作品タイトル不明
472話 闇の呪い
闇の呪い。
名前からして物騒なのだけど……
いったい、どういうものなのだろうか?
わずかに緊張しつつ、フォンさんの話の続きを聞く。
「その呪いは、Sランク並に厄介な代物で、一度かけられたら、解呪は不可能と言われています」
「そんなものが……」
「誰が開発したのか。どのような用途で使われていたのか。それはわからないのですが……闇の呪いが実在することは、確かなようです。今は廃れているようですが、歴史の文献などを見ると、ちらほらと記述がありますからね」
「フォンさんは、歴史の本も見ているんですか? それも商人と関係が?」
「いえ。こちらは、ただの趣味のようなものでして。各地を回るついでに、色々な文献を集めたりしているのですよ。歴史というものは、色々なものが積み重ねられていて、それを紐解いていくことは人類が刻んできた事件を追体験するかのような……っと、失礼しました。つい熱く語ってしまいました」
フォンさんは、恥ずかしそうに頬を指先でかいた。
こうして夢中になれるものがあるのは良いことだと思う。
俺は、そういうものがないためちょっとうらやましい。
落ち着いた時間ができたら、趣味でも探してみようかな?
「闇の呪いに関する話ですが……呪いを受けた人は、闇に喰われると聞いています」
「闇に喰われる……」
それは、ソラとルナが語る光景と一致する。
「にゃんか、怖い話だね……想像したら、尻尾がぶるぶるってなっちゃう」
「うん……なる、ね」
尻尾がないメンバーは、その例えがよくわからず、首を傾げるだけだ。
「呪いをかけられた者はどうなるのだ? よくある話だと、病魔に犯されるとか不幸になるとか……あるいは、死ぬとかになるが」
「ルナ、あまり不吉なことを言わないように」
「わかっているのだ。我とて、このようなことを口にするのは不本意だ。しかし、ありとあらゆる可能性を探り、追求しなければいけない。そうでなければ、ノキアを助けることはできぬかもしれん。そうであろう?」
ルナの言う通りだ。
ニーナがいるため、できる限り配慮する必要はあるが……
配慮をしすぎて浅い話になってしまい、結果、なにも得られないという事態は避けたい。
「わたし、なら……大丈夫。話、続けてほしいな……?」
「ホンマに平気か? 無理してないん?」
「ん」
「そっかそっか。ニーナは強い子やなー、よしよし」
「えへへ」
ティナに頭を撫でられて、ニーナはうれしそうにしていた。
三本の尻尾が、ぴょこぴょこと踊るように揺れている。
「って、すみません。今度は、俺達が話を遮ってしまいました」
「いえ、気にしていませんよ。それで、話の続きなのですが……」
フォンさんは神妙な顔で、残りの言葉を口にする。
「呪いの効果は、実のところ、よくわかっていないのです。軽く調子を崩しただけの人もいれば、一ヶ月以上寝込んで苦しんだ後に亡くなった人もいるらしいです」
「怖い話だね……」
「ただ、共通している点が一つ。それは……闇の呪いは、対象の一番大事なものを奪うらしいです」
「一番大事なものを奪う……?」
「例えば、とある富豪が闇の呪いを受けました。すると、その富豪は次々に商売に失敗して、一年と保たず破産してしまいました。彼が一番大事にしていたものは、金でした」
「なるほど……」
「他にも、恋人を失った人、子供を失った人、国を失った人……色々な記述がありました」
フォンさんは、さらりと、とんでもないことを口にした。
国を失った人もいるとされているらしいが……
だとしたら、闇の呪いは、相当強力な呪いということになる。
個人だけではなくて、効果が周囲に及び……
一国を傾けてしまうなんてこと、普通はありえない。
どれだけ強力な呪いなのか?
想像するだけで恐ろしい。
「ですが……その話が確かだとするのなら、なぜ、私は記憶を失ったのでしょう?」
ノキアさんが不思議そうに……それと、気まずそうに言う。
確かに、謎だ。
ノキアさんの一番大事なものは、普通に考えるなら、ニーナだと思う。
闇の呪いをかけられたのならば、ニーナを失うはず。
しかし、現実はそんなことになっていない。
ニーナではなくて、自身の記憶を失うことに。
もしかしたら、自分は娘が一番大事ではないのかもしれない。
そのように考えていたのかもしれない。
そんな恐れを抱いているらしく、故に、ノキアさんは気まずそうにしているのだろう。
「うーん……あっ、それは、こういうことじゃないかな?」
カナデがなにか思いついた様子で、尻尾をピーンと立てて言う。
「きっと、ノキアさんは家族の記憶を大事にしていたんだよ」
「家族……の?」
「そうそう。ニーナのこともそうだけど、ニーナのお父さんのこと。あと、それだけじゃなくて、他の仲間のことも親しい友達も……みんなみんな、大事に思っていたんじゃないかな? 一番なんて決められないくらい、全部大事にしていたの。だから、それらを呪いに奪われた……みんなとの大事な思い出、記憶がなくなったんじゃないかな?」
「……あ……」
その可能性は考えていなかった、というような感じで、ノキアさんが目を丸くした。
なるほど、と納得する。
断言はできないが、カナデの話は、限りなく正解に近いような気がした。
みんなを大事にして、思い出を大切にする。
そんな人だから、ノキアさんは記憶を呪いに奪われることになった。
「せやな。ウチも、そう思うわ」
「むう……大事な人との思い出を奪うなんて、すごく質の悪い呪いなのだ!」
「許せない話ですね。いったい、誰がそのような呪いをノキアさんに?」
みんな、自分のことのように憤る。
優しいから他人事ではいられないのだ。
俺は、そんなみんなのことをとても誇らしく思う。
「解呪方法は知りませんか?」
「すみません、そこまでは……」
フォンさんは申しわけなさそうに、首を横に振った。
とはいえ、そこで謝る必要はないと思う。
原因が特定できただけでも、かなりの進歩だ。
「ソラとルナは、どうだ? 魔法で解呪できないか?」
「むーん……我ら精霊族に不可能などない! と言いたいところではあるが、ぶっちゃけ、かなりむずいのだ」
「確かに、よくよく調べてみると呪いがかけられているみたいですが、とても複雑な構造で、なおかつ強い力があり……正直、ソラ達ではどうしたらいいか、わかりません。ですが、母さんならあるいは、と思います」
「アルさんか……」
このところ、何度もアルさんのお世話になっている。
それなのに、また力を貸してもらうのは申しわけないと思うのだけど……
でも、ノキアさんのためニーナのため、できることはなんでもしたいと思う。
「また頼りにして申しわけないと思うけど、それが一番確実だな。アルさんに診てもらえないか、頼んでみよう」
「あの……アルというのは?」
ノキアさんが不思議そうに尋ねてきた。
「我らの母上なのだ!」
「母さんは、ソラ達よりも遥かに強力な魔力を持っていて、とても深い知識を持っています」
「母上ならば、なにかわかるかもしれないのだ。伊達に長生きはしていないからな。ふふん、こういう時はおばあちゃんになっていることに感謝なのだ」
「誰がおばあちゃんであるか、バカ娘!」
「ふぎゃんっ!?」
突然、ルナの頭に落ちるげんこつ。
それを実行したのは……
「アルさん!?」
「母さん!?」
「おいっす」
いつの間にか姿を見せていたアルさんは、気軽に挨拶をするのだった。