作品タイトル不明
479話 楔を破壊しろ
「あれだけの攻撃を受けて、傷一つないなんて……厄介だな」
「それだけじゃ、ない……よ?」
楔の表面が波打つ。
木の枝が生えるかのように、人形の手足が飛び出してきた。
やがて、新しい人形が姿を見せる。
一体、二体、三体……次々と増殖していく。
「なるほど。人形の生産地は楔、というわけですのね」
「楔をなんとかしない限り、ウチら、延々と戦わないといけないっていうわけか。どないする、レインの旦那?」
カムイがあればよかったのだけど、あいにく、完全に壊れてしまった。
「このメンバーで、イリス以上の火力を出すとなると……うーん、なかなか難しいな」
となると、絡め手で攻めるしかないか?
純粋な火力ではなくて、別の角度からの攻略法を見つけるしかない。
その方法は……
「ニーナ。空間転移の出口を、楔の中に設定できないか?」
迫る人形を蹴散らしつつ、ニーナに尋ねる。
人形を亜空間の中に放り込みながら、ニーナが考えて……
少しして、首を横に振る。
「難しい、かも……今のわたしだと、そこまで……ごめん、なさい」
「謝ることじゃないさ。気にしない気にしない」
「んぅ」
ニーナの頭を撫でると、うれしそうに尻尾が揺れた。
「あっ、そっか。そういう方法で行けばええんやな?」
「なにか名案が?」
「ふっふーん、ウチに任せとき。レインの旦那達は、人形をどうにかしてくれへん? このままやと、ちょっと近づきにくいからな」
「了解だ」
「なら、ここはわたくしの出番ですわね」
イリスが妖艶に笑い、一歩、前に出た。
「来たれ、異界の炎」
何十という炎弾が召喚されて、人形達に食らいついた。
豪炎、爆発、粉塵。
天族の圧倒的な力の前に抗う術はなく、人形達は全て粉砕された。
ただ、増援は止まらない。
全てを倒しても、楔からの援軍が止まることはなくて、次々と現れる。
やはり、楔をなんとかしないと意味がないようだ。
「なら、ここはティナに任せて……こっちへ来い、人形共! ファイヤーボール・マルチショット!」
「……えいっ」
「ふふっ」
俺達はあえて人形の群れに接近して、そして、派手に暴れてみせた。
脅威を感じたのか。
あるいは、煩わしいと苛立ったのか。
人形達の敵意がこちらへ向いて、一斉に襲いかかってくる。
一体一体の力は大したことないのだけど……
同時に五体くらい襲いかかってくるため、なかなかに対処が難しい。
しかも、ほぼほぼ捨て身の特攻だ。
命を気にすることのない敵というのは、とても恐ろしい。
「ティナ、悪いが急いでくれ!」
「ラジャーやで!」
ティナは回り込むようにして楔に近づいていく。
幸いというか、今のところ、人形達には気づかれていない。
そのまま、さらに楔に接近して……
「これで、どや!?」
スルッと、ティナが楔の中に潜り込んだ。
幽霊だからこそできる芸当だ。
しかし、楔の中に潜り込んでどうするつもりなのだろう?
不思議に思いつつ、人形を撃退していると……
ドグッ!
楔の方から妙な音が聞こえてきた。
砂を詰めた袋で殴りつけたかのような、そんな鈍い音。
ドゴッ!
ボガッ!
ゴグッ!
鈍い音が連続して響いた。
全て、楔から響いてくる。
いったい、なにが起きているのだろう?
不思議に思っていると、さきほどまで暴れていた人形達が一斉に動きを止めた。
そのまま、糸が切れた操り人形のように地面に転がる。
ボグンッ!!!
一際大きな音が響いて……
ピシピシピシと楔にヒビが入る。
そして、根本から折れた。
「おぉ!?」
イリスの攻撃にさえ耐えた楔が、あんな風になってしまうなんて……
ティナの仕業だと思うのだけど、いったい、どうやったのだろう?
不思議に思っていると、楔の中からティナが出てきた。
そのまま、ふわふわと浮いてこちらに戻ってくる。
「ただいまやでー」
「おかえり。怪我はしていないか?」
「大丈夫やで。ピンピンしとる!」
「それにしても、いったい、どうやって楔を壊したのですか? わたくしの攻撃にも耐えるほどに頑丈なのですが……」
「せやな。でも、中は案外脆いで」
「中?」
「楔に取り憑いて、あちらこちらで悪さしたんや。そしたら、けっこう簡単に折ることができたでー」
「それは、また……」
イリスが顔を引きつらせていた。
その気持ちはよくわかる。
他者に取り憑いて、内部から破壊してしまうなんて……
ある意味で、最強ではないか?
ティナのヤツ、いつの間にこんな力を?
「ふふーん、やればできる子、万能メイドのティナちゃんに不可能はないでー!」
ティナは得意そうに胸を張るのだった。