作品タイトル不明
477話 心の世界
リビングに簡易ベッドを五つ作り、そこに、俺、ニーナ、ティナ、イリス、ノキアさんの順に並んで寝る。
心の中に入るためには、近くで寝る必要があるらしい。
「にゃー、これで準備完了かな?」
「レイン達が異様に苦しそうにしたら、あたしらは叩き起こせばいいのね?」
「うむ。その時は、失敗じゃ。数日は寝込むかもしれないが、最悪の事態は避けられるじゃろう」
「大丈夫、そんなことにはなりませんよ」
「ほう? 自信たっぷりに言うのじゃな。それほどまでに、己の力に自信があると?」
「俺というか、ニーナですね」
「ふぇ?」
母親のために体を張ろうとする娘がいる。
そんな想いに応えてくれないほど、世界は残酷ではないはずだ。
だから、きっとうまくいく。
「よし。では、お主ら、寝るのじゃ」
「いきなり寝ろ、と言われても……」
「まだ昼やからなー。ちとむずいで?」
「寝ないとダメなんですか?」
「意識を失うでも構わないのじゃ。意識と心を無にすることで、対象の心とリンク。その魂と無意識領域の展開を……あー、小難しい話は避けるが、とにかく寝ていても気絶でも、意識がないのならなんでもいいぞ」
「ふむ」
ルナがニヤリと笑う。
気のせいだろうか?
その笑みは、とても凶暴なものに見えた。
「では、我が姉の料理を食すがよい」
「「「えっ!?」」」
ルナのとんでもない提案に、俺とニーナとティナが顔を青くした。
一方で、事情を知らないイリスとノキアさんは、不思議そうに小首を傾げる。
「あの……どうして、料理を食べないといけないのでしょうか?」
「そのようなことをしたら、ますます目が覚めてしまいそうですわ」
「ところがどっこい。我が姉の料理は、一口で象も撃沈……ではなくて、快眠させるほどの出来なのだ。我が保証するぞ」
「あら、それは楽しみですわね」
お願いだから興味を持たないで!?
「では、我が姉よ。さっそく料理を……」
「こんなこともあろうかと、すでに用意してあります」
「お、おおぅ……こんな事態を想定する我が姉、恐ろしいのだ」
ソラが料理を配る。
相変わらず、見た目はとてもおいしそうだ。
香りもとても良い。
でも……
「あら、とてもおいしそうな料理ですわね」
「イリス!? まった、早まったら……」
「いただきます、ですわ」
ぱくり、とイリスがソラの料理を食べて、
「……」
サーっと顔を青くして、そのまま、バタリと簡易ベッドに倒れた。
――――――――――
「うっ……ここは?」
気がつけば、見知らぬ平原に倒れていた。
体を起こして、周囲を見回す。
「見たことのない場所だな……というか、おかしいな?」
蜃気楼のように、遠くの景色が揺らいでいる。
空も青ではなくて、紫と赤の間を行き来していた。
なんで、俺はこんなところに?
前後の記憶が曖昧なのだけど……
「えっと……あ、そうか。俺、ソラの料理を食べて、それでノキアさんの心の中に」
ということは、ここはノキアさんの心の中なのだろうか?
でも……
ソラの料理を食べたから、もしかしたら、あの世という可能性も?
「あっ……レイン」
極めて失礼なことを考えていると、ニーナの声がした。
振り返ると、トテトテとニーナが駆けてくる。
その隣に、幽霊バージョンのティナと、どこかげっそりした様子のイリスもいた。
「よかった。みんながいるっていうことは、ここは、ノキアさんの心の中で間違いなさそうだな」
「せやな。目が覚めたらウチ一人やったから、あの世かと勘違いしたで」
「わたくしは、あの世以外の可能性に思い至りませんでしたわ……ソラさんのあの料理はなんですの? 甘くて辛くてしょっぱくて酸っぱくて……そのうち、舌が痺れてきて、それが全身に回り、思考がおもいきりかき乱されて……本当になんですの? 最強種であるわたくしには、それなりの毒耐性があるはずなのですが、まったくの無意味でしたわ」
「あ、あはは……」
もはや苦笑するしかない。
「イリス……ソラの料理は兵器なんや」
「食べ物じゃ、ない……よ?」
あのニーナにここまで言わせてしまうなんて……
ソラは、なんて罪深いものを作るのだろうか?
「やれやれ、ですわ……まあ、ひとまずは成功したみたいですわね」
「だな」
「ここが……ママの、心の中……」
ニーナが感慨深そうにつぶやいた。
キョロキョロと周囲を見て、あちらこちらに視線を走らせている。
「どこに、行けば……いいの、かな?」
「心の中に入ったら、アルさんがサポートしてくれる、って言ってたが……」
「レインさま、それはなんですの?」
「え?」
気がつけば、俺はぬいぐるみを手にしていた。
どことなくアルさんに似た、手の平サイズのぬいぐるみだ。
「あーあー……テステス。妾の声が聞こえておるか?」
突然、ぬいぐるみから声が。
「え? どうして、アルさんの声が……」
「妾が魔法をかけたからな。妾だけなら、そちらに声を届けることができるのじゃ」
「なるほど、そうしてサポートをしてくれるんですね」
「うむ、そういうわけなのじゃ」
ぬいぐるみが胸を張る。
どうやら、人形バージョンのティナと同じように、ある程度自由に動かすことができるみたいだ。
「なあなあ、ウチらはどうすればええの?」
「楔を見つけるのじゃ」
「楔?」
「黒の祝福は、対象の心に呪いの楔を打ち込む。それを見つけ出して、破壊するのじゃ。さすれば、呪いは解けるじゃろう」
「なるほど……思っていたよりもシンプルな話ですね。これなら……」
「そうそう甘い話ではなさそうですわ」
イリスが緊張感のある声でそう言って、構えた。
その視線の先に、人影が見えた。