作品タイトル不明
473話 禁忌指定遺物
「久しぶり……というわけでもないか。うむ。元気にしていたか、娘達よ」
「むう……母上は、いつも唐突に現れるのだ。おかげで、悪口もロクに言えないではないか」
「そもそも、悪口を言わなければいいだけの話なのですが……それはともかく。こんにちは、母さん。ソラは、問題なく過ごしていますよ」
「うむ、うむ。元気そうでなによりじゃ。そして……」
アルさんがノキアさんを見る。
「こちらは、久しぶりじゃのう。元気にしていたか、ノキアよ?」
「えっと……?」
アルさんが親しそうに話しかけるものの、ノキアさんの反応は鈍い。
どう答えていいかわからない様子で、戸惑っていた。
っていうか、今のやりとり……
「もしかしてアルさんは、ノキアさんと知り合いなんですか?」
「うむ。俗に言う、まぶだち、というヤツじゃな」
だから、どこでそんな言葉を覚えてきたのか。
「母上とニーナの母上が友達……むむむ。これはまた、意外な事実なのだ」
「母さんの交友範囲は、どうなっているのでしょうか……?」
長く生きているから、色々な交流があるのだろうけど……
それにしては、色々と限定されているような気がする。
なにかしら意図があるのだろうか?
一度、じっくりと話を聞いてみたいところだけど……
でも、今は別に優先することがある。
「アルさん。そういうことなら、話は早いです。実は今、ノキアさんは……」
闇の呪いを受けていること。
なにもかも忘れてしまっていること。
フォンさんに保護されて、一緒に行動していること。
それらのことを説明した。
「……というわけなんですが、闇の呪いについて、なにか心当たりはありませんか?」
「ちっ……まさか、このようなところで、その言葉を聞くことになるとはのう」
アルさんは、ものすごく苦い顔をしていた。
それだけじゃない。
巧妙に隠されているが、怒りも湧いてきているみたいだ。
「心当たりがあるんですね?」
「……ある」
「なら、知っていることを教えてくれませんか? ノキアさんをこのままにしておくわけにはいきません」
「それは……むう。呪いを解くことは賛成じゃが、しかし……」
「にゃー……反対なの?」
「なんか、まずいことでもあるん?」
「まずいことと言えばまずいことじゃな。できることなら、今回の件、お主らには関わってほしくない」
意外なことを告げられた。
アルさんは色々な助言をしてくれて、その上で、後は自分達の力で解決せよ……という立場にいると思っていたのだけど。
今回は、そうではないらしい。
自分が解決するから、俺達はおとなしくしていろ、と言いたいみたいだ。
俺達を除け者にしたいわけではなくて、単に、案じてくれているのだろう。
その証拠に、アルさんがソラとルナを見る目がとても優しく、それでいて不安そうに揺れている。
「と言っても、お主らのことじゃから、聞かんのじゃろうな」
「そうですね。どんな理由があったとしても、じっとして、他の人に任せるなんてことはできません」
「それに、ニーナの問題でもあるからなー。できることなら、ウチらで解決したいで」
「うんうん。せっかくお母さんと再会できたのに、忘れられたままなんて悲しいよ。絶対になんとかしたい!」
「みん、な……ありが、とう」
ニーナは涙ぐみ、お礼を言う。
その涙に応えるためにも、ここで退くという選択肢はない。
「知っていること、教えてくれませんか?」
「……はぁ、仕方ないのう」
アルさんが折れて、ため息をこぼした。
空いているソファーに座る。
ティナが新たに淹れてくれた紅茶を一口飲んで、静かに口を開く。
「ノキアの記憶を奪った闇の呪いは、とある禁忌指定遺物が使われた結果じゃろう」
「禁忌指定遺物……?」
「妾達、精霊族は、色々なアイテムを所有しておる。レインにやったオリハルコンや、勇者に返却した真実の盾。その他、伝説級のアイテムが色々とある」
「そういえば……ソラ達精霊族は、たまに外へ赴いて、そのようなアイテムを集めていましたね」
「なぜ、そのようなことをしていたのだ? コレクション欲でもあるのか?」
「阿呆」
「ふぎゃん!?」
アルさんのげんこつが落ちた。
アルさんの教育は、なかなかにバイオレンスだ。
「世には、色々なアイテムがある。中には、絶大な力を秘めた伝説級のアイテムが、ひっそりと埋もれていることもある。それを、愚かな人間が手にしたらどうなるか? 考えるだけでげんなりするわい」
「だから、先にソラ達精霊族が回収をして、厳重に管理をしているのですね?」
「うむ、その通りじゃ。一度も里に攻め込まれたことのない精霊族ならば、守護するという点において、一番適しておるからのう。で……話を戻すが、妾達、精霊族は色々なアイテムを集めているが……その中に、禁忌指定遺物というものがある」
名前からして、やばい感じがする。
普通に考えて、ろくでもないアイテムなのだろう。
「禁忌指定遺物というのは、まあ、想像はしているじゃろうが、ろくでもないアイテムのことじゃ。例えば、そうじゃな……治癒不可能な病を振りまいたり。あるいは、国一つを巻き込むような極大爆発を起こした挙げ句、その土地を未来永劫に渡って汚染するような爆弾もある」
「それは、また……」
「えげつないで……」
なんて厄介なアイテムが存在するのだろう。
アルさんの話を聞いて、思わず息を飲んでしまう。
「その禁忌指定遺物の中に、『黒の祝福』と呼ばれているアイテムがある。対象が持つ最善の願いを奪い取るという、悪質きわまりないものじゃ。お主らが闇の呪いと呼ぶ、それじゃろうな」
「母さん、よくそんなことを知っていますね」
「妾が、長の代わりにアイテムの管理をしておるからのう。それくらい、知っていて当然なのじゃ」
「なぜ、母上が管理をしているのだ?」
「長はボケて……いや、忙しいからのう。妾も、それなりに協力しているのじゃよ」
いや、とんでもないことを言いかけたような……?
アルさんなりの冗談であってほしいと願う。
「あれ? ちょっとまってください」
おかしなことに気がついて、声を挟む。
「黒の祝福とやらは、精霊族の里で管理されていたんですよね? それが、どうしてノキアさんに使用されているんですか?」
「むう……」
痛いところを突かれたという感じで、アルさんがひどく苦い顔に。
いよいよ話の核心に入るのだろう。
「あー……ちゃんと話をするが、ちと約束してくれんかのう? これからする話は、ここだけの秘密にしてほしいのじゃ」
「ということは、秘密にするだけの大きなことが起きた、ということなのですね?」
「うむ。察しの良い娘で助かる」
「わかりました、約束します」
フォンさんを見ると、しっかりと頷いてくれた。
そんな俺達を見て、アルさんは覚悟を決めた様子で続きを口にする。
「黒の祝福と……その他、いくつかの禁忌指定遺物が、精霊族の里から持ち出されるという事件が起きたのじゃ」
「えっ!?」
「そのような話、まったく聞いたことないのだ」
ソラとルナが驚いていた。
そんな二人に、話は最後まで聞けと言い、アルさんはさらに説明を続ける。
「今から数百年近く前のことじゃからな」
「でも、それだと、ノキアさんに黒の祝福が使われた時期と一致しませんが……」
「数百年前に持ち出されただけで、その時に使ったわけではない。目的は知らぬが……少し前に接触して、その時に使うなりしたのじゃろう」
「あ、それもそうですね」
「で……盗み出した者についてじゃが、その者の名前を……モナと言う」