作品タイトル不明
478話 歪な守護者
その人影に目はない。
鼻もない、口もない。
人の形をしているものの、それだけ。
人と認識するに必要な器官がいくらか欠落しており、まるで、人形の素体だ。
一体ではなくて、複数。
人形がゆっくりとこちらに近づいてきた。
「なんや、あれ? けったいな格好しとるな」
「あれは、心の守護者じゃな」
「心の守護者?」
「自己防衛本能みたいなものじゃ。今は、お主らは異物じゃからのう。排除しようとしているのかもしれぬが……ふむ? それにしては、やけに歪じゃな? 心の守護者は主を反映するから、あのような形になるはずがないのじゃが……」
「でしたら、こちらも呪いの影響なのかもしれませんわね」
「ふむ、その可能性が高いな」
「倒してしまってもよろしいのですか?」
「問題ないのじゃ。むしろ、侵食されている以上、アレも呪いの一部といえる。全て破壊するのじゃ!」
「がん、ばる」
ノキアさんを治すため、ニーナがやる気を見せる。
迫りくる人形に手の平を向けて……
「来たれ、異界の炎」
それよりも先に、イリスの攻撃が炸裂した。
強烈な火力を誇る炎が無数に召喚されて、人形に着弾。
ゴォッ! と爆裂した。
「……」
人形達は抵抗する間もなく、逃げることもできず、全て掃討された。
「うぅ……」
「どうしましたの?」
ニーナから恨みがましい視線を受けて、イリスがたじろいだ。
「イリス……今のはないと思うで」
「俺もそう思う」
「わたし……がんばり、たかった……のに」
「ど、どうしてわたくしが責められないといけないのですか?」
もう少し空気を読んでほしい。
まあ、今まで一人で好きに生きてきたから、その辺りは苦手なのだろう。
意外と言えば意外な発見だ。
「それにしても……イリス、本当に力が落ちているのか? とてもそんな風には見えないんだけど」
「今のは普通の攻撃ですもの。あれくらいならば、今のわたくしでも、なんら問題はありません。もう一人のわたくしを召喚したり、任意の覚醒は厳しいですが……」
力が落ちて、なおこれだけの力を持っているのか。
とんでもないな。
これは……負けていられないな。
彼女一人に負担をかけることがないように、俺達もがんばらないと。
「ティナ、他に敵は?」
「えっと……たぶん、おらんで。って言っても、ウチが確認できるのは周囲百メートルくらいやから、それ以上はなんとも言えんけど」
ふわりと高く飛んでもらい、周囲を確認してもらう。
動物などをテイムできないから、ティナに頼るのが一番だ。
「アルさん。楔の場所を調べる方法とかは知らないんですか?」
「さすがに、そこまではのう……心の世界は人の数だけある。どのようになっていて、どこになにがあるかなんて、さすがにわからないのじゃ。ただ、楔は呪いの一部であるため、魔力反応があるはずじゃ。それを追え」
「なるほど」
問題は、どのようにして魔力反応を探すか、ということだけど……
「……レイン」
「うん? どうしたんだ、ニーナ」
「わたし、に……任せて」
「わかるのか?」
「ん。わたし、も……負けて、いられないよ?」
ちらりとイリスを見つつ、ニーナは力強く言う。
ちょっとした対抗心。
それと、俺と同じく、イリスだけに負担をかけるわけにはいかないという気遣い。
その両方の気持ちが見て取れた。
「じゃあ、頼めるか?」
「ん!」
反射的に頭をぽんぽんとやると、ニーナは三本の尻尾を忙しなく動かした。
頼りにされてうれしいみたいだ。
「んー……」
ニーナは目を閉じて、なにか集中する。
ニーナは亜空間を操ることができる。
その際、魔力の流れを感知しているようだから……
なるほど。
確かに、彼女なら楔の在り処を突き止めることができるかもしれない。
「こっち……かな?」
ややあって、ニーナが東の方へ歩き出した。
彼女を先頭にして、みんなが後に続く。
もちろん、いつ人形の襲撃を受けてもいいように警戒はしておいた。
「あれは……」
十分ほど歩いたところで、異質な物体が見えてきた。
見上げるほどに巨大な木だ。
ただ、その幹もその枝もその葉も、全てが黒い。
夜の闇を凝縮したかのように、影を塗りたくられたかのように。
なにもかもが黒い巨木だった。
その周囲に、さきほどとは比較にならない数の人形が集まっている。
俺達にすでに気づいているだろうが、向こうから襲いかかってくる様子はない。
おそらく、巨木を守っているのだろう。
「もしかして、あれが……」
「うむ。黒の祝福の欠片……楔じゃな」
巨大な大木。
百に届きそうなほどの人形の群れ。
これは厄介だな。
「楔についての詳しい情報は、妾も知らぬ。寄生された者によって性質を変えるという、非常に腹立たしい性質をもっていてのう……気をつけるのじゃ」
「了解です」
「ひとまず、周囲の有象無象を吹き飛ばしませんか? あのような邪魔者がいたら、満足に楔を調べることができませんわ」
「そうだな。けっこう骨が折れそうだけど、確実に進める方が大事か」
「いえ、みなさんは周囲を警戒してくださいませ。有象無象の掃除は、わたくしがやりますわ」
そう言って、イリスは八枚の翼を大きく広げた。
その攻撃体勢、見覚えがある。
「ちょっと待った、いきなり……」
「来たれ、終焉の白撃」
瞬間、世界が白に染まる。
広範囲に超威力の魔力波を叩きつけるという、イリスの必殺技が炸裂した。
ガァアアア! と耳を裂くような轟音が響いた。
さらに、地震が起きたかのように大地も揺れる。
これで百パーセントの力を発揮できないというのだから、イリスは、いったいどれだけの力を持っているのやら。
俺、よくイリスに勝てたよな。
ちょっと自分で自分のことを褒めてやりたい。
「ふぅ」
ややあって、破壊の光が消えた。
大地に刻まれた深い亀裂。
人形の群れの大半は消し飛び、欠片も残っていない。
しかし……楔だけは、なにごともなかったかのように、傷一つつくことなく、その場に悠然と佇んでいた。