作品タイトル不明
482話 人質
気がつけば、ニーナは見知らぬ場所にいた。
心の中に入るなんて初めてのことなので、どこも見知らぬ場所なのだけど……
ただ、レインがいない。
仲間達がいない。
そのことが、彼女を怯えさせる。
「やあやあ」
「っ!?」
振り返るとモナの姿が。
ニーナは反射的に身構える。
三本のもこもこ尻尾を逆立てて、キッと強く睨みつける。
「これ、は……あなたの、仕業?」
「うん、そういうことかな。キミは人質、っていうわけ」
「そんなこと、には……ならない、の!」
一人になったニーナは怯えていたものの、しかし、心を奮い立たせる。
モナは敵。
大好きな母親に呪いをかけた、憎い敵。
ならば、自分の手で決着をつけよう。
「んっ!」
ニーナは亜空間に繋がる道を開いて……
なんと、自らその中に飛び込んだ。
「へ?」
さすがに、これはモナも予想外だったらしい。
ぽかんと、間の抜けた顔を見せる。
そんな彼女の後ろに亜空間に繋がり穴が開いて、
「えいっ」
「おわ!?」
亜空間の中に飛び込んで、モナの後ろに転移。
そして、不意打ち。
かなり大胆な攻撃だ。
モナは驚いて、避けることしかできない。
「んんんぅ!」
ニーナは、さらに複数の亜空間の穴を開いた。
そこに、手頃な石を全力で放り投げて……
「あいたたた!?」
モナの周囲に複数の亜空間の穴が繋がり、そこから石が飛び出してきた。
ニーナは幼いが、しかし、最強種だ。
その能力は、すでにかなりの域に達している。
ただ単に石を投げただけでも、かなりの威力になっていた。
「ちょ、これ、洒落になってないから!? いたっ、この子、めっちゃ凶暴じゃん!」
「ママにひどいこと、したの……許さないっ」
「あーもう、手癖の悪い人質だなあ」
ニーナの思わぬ戦闘力に驚くモナだけど、しかし、その顔に焦りはない。
むしろ、余裕すら見えた。
「暴れるなら、ちょっとは覚悟してもらうよん」
「っ!?」
モナがニヤリと笑う。
その笑みは、たっぷりの悪意で満たされていた。
白い紙を黒ペンで乱雑に塗りつぶすかのような……
見ているだけで寒気を覚えるような、そんな歪んだ感情。
レインと一緒に旅をすることで、幼いながらも、それなりの修羅場を潜り抜けてきたニーナではあるが……
それでも、思わず足を止めてしまうほどに恐ろしいものがあった。
「じゃあ、おとなしくしてもらおうかな?」
「あ……う」
――――――――――
「……そうか、ニーナは見つからないか」
使役した人形の報告を待ち……
しかし、結果は空振りに終わる。
かなりの広範囲を捜索させたはずなのだけど、ニーナを見つけることはできなかった。
「レインの旦那、大丈夫?」
「ティナ……ああ、大丈夫だ。心配してくれてありがとう」
本当はかなり焦っていたのだけど……
でも、ティナに声をかけられて、少し落ち着くことができた。
こういう時こそ、慌てず、冷静に物事を進めなければならない。
ニーナを取り返して……
それで、ノキアさんの呪いも、きっちりと解除しないと。
楔は、残り十から二十。
それだけではなくて、ニーナも取り返さないといけない。
色々な問題が浮上してきて、頭が痛い。
「って……そういえば、アルさん」
「なんじゃ?」
「時間切れになった時、俺達、心の世界から弾き出される感じになるんですか?」
「うむ、そうじゃの。ただ、それだとショックが大きいから、できれば妾が術を使い引き上げたいところじゃが」
「なるほど」
そうなると、時間切れを待つわけにもいかないか。
なにも影響がないのなら、今回は見送り、万全の準備を整えた上で再チャレンジという方法もあるのではないか? と思ったのだけど……
なかなかどうして。
簡単にはいかないみたいだ。
「レインさま、どういたしますか?」
「……」
考えて……一つの答えに辿り着いた。
最適解なのかどうか、それはわからない。
ただ、こうして考えている時間も惜しい。
今は、とにもかくにも動くしかないか。
「二手に分かれよう。俺がニーナを助けに行くから、ティナとイリスは、このまま楔の破壊を頼む」
「それ……危ないんやない? ウチらは、まあ、なんとかなると思うけど……」
「レインさまは、単独で魔族に立ち向かうことになります。しかも、ニーナさんを人質にされた状態で」
「でも、これが最善だ。もちろん、他により良い方法があるのかもしれない。なにかあるのなら、教えてほしい。ただ、時間が限られているから……難しい場合は、これでいかせてほしい」
「それは……まったく。己の身を省みないところはレインさまらしいといえますが、しかし、それでこんなにももどかしい思いをさせられるなんて」
「レインの旦那、無茶は絶対にアカンで? ニーナを助けることは大事やけど、レインの旦那を心配する子はたくさんいるっていうこと、忘れたらあかんよ」
「わかっているよ、十分に気をつける」
「お気をつけて」