか」
「そんなわけで、私はここでさようならさせてもらうね。ばいばい♪」
「来たれ、異界の炎」
「ティナちゃん大回転魔球!」
モナはにっこりと笑い、手を振る。
そんな仕草にイラッと来たらしく、イリスとティナが攻撃をしかけるものの……
一歩遅く、モナの姿は消えてしまう。
「ちっ、逃がしたか」
「ニーナさんが捕まっていなければ、問答無用で大規模破壊攻撃を叩き込めたのですが」
二人共、目が座っていた。
気持ちはわかるが、ちょっと怖い。
「ティナ、イリス。ありがとう。おかげで助かったよ。俺一人だったら、危ないところだった」
「仕方ないで。ニーナを人質にとられたら、どうしようもないもん」
「ですが、本当に退いたかどうか、怪しいところですわね。油断させておいて再び……という可能性もありますわ」
「いや、たぶんそれはないと思う」
一度、奇襲に失敗したら警戒されてしまう。
同じ轍を踏まないために、パーティーを分断することもしない。
そんな状態で、モナが再襲撃を企むとは思えない。
そこまでのバカではないだろう。
「じゃあ、後は楔を破壊するだけなん?」
「どうだろうな……」
撤退する時……
モナは、『私は』と言っていた。
深読みするのならば、他に敵を残しておいた、と聞こえなくもない。
「まだなにかあるかもしれない。最大限に警戒して、残りの楔を破壊しよう」
「わかりましたわ」
「まずは、ニーナの回復を待とうか」
十分ほどしたところでニーナが目を覚まして……
幸いにも洗脳は解けていた。
その後、残りの楔を破壊するため、すぐに出発したのだけど……
「……どういうことだ?」
楔があったと思われる場所に、楔はなかった。
根が張られていた跡はあるものの、巨大な木はない。
掘り返されたというよりは……
木に足が生えて、勝手にどこかへ歩いていった、という感じが近いだろうか?
「楔はどこへ行ったんや? まさか、逃げたん?」
「さすがにそれはないと思いますが……隠された、位置を移動させられた、などの小細工はされているかもしれませんわ」
「アルさん」
こういう時のアルさん頼み。
呼びかけてみるものの、しかし、反応はない。
「アルさん? 聞こえていないんですか?」
「聞こえて……いない、ね」
「どうしたんだ、突然。まさか……妨害でもされているのか?」
「だとしたら、イヤな予感しかしませんわね」
なにが起きている?
あるいは、なにが起きようとしている?
俺達は最大限に警戒をして、周囲に注意を払う。
「あっ」
ふと、ニーナが小さな声をこぼす。
その視線の先を追うと……
「……ノキアさん?」
ノキアさんの姿があった。