作品タイトル不明
474話 裏切りの精霊族
今、アルさんはモナと言ったか?
モナと言えば、ショコラに化けてスパイ活動を行っていたヤツだ。
魔族だと思っていたのだけど、本当は精霊族なのだろうか?
色々な疑問と驚きが出てくるものの、今はアルさんが話をしている最中なので、ひとまず口を閉じて、質問は後にする。
「モナも、妾と同じ精霊族じゃ。長い時を生きる者で、そうじゃな……妾の一番の友人であった」
「む? 母上に友達なんていたのか? ずっとぼっちだと思っていたぞ」
「意外な事実ですね。母さんの友達になるなんて、よほど奇特な方なのでしょう」
「そこ、黙るのじゃ!」
「「はぐっ!?」」
魔法でおしおきされて、ソラとルナは揃ってひっくり返ってソファーから落ちた。
余計な口を挟むと、こうなるからアルさんは恐ろしい……
「妾とモナは、俗に言う幼馴染でな。一緒に遊び、一緒に学んだものじゃ。懐かしいのう……」
「どうして、そのモナ……さんは、禁忌指定遺物を盗んだんですか?」
アルさんは難しい顔で首を横に振る。
「わからぬ。あやつがなにを考えて、今、なにをしているのか……そして、なぜノキアに呪いをかけたのか。なにを考えておるのか、さっぱりわからぬよ。妾は幼馴染なのに、あやつのことをなにも知らんかった、ということじゃ。情けない話じゃのう……」
遠くを見て、寂しそうに切なそうに言う。
アルさんは、きっと、モナのことをとても大事に想っていたのだろう。
それなのに、なに一つ彼女のことを理解できず、できないまま離れ離れになってしまい……
そのことを後悔しているのかもしれない。
心の傷になっているのかもしれない。
ともすれば、アルさんは泣いているかのように見えた。
「っと……すまんのう。しんみりとさせてしもうた」
「いえ、気にしないでください。それよりも……その、続きを聞いてもいいですか? アルさんにとって、辛いことなのはわかるんですけど、でも、ノキアさんのために……」
「気遣い無用じゃ。確かに、モナは大事な友人であった。しかし、今は裏切りもので……それに、ノキアも大事な友人である。そのためならば、なんでも話をしよう」
「ありがとうございます」
小さく見えて、たまにふざけているようにしか見えないもののの……
やっぱり、アルさんは大人だ。
長い年月を生きてきた者しか持つことができない、風格と心を持っている。
俺は、とてもこんな領域に至ることはできない。
でも、いつかは……と思う。
「モナが、なぜ禁忌指定遺物……黒の祝福を盗んだのか、それはわからぬ。その前後に、モナの妹が事故によって亡くなっていたが、もしかしたら、それが関係あるかもしれぬ。まあ……推測をすることしかできぬため、真偽を確かめるためには、ヤツに話を聞かねばならぬけどな」
「質問いいですか?」
「うむ、構わぬぞ」
「そのモナ……さんについてですが」
「モナ、と呼び捨てでよいぞ。ヤツは裏切り者ゆえ、妾に気をつかう必要はない」
「……モナについてですが、なにか特殊な能力を持っていた、という事実はありますか? 例えば、他人になりすます能力とか?」
「むん? そのような能力は持ってないぞ。あやつは精霊族じゃから、魔法は得意じゃが……ふーむ。まあ、変身魔法はあるから、なりすますことは可能か?」
「その変身魔法は、どれくらいの精度なんですか?」
「姿形はそっくりに真似できるな。じゃが、声は難しいな。声も変えるとなると、二つの魔法を同時に使うことになる。なかなかできぬことじゃよ。しかし、なぜそんなことを聞く?」
「実は……」
ショコラに化けたスパイがいたこと。
その魔族がモナと名乗ったこと。
そのことを説明した。
「ただの偶然、ということもありますが……」
「いや、それはないじゃろう。レインから聞いた特徴は、モナのものと一致しておる。そこまで都合の良い偶然なんて考えられぬ。お主が出会った魔族は、モナと考えるのが妥当じゃろうな」
「それじゃあ……精霊族が魔族になった、っていうこと?」
カナデが唖然とした様子で言う。
驚く気持ちはよくわかる。
最強種が魔族になってしまうなんて……
その経緯も気になるが、脅威度はもっと気になる。
いったい、どれだけの力を身に着けているのか?
なにを目的としているのか?
イヤな想像しか思い浮かばない。
「どちらにしても、モナは後回しじゃな。ヤツは、妾達精霊族も追い続けているが、まともな手がかりを掴むことができておらぬ。モナを捕まえて、ノキアにかけた呪いを解除する、というのは現実的な話ではないじゃろう」
「なら、別の方法を選ぶしかないわけですね。その方法について、アルさんはなにか知っているんですね?」
「……なぜそう思う?」
「でなければ、ここまでの話はしないでしょう」
「むう……この男、こういう時だけ察しがいいのじゃな。妾の娘達の想いにはまったく……」
「か、かかか、母さん! いきなりなにを言うのですか!?」
「というか、なんで知っているのだ!?」
「母の力じゃ」
よくわからないことで、三人が揉めていた。
「えっと……それで、ノキアさんの呪いを解除する、別の方法について教えてもらえませんか? たぶん、アルさんにとってあまり好ましくないことなんでしょうけど……」
「それをわかっておきながら、尋ねてくるか」
「ノキアさんのため。そして、ニーナのためなので」
まっすぐにアルさんを見つめる。
同じく、アルさんもこちらを見た。
視線と視線がぶつかる。
彼女の視線は圧が強く、ともすれば逸らしてしまいそうになる。
でも、それはダメだ。
こちらの決意を示すように、より強く、より決意を固めて見つめ返す。
ややあって、折れたという感じで、アルさんがため息をこぼす。
「やれやれ……仕方ないのう」
「じゃあ……」
「妾の知っていること、全て教えよう。しかし、険しい道じゃぞ?」
「覚悟しています」
「なら、これ以上余計なことを言うのはやめておくか……まったく。やれやれじゃ」
そんなことを言いながらも、アルさんは小さな笑みを浮かべている。
俺ならどこまでも食い下がると思っていたのかもしれない。
そして、その予想通りの展開となり、気分を良くしているのかもしれない。
「結論から言うと……基本的に、黒の祝福の呪いを解除することはできん」
「えっ」
なにかあるだろうと思っていただけに、その言葉は衝撃的だった。
ノキアさんが落ち込み、ニーナが泣きそうな顔になる。
それを見たアルさんが、慌てて次の言葉を口にする。
「ま、待て。まだ結論は言っておらぬぞ」
「話を遠回りするのは、母上の悪い癖なのだ」
「反省してくださいね」
「ぐぬ……す、すまんかったのじゃ」
娘二人のジト目を受けて、アルさんはバツが悪そうな顔で頭を下げた。
本人としては、もったいぶるつもりはなかったのだろうけど……
今のような会話が癖になっているのだろう。
「基本的にと言ったのは、解呪の魔法や魔道具が存在しないということじゃ」
「危険なアイテムがあることを知ってたのに、なんの対策もしなかったん?」
ティナのもっともな指摘に、アルさんが焦る。
「し、しようとしていたのじゃぞ!? 黒の祝福の研究をして、解呪用の魔道具、あるいは魔法を開発しようとしていたのじゃ。実際に、途中まで進んでおった。しかし……」
「ははーん、なるほどなー。その途中で盗まれてしまったんやな? で、黒の祝福がなくなったせいで研究もできなくなり頓挫……っちゅーところやな」
「うむ、正解じゃ」
「じゃあじゃあ、黒の祝福を取り戻して、また研究すればいいんだね!」
「でも、それを持っているモナを見つける方法がないのではないか?」
「にゃー……難しいね」
本人の気持ちを表現するかのように、カナデの尻尾がへなへなと垂れ下がる。
「慌てるでない。基本的に、と言ったものの、可能性、方法がゼロというわけではない」
「なにか方法が?」
「うむ。幸いというべきか、ノキアが受けた被害は記憶じゃ。心に関する治療をすればいい。その方法というのが……ノキアの心に入る、ということじゃ!」