作品タイトル不明
480話 一つではないのじゃ
「ティナのおかげで楔を破壊できたが……」
「あんま、変化はないなー」
周囲の光景は変わらず、暗いまま。
心の中ということを考えると、まだ呪いは解けていないのだろう。
「アルさん、聞こえますか?」
「うむ、聞こえているぞ」
「楔を破壊したんですけど、でも、特に変化はないんですけど……」
「当然じゃ。たった一つ、楔を破壊したところで大きな変化はないぞ」
「たった一つ……?」
そんな言い回しをするということは、
「えっ、楔って一つだけじゃないん?」
「せやでー」
「ウチの口調がパクられた!?」
たまに茶目っ気を見せるアルさんだった。
「呪いの進行具合によって、楔の数は変動するのじゃ。初期段階ならば数本。末期状態なら百くらいじゃろうか?」
「ひゃ……!?」
ティナがひっくり返るような声をこぼす。
「ノキアさんの場合はどうなるんです?」
「うーむ……ハッキリとは言えんのじゃが、初期段階ではないのう。かといって、末期というわけでもない。中間の浅い方……三十から四十というところではないか?」
「それはまた、なんというか……」
楔を一本、破壊するだけでそこそこ苦労したのだけど……
最低でも、あと三十回は繰り返さないといけないなんて。
「って、いけないいけない」
楔が何本あろうと構わない。
三十だろうが百だろうが千だろうが、全て叩き壊してみせる。
そして、ノキアさんを助けるんだ。
「わかりました。全部破壊すればいいんですね?」
「今の話を聞いて怯まないとは、すさまじいのう……」
「絶対に助けると誓いましたから」
そして、ニーナの心からの笑顔を見るのだ。
そんな最高の報酬のためなら、いくらでもがんばることができる。
「ただ、全部ティナを頼りにする、っていうわけにはいかないか」
「さ、さすがに堪忍して……そんなことしたら、ウチ、死んでまう……」
「すでに死んでいるのではありませんか?」
「そういうツッコミは野暮やで。まあ、休み休みならいけると思うで」
なんだかんだで、ティナも退くつもりはないらしく、意気込みを見せていた。
「あー、それなんじゃが」
「なんですか?」
「心の中に入っていられる時間は、半日といったところじゃ」
「えっ!?」
後出しでそういう情報を出さないでほしい。
「心の中に入るのは、入る方も入られる方も、どちらも負担が大きいのじゃ。害を及ぼすことなく安全を確保するには、半日くらいが限度なのじゃ」
「そういうことなら仕方ないですが……しかし、半日ですか」
すでに一時間ほどが経過している。
その中で、除去できた楔は一つだけ。
残り十一時間で、最低でも二十九の楔を取り除かないといけないのだけど……
「さすがに、それは厳しいですわね」
「残りの楔の場所をすぐに見つけて、でもって、簡単に短時間で取り除ける方法を探す……なんや、これ。かなりの無茶やない?」
「……でも、がんばる」
とても強い顔をして、ニーナが言う。
今まで見たことがないような凛々しい顔をしていて、やる気をみなぎらせていた。
「わたし、が……ママを、助ける……の!」
「……せやな」
ティナが優しい顔になり、ニーナの頭を撫でる。
触れることはできないのだけど、それでも、ニーナはうれしそうな顔に。
「んぅ」
「ウチらががんばらんと、ニーナのおかんが大変なことになるんや。なら、多少の無茶はやってみせるで!」
「やれやれ、多少ではないと思うのですが……ふふっ、反対はいたしませんわ」
「そうだな、がんばろう」
とはいえ、やる気だけで全てが解決するほど、世の中は甘くない。
残り十一時間で、全ての楔を撤去する方法を導き出さないと。
単純計算で、一時間で三つの楔を除去しなければいけない。
撤去する方法もそうだけど、探し出す方法も難しい。
「……」
考えて、考えて、考える。
そして、ふと閃いた。
「これなら……いけるか?」
撤去する方法、探し出す方法。
その二つを思いついた。
ただ、頭の中の理論。
実際に試したわけではないので、うまくいくかどうかわからない。
「……ダメなら、また考えればいいか。今はまず、一歩でも前に進まないと」
「レインの旦那、なにか思いついたん?」
「試してみたいことがある。まずは、次の楔を見つけよう」
――――――――――
それから十分ほどで次の楔を見つけて……
思いついたアイディアをすぐに実行した。
「「「……」」」
みんなが唖然としている。
「よし、散れ! そして、楔を探し出すんだ!」
楔から次々と人形が溢れ出してくるのだけど……
俺は、その全てをテイムしてみせた。
そうして支配下に置いた後、心の世界を探索させて、楔を探させる。
これならば、楔をスムーズに見つけ出すことができるだろう。
そして撤去する方法は……
「ひとまず、人形はこれくらいでいいか。なら、後は楔だな……重力反転!」
楔にかかる重力を反転させた。
ミシミシと根っこが悲鳴をあげて……
ややあって、巨大な木が宙に浮かび上がる。
能力を解除。
大木が地面に倒れた。
すると、時間を高速で再生しているかのように、みるみるうちに大木が枯れていく。
楔が心に根を張ることでエネルギーを得ているのなら、強引な話ではあるが、引っこ抜いてしまえばいい。
そうすれば、すぐに枯れてしまうだろう。
そう思い、実行したのだけど、うまくいったみたいだ。
「あのような大木を雑草感覚で引き抜いてしまうなんて……その発想力と行動力、とんでもありませんわね。わたくし、改めて、レインさまと戦ったことを後悔していますわ」
「褒め言葉と受け取っておくよ」